墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

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第三章 魔族たちの街

3 人間たち

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「さすが、気がついたか。ここには魔素、いわゆる《瘴気》は存在しない」
「なんだって!?」

 予想外の説明に、思わずぽかんとすぐ目の前にある魔王の顔を凝視してしまった。

「いまの防御壁が、周囲の《瘴気》や《魔素》を遮断している。のみならず、姿は隠させているが外敵の侵入を防ぐための兵らも周囲に配置している」
「そこまで? いったい何のために……」
「わかりきっているだろう?」

 言ってエルケニヒが視線をやった先に目をやって、リョウマは息が止まってしまった。
 牛や羊を見たときから「魔獣ではないな」と思っていたが、まさかその近くを歩いたり、農作業をしたりしているのは──

「にっ、人間? まさかここに、人間がいるのか?」
「その通りだ。『百聞は一見に如かず』。まずは下に降りよう」
「えっ。ちょま、まってくれ……うひゃあっ」

 またもやすごいスピードで降下されてしまい、血圧が急激に下がって一瞬くらっと目の前が暗くなった。と、足裏にふわっと草の感触がして、目をあけるともうそこは牧草地の真ん中だった。

(なんてこった……)

 のどかな田園風景だ。どこからどう見ても、ただただ平和な景色だった。
 のんびりと牛や羊を追う少年少女。農作業をしている男女。レンガと木でできた牧歌的な家々の煙突からはうすく煙があがり、ちょっと美味そうな料理のにおいがしてきている。
 きょろきょろと首をめぐらし、鼻をうごめかせているうちに、地面に降り立ったエルケニヒに気がついたらしい村人たちが、すぐにわらわらと近づいてきた。

「魔王さま! いらっしゃいませ」
「魔王様、お久しぶりにございます」
「本日はどのようなご用件で」

 まず寄ってきたのは故郷の村にもいる古老たちのような老人たちだった。その後ろに老若男女の村人が礼儀正しく並んでいる。
 と、小さな子どもたちが親の制止をふりきって「わあっ」と言って駆け寄ってきた。巨躯の魔王の足元、衣のすそにじゃれついて、競うようにまとわりついている。

「まおうさま、いらっしゃい!」
「まおうさま、こんにちは!」
「きょうはどうしたの?」
「まおうさま、またお空をとばせてよう!」
「いやよ、今日はお外の楽しいお話をしてもらうのよう!」

(こ、これって……いったい)

 頭がくらくらしてくる。いったいどういうことなんだ。魔都のすぐそばに、こんなふうに人間たちだけが暮らしている村が存在したなんて。しかもみんな、なにか不満を抱いている様子もなく幸せそうだなんて。
 子どもたちのうちの一人、小さな少年をひょいと肩の上に抱き上げてニコニコしている魔王も信じられない。その絵づらがどうしても現実のこととは思えなかった。なによりその、奇妙に優しそうな顔が気に食わない……が、それがなぜなのかはよくわからなかった。

「これっ、なんだよ。一体どーゆーことだよっ!」
「まあ、そう興奮するな。話は村長むらおさの家でゆっくりとしよう。おさよ、急なことで勝手を言うが構わないだろうか?」
「無論のことにございます。ささやかながら、おもてなしの準備をいたしますゆえ、その間は我が家でごゆるりとお過ごしくださりますよう」

 白髪に長く白いひげの老人が、しわに埋もれてほとんど見えない目をさらに細めてにっこり笑った。他の村人たちも同じような明るい笑顔だ。特にひきつってもいないし、空虚でもない。そこに嘘はなく、ごく自然に笑っている顔ばかりに見える。

「ところで、そちらのお方はどのようなご関係で?」
「我らと同じ、人間でいらっしゃるようにお見受けしますが」
「ああ。そなたらにも話したであろう?《BLレンジャー》のリーダー《BLレッド》だ。今回、わけあってこちらへ視察に訪れた。しばらくこちらに滞在するゆえ、よしなに頼む」
「おお! なんと。ではこちらが」
「なんですって、《びーえるれっど》?」
「あの若者が?」
「びーえる?」
「信じられない」
「まだほんの子供じゃないか」
「なんとも可愛い少年ですなあ」

 なんだか聞き捨てならない言葉もちらほら聞こえるが──そしてその『びーえる』呼びはちょっと勘弁してほしい──今はそれに構ってはいられなかった。村長がすぐに自宅に案内してくれて、素朴な木づくりのリビングに案内し、お茶をふるまってくれるのを待ちかねて、リョウマは魔王を質問攻めにしはじめた。

「なんだよ、どーゆーこったよ説明しろよ! ここの人たちは一体なんだ? なんでこんなとこに、こんなにたくさんの人間がいる? いったい何の目的で──」

 矢継ぎ早の質問を、エルケニヒは片手であっさりと制した。

「まあ慌てるな。順を追って説明する。その前に、まずはお茶をいただこうではないか」
「茶なんてどーでもいいんだよっっ!」
「ひっ」

 思わずテーブルを大きな音をたてて叩いたら、茶菓子を運んできた村の女性が身をすくめて固まってしまった。

「あ。ご、ごめん……」
「リョウマ」
「うっ」
 おそるおそる見れば、魔王に恐ろしい目で睨まれている。
「さして裕福でもない中から、わざわざふるまってくれているのだ。まずはおとなしくいただけ。そうするのが礼儀であろう? 話はちゃんとしてやるゆえ、ともかく落ち着け。座るのだ」
「う、……うん」

 完全に出鼻をくじかれてしまって、リョウマはしかたなく素朴な木づくりの椅子にすとんと腰をおろした。
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