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第三章 魔族たちの街
2 山間の村
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魔王の城はやたらに大きくて、かなり歩いてもまだやっと、庭園らしい場所の中ほどまでしか到達しなかった。
途中でいろんな魔族たちを目にした。ほとんど人間みたいな体をしているのもいて、そういうのは大抵、目だけが爬虫類になっていたり、耳が尖っていたりする。そうでないものは今度は逆に、おそろしく人間の姿から離れた者たちだった。
たとえばタコかクラゲのような、うねうねした何本もの足で廊下を歩いていくメイドらしい者がいたり、ほとんど全体がヘビそのもので、そこにちょこんと両腕だけがついたような体をした庭師らしき者がいたりする。
あまりに見慣れない姿の生き物がうじゃうじゃいるので、リョウマはついつい、きょろきょろしっぱなしになった。
「気になるのはわかるが、あまりきょろきょろするでない。そなたらもそうであろうが、こちらでもそれは無礼に当たる」
「あっ。ああ、うん。そうだよな……ごめん」
口ではつい謝ってしまいつつも、姿といい仕事のやりようといい、人間の村とはずいぶん違う彼らのことを、無意識に目で追ってしまう。
魔王は軽く吐息をつくと、自分のマントの下にひょいとリョウマを抱きこむようにした。
「んお? なっ、なにすんだよ……うひゃうっ?」
いきなり足元から地面が消えた。
びっくりして、思わずがっしりと魔王にしがみついてしまう。
いや、《鎧装》したときには自分だって空を飛べるのだから、本来であればそこまで驚くようなことではないのだが。
そう。つまり魔王はいま、片腕にリョウマを抱き上げた状態で宙を飛んでいたのだ。ちょうど、大人の男が幼児を抱き上げるような体勢で。
「なっ、ちょっ……なにすんだよっ」
魔王城の広大な敷地が眼下に遠くなり、美しい庭園が見渡せたかと思うと、周囲の魔都の様子が一望できる状態になる。
正直言って、かなり怖い。高所恐怖症のはずはなかったけれど、自分が飛べないという状況でこの高度を飛ぶのは恐ろしすぎた。
「どこいくんだよ、下ろせようっっ」
「暴れるな。今のそなたでは、真っ逆さまに落下することになるぞ」
「うぐうっ」
言われて思わず、ひしっと魔王の頭部にしがみついてしまう。魔王の両腕はリョウマの体をしっかりと抱えてくれていて安定しているのだが、そうは言ってもここは空の上だ。もしも万が一、取り落とされでもしたら一大事である。
《BLレッド》になれない自分は、ただの非力な人間の男にすぎない。こんな高度から落ちれば一巻の終わりだ。
魔王の飛ぶスピードはかなりのもので、魔都の上空をぐんぐん横切って郊外へ出ると、遠くに山々が見える方角へ向かってまっすぐに飛んだ。
「そら。もう見えてきたぞ」
「えっ?」
ほとんどびっちりと両目をつぶっていたリョウマは、その声で薄く目を開けてみた。
あれはなんだろう。山間に流れる川と、湖。その周囲に、小さな集落があるのが見える。その近くには牧草地が広がっていて、遠目にも放牧された牛や羊などの姿が見えた。
集落を中心に、山の稜線のあたりまでうっすらと半球状の金色に輝くドームが覆っているように見える。と思ったら、魔王はまっすぐにそのドームに突進していった。
「って、おい! ぶっ、ぶつかるっ」
「問題ない。そのまま私につかまっていろ」
「うわあああっ」
金色の膜がすぐ目の前に迫ったかと思うと、次の瞬間にはもうすぽんとその中にいた。
(あれっ……?)
空気がひどくさわやかに感じる。今まで気にしていなかったが、急に体が軽くなったような感覚があった。
これは……まさか。
「さすが、気がついたか。ここには魔素、いわゆる《瘴気》は存在しない」
「なんだって!?」
予想外の説明に、思わずぽかんとすぐ目の前にある魔王の顔を凝視してしまった。
途中でいろんな魔族たちを目にした。ほとんど人間みたいな体をしているのもいて、そういうのは大抵、目だけが爬虫類になっていたり、耳が尖っていたりする。そうでないものは今度は逆に、おそろしく人間の姿から離れた者たちだった。
たとえばタコかクラゲのような、うねうねした何本もの足で廊下を歩いていくメイドらしい者がいたり、ほとんど全体がヘビそのもので、そこにちょこんと両腕だけがついたような体をした庭師らしき者がいたりする。
あまりに見慣れない姿の生き物がうじゃうじゃいるので、リョウマはついつい、きょろきょろしっぱなしになった。
「気になるのはわかるが、あまりきょろきょろするでない。そなたらもそうであろうが、こちらでもそれは無礼に当たる」
「あっ。ああ、うん。そうだよな……ごめん」
口ではつい謝ってしまいつつも、姿といい仕事のやりようといい、人間の村とはずいぶん違う彼らのことを、無意識に目で追ってしまう。
魔王は軽く吐息をつくと、自分のマントの下にひょいとリョウマを抱きこむようにした。
「んお? なっ、なにすんだよ……うひゃうっ?」
いきなり足元から地面が消えた。
びっくりして、思わずがっしりと魔王にしがみついてしまう。
いや、《鎧装》したときには自分だって空を飛べるのだから、本来であればそこまで驚くようなことではないのだが。
そう。つまり魔王はいま、片腕にリョウマを抱き上げた状態で宙を飛んでいたのだ。ちょうど、大人の男が幼児を抱き上げるような体勢で。
「なっ、ちょっ……なにすんだよっ」
魔王城の広大な敷地が眼下に遠くなり、美しい庭園が見渡せたかと思うと、周囲の魔都の様子が一望できる状態になる。
正直言って、かなり怖い。高所恐怖症のはずはなかったけれど、自分が飛べないという状況でこの高度を飛ぶのは恐ろしすぎた。
「どこいくんだよ、下ろせようっっ」
「暴れるな。今のそなたでは、真っ逆さまに落下することになるぞ」
「うぐうっ」
言われて思わず、ひしっと魔王の頭部にしがみついてしまう。魔王の両腕はリョウマの体をしっかりと抱えてくれていて安定しているのだが、そうは言ってもここは空の上だ。もしも万が一、取り落とされでもしたら一大事である。
《BLレッド》になれない自分は、ただの非力な人間の男にすぎない。こんな高度から落ちれば一巻の終わりだ。
魔王の飛ぶスピードはかなりのもので、魔都の上空をぐんぐん横切って郊外へ出ると、遠くに山々が見える方角へ向かってまっすぐに飛んだ。
「そら。もう見えてきたぞ」
「えっ?」
ほとんどびっちりと両目をつぶっていたリョウマは、その声で薄く目を開けてみた。
あれはなんだろう。山間に流れる川と、湖。その周囲に、小さな集落があるのが見える。その近くには牧草地が広がっていて、遠目にも放牧された牛や羊などの姿が見えた。
集落を中心に、山の稜線のあたりまでうっすらと半球状の金色に輝くドームが覆っているように見える。と思ったら、魔王はまっすぐにそのドームに突進していった。
「って、おい! ぶっ、ぶつかるっ」
「問題ない。そのまま私につかまっていろ」
「うわあああっ」
金色の膜がすぐ目の前に迫ったかと思うと、次の瞬間にはもうすぽんとその中にいた。
(あれっ……?)
空気がひどくさわやかに感じる。今まで気にしていなかったが、急に体が軽くなったような感覚があった。
これは……まさか。
「さすが、気がついたか。ここには魔素、いわゆる《瘴気》は存在しない」
「なんだって!?」
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