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第二章 魔王エルケニヒ
13 執事ガガノフ
しおりを挟む「なっ……か、勝手なこと言うなあ! てめえが勝手にこんなマネしてんだろーがよっ。なんで俺が、てめえのために頑張らなきゃなんねーんじゃクソボケぇ!」
厚い胸板をどかすか叩いて抗議するが、魔王は蚊に刺されたほどにも感じていないようだった。
「ところでお前。なんか、顔の色が変わってね……?」
「ああ。これか?」
魔王はニヤリと笑うと、片手で自分の顎をするりと撫でた。間違いない。前は濃い茶色の肌をしていたはずが、今はハッキリと紺色の肌に見えるのだ。もちろん、普通の人間ではありえない色である。
なにか重大な秘密でもあるのかと一瞬だけ身構えたが、魔王はあっさりこう言った。
「魔力の多い者ほど、自分の容姿を自在に変えられるからな。その時の気分でけっこう変えるぞ」
「へ~……」
青い肌に金色の目はよく映えている。銀色の髪はそのままだが、そちらも黒にしたり金色にしたりと自在に変えられるらしい。あまり人間では見かけない、紫や赤、桃色にもできるのだと、魔王はこともなげに言った。もちろん目の色も変幻自在。
「夢見があまりよくなかったようだが、もう寝なくていいのか。体はどうだ」
「いいわけねーだろ! ったくてめえ、なんでもかんでも《魔族の体液》で解決しやがってよー。人の意見を聴けや、いい加減!」
「ふふ。そう言うわりには、ずいぶん楽しんでいたようだったがな」
「うるっせえ! たのしんでねえええ!」
リョウマはガバッと起き上がった。
「いい加減にしろや。っていうか、もういいだろ? 俺を村へ帰せってんだよ」
「断る」
「おいいいい?」
「そなたを奪い返すべく、そなたの仲間たちがやってきたことは認める。が、四名では魔都の入口にすら到達できずに撤退したぞ。七将軍の一名にすら勝つこと叶わずに、な」
「な、なんだと……?」
そうか。
仲間たちはちゃんと俺のことを心配して、ここへ来ようとしてくれたんだ。
思わずほっとしてしまう。しかし。
「って、大丈夫なのかよ。まさか、だれかケガとか──」
「案ずるな。そこはきちんと『手加減せよ』と下知してあるわ」
「あ、そう……じゃなくって! 話をはぐらかすんじゃね~! 俺をあっちへ帰せっつーのー!」
「だからそれは断る。そなたはもう、私の配殿下だ」
「だから勝手に決めんなっつの! 俺はそんなもんになった覚えはねえ」
「口ではそんなことを言うが。口づけひとつでとろとろに蕩けて、下の口はすぐに『もっと、もっと』とおねだりを始めるくせに」
「うっ、ううううう、うるっせえわ──!」
ブチ殺すぞ、この野郎。
真っ赤になってギャンギャン言っていたら、扉の外から控えめな声がかかった。魔王がすぐに「入れ」と応えを返す。すぐに、前回ほどの人数ではないが侍従や侍女たちがするすると入室してきた。
「おはようございます、陛下。そしてお初にお目にかかります、配殿下」
侍従や侍従たちの先頭に立って品のいいお辞儀をしている者は、どうやら魔王の執事らしい。爬虫類の顔をした、ぬっと図体のでかい男だった。顔はまるきりワニそっくりだ。が、身だしなみはきちんとしていて、物腰も言葉づかいも丁寧で物柔らかである。ぴっちりとした洋風の黒いスーツや白い手袋を着こなしていて、それが不思議によく似合った。
(んん……?)
なんだかとても意外な気がした。魔族といえばすべて、理性もなく本能に任せて暴れまわるだけの下劣で暴力的な奴らだとばかり思っていた。リョウマは自分の認識の浅さと狭さをこっそりと、そしてほんのちょっとだけ恥じた。
執事は、名をガガノフと言うらしい。
彼が言うには、普段であればまずは湯あみをして衣服を整え、それから朝食になるのだそうだ。
「朝餉の支度はできておりますが、湯あみをお先になさいますか」
「そうだな。だが──」
──ぐう~ぎゅるるるる、ぐるおおおおう。
「ひええええっ?」
「朝餉」の一言が聞こえた瞬間、またもやリョウマの腹の虫が雄たけびをあげた。
「うわわわ……く、くっそう!」
かあっと全身が熱くなる。
「あ~っははははは!」
魔王が腹を抱えて大笑いする。心底楽しそうだ。ちょっと目尻に光るものまでにじませているのが、さらに小面憎い。
「ま、まったく。そなたといると退屈せぬわ」
「わっ、笑ってんじゃねええっ。しょーがねーだろーが、生理的なもんはあっ。大体っ、どかすか腹が減るよーな真似してんのはてめえじゃねえかよ毎回毎回っ!」
「確かにな。……わかった。ではまずは朝餉をこれへ」
「はは」
そんなわけで、今回は広い寝室の一角にテーブル席がしつらえられ、そこで朝餉をいただく運びとなった。
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