墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
29 / 212
第三章 魔族たちの街

5 情報集め

しおりを挟む
 しばらく重苦しい沈黙が流れた。
 ふたりが話をする間、村人たちは気をきかせて席を外してくれているのだが、そうしてくれて心底よかった、と思った。

「そ、……んなの。そんなこと、言われてもっ。い、いまさらっ……」
「そうだな。『今更』だ。すでにそなたの村と我らは互いに多くの血を流し、傷つけ合い、恨みの上に恨みを重ねてきてしまった。互いの家族や親族、恋人を殺し合い、傷つけあってきたことは、その記録と記憶は……今後も決してなくなるわけではない。もうもとに戻ることは決してできないだろう。それは私も理解している」
「…………」

 頭がぐらぐらする。
 リョウマはその場に肩を落として座り込んでいたが、やっとのろのろと目をあげた。

「……だけど。そんなの、証拠はあんのかよ」
「なんだと?」
「だって。あんたがいま言ったことだけで、俺に何が信じられる? 俺が昔のことをよくわかってなかったのは本当だけどさ。あんたはあんたで、自分に都合のいいことだけ言ってるかもしんねーじゃんかよ」
「……ふむ。一理あるな」

 こんなひどい言い方をしたら腹を立てるかと思ったのに、魔王は至って冷静だった。目の奥にちらりとでも怒りの炎が燃え立つかと思ったのに、リョウマの安い挑発なんかには針の先ほどもブレないらしい。

(くっそう……)

 悔しいが、それが結局千年も生きた奴と、たかだか二十年ほど生きただけの若造の自分との差なのだろう。いわゆる「経験の差」というやつだ。

「信じられぬというなら、いくらでも調べてみるがいい。十分に情報を得て、そのうえで判断せよ」
「ん? ……ん、おお」
「そちらの村では、そもそも残された情報が少なすぎたであろうし。確か、文字の読み書きをするにも苦労する村人がけっこういるのであろう? こちらの村人に聞いてみるも、魔都の人々に聞いてみるもそなたの自由。魔都の中心部には図書館や博物館もあるゆえ、そこで様々な古代からの文献に当たるのもよし。そのためなら、別に私もそなたの行動を制限するつもりはないからな」
「えっ? マジかよ。じゃあ村に──」

 帰せよ、と言う前にあっさりと「それは却下だ」と返答されてしまった。またもやリョウマはぶーたれる。

「なんだよ~っ、ケチぃ! いいじゃねえかよ、ドケチいい!」
「……まったく、子どものようだな、そなたは」

 「そこがいいのだが」なんて口の中で言って含み笑っている横顔がまた妙に美しく見えてしまって、どぎまぎする。するが、必死で顔には出さないように頑張った。
 いやしっかりしろ、俺の理性!

「いきなりこちらの村へ飛んできてしまったが、魔都の中も案内するぞ。どこへでも手間を掛けずに行けるよう、必要な通行証もすぐに用意させよう。ただし、容姿を変える魔法は掛けさせてもらうし、いざと言う時のため、顔はフードなどで隠しておくことをお勧めするがな」
「……わ、わかった」

 それはそうだろう。
 魔都にはきっと、《BLレンジャー》に家族や親族を傷つけられた人がたくさんいるに違いない。まあ《鎧装》で戦うことがほとんどだったから素顔までは知られていない可能性が高いが、それでも知っている者がいないわけではないだろう。下手に素顔で歩き回るのは危険すぎるというものだ。レンジャーに恨みを持つ者たちに袋叩きにされたって文句は言えない。
 だが実際、ここから逃げられない立場で囲まれたら、一体どうしたらいいのだろうか。腕っぷしにはそれなりに自信はあるが、今の自分は《鎧装》にもなれないのに──。

「案ずるな。もちろん、私も同行する」
「はあ? なんでだよっ」
「魔都と魔族についてそなたに知ってもらうことは、魔族全体にとって大いなる利益につながるからだ」
「ん……んん?」

 わかったような、わからんような。

「それに、魔都には色々とそなたの知らぬ見どころがあるんだぞ? そなたをいろんな場所に連れていきたい。美味しいもの、美しい景色、にぎやかな祭り、それにロマンチックなカフェ。すでに執事やメイドたちから『おすすめデートコース』なる情報を大量にもらっているし」
「おすすめデー……ってドアホウ! なんっで俺が、てめえと楽しく魔都デートなんぞしなきゃなんねーんだっつのクソどアホーウ!」
「あっははははは!」

 やっぱり楽しそうに大笑いされ、リョウマはぷるぷる震えながら真っ赤になって黙り込んだ。
 本当にヒマか、この魔王。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...