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第二章 魔王エルケニヒ

14 クロワッサン

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 ぶつくさいいながらも、やっぱり非常に美味な朝食でしばらく怒りを忘れ、リョウマは腹いっぱいになるまでもりもりと料理を楽しんだ。
 朝餉は夕餉ほど重いものは多くないが、それでも柔らかい鶏肉の入ったスープがでてきた。口に入れるだけでほろほろっと肉がくずれて、非常にうまかった。
 香りのいいバターをたっぷり練り込んだ、歯を当てるとさくさくするクロワッサン。まずこれが美味すぎる。そして新鮮な野菜をふんだんに使ったサラダ。ぷるんと新鮮な卵が顔をみせているベーコンエッグ。とれたての、果汁いっぱいのフルーツの数々……。

「ほんっと贅沢だな、てめえもぐもぐ。いつもいつも、こんなうまいもの食ってんのかはぐはぐ。許せねえもぐもぐもぐ」
「文句を言うか食べるか、どちらかにしてはどうだ」

 品よくフォークとナイフを使いながら、魔王はやっぱり幸せそうに笑っている。
 朝の陽の光の中で魔王のくせに無駄にきらきら輝かせている笑顔を、リョウマはじろりと睨んだ。

「うるせえなあ! 食べ物を粗末にしちゃいけねえだろっ。全部おいしくいただくかんなっ。デザートもいただくかんなっっ」
「うんうん。そなたはそれでいいよ」
「ううっ……?」

 なんだか調子が狂う。その金色の瞳に浮かんでいる温かな光が何を意味しているものかぐらい、いくら鈍感で男としてダメダメな自分でもわかる。

(ほんっと、チョーシ狂うぜ……)

 美味しすぎて手が止まらなくなってしまうクロワッサン──いや本当にこれは止まらない、だれか止めてくれ──の五個目にばふっと食いつきながら、リョウマはちょっと目線をさまよわせた。
 本当に、調子が狂う。
 ずっと「不倶戴天の敵」と教えられて育ち、《BLレッド》となってからもそう信じて戦ってきた相手が、実はこんな男だったなんて。
 悔しいが見た目はまがまがしくも美しいし、ちょっと意地悪な性格だとはいえ配下のみんなにはどうやらものすごく尊敬されているようだし。魔力と戦闘力は間違いなく世界一で、兵たちの統率力にも優れている。けっして「恐怖」で自国の民を支配しているようでもない。純粋に「慕われている」のだ。
 要するに、曇りなく見ればかなり「できた男」であり「できた君主」だと言える。悔しいけれど。
 しかも、夜の手管てくだまで──

「わあああああっ!」
「なんだ急に。一体どうした?」

 思わず頭を掻きむしって絶叫したリョウマを、魔王が不思議そうに見た。周囲で食器のあげさげなどの世話をしていた侍従たちもびっくりしてこちらを凝視している。
 急に恥ずかしくなった。

「なっ、ななな、なんでもねええっ」
「ならいいが。食後の飲み物はどうする? 私はコーヒーをいただくが」
「あ、俺は牛乳で。そのあとオレンジジュースと、最後にコーヒーも欲しい」
「マンゴーラッシーもあるがそれは」
「あっ、そうなの? それもそれも!」
「了解だ」

 あまりにもナチュラルに答えたせいか、魔王はまたくすっと笑ってそう言った。
 彼がくいと顎を上下させただけで、侍従ガガノフがすっと一礼して周囲の侍従たちに目配せをする。それだけですべてがスムーズに運ぶのだ。もう見慣れたが、やっぱりすごい。こんな状況、人間の村の方では見たことがなかった。
 執事や侍従たち、侍女たちの様子をそれとなく観察していると、本当に魔王エルケニヒを崇拝していて、彼に仕えることを誇りに思っているのが伝わってくる。
 酷薄でひどい奴だと思い込んできたが、魔王は自分の味方に対しては非常に温情的なのだ。理不尽な要求なんてしないし、むしろ使用人を非常に大事にしているのがわかる。

(くっそう……)

 なんだろう。どうしてこうも、「負けた」気分になるのだろうか。
 というか、どうして自分たちはこんな男に対して何百年も敵対心を燃やして戦い続けてきたのだろう。

「どうした?」

 急に手が止まってしまったリョウマを不審に思ったらしい、やや心配そうな目で魔王がこちらを見ているのに気づいて、「な、なんでもねえよっ」とリョウマはあわてて食事を再開させた。
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