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第二章 魔王エルケニヒ
12 人間の村
しおりを挟む「う~ん。うう~ん……」
ひどい悪夢を見まくった挙げ句、ようやく意識が浮上してきた。悪夢はもちろん、あの魔王が自分の体を好きなように貪り味わうというひどい内容だ。
「やめっ……くそっ、バカ、バカやろっ……」
なにより最悪なのは、魔王の愛撫に自分の体がどんどん勝手に反応してしまうことだ。あの男の手管は思った以上に巧みで、巧みすぎて、リョウマなんかには到底太刀打ちできないものだった。
《武神鎧装》して《BLレッド》になった自分なら、決して互角とまでは言えなくとも、それなりにあの男に対抗する術もあるのに。こと「ベッドの上での対決」となると、どうしてこうも自分は無力で不甲斐ないのだろう。
「うう~っ……」
冷や汗をかきまくって、体じゅうがじくじくと気持ち悪い。
なかなかその悪夢から覚めることができずに、必死になってもがいていると、誰かの手がなだめるように背中をとんとんと叩き、髪を撫でる感触がした。
……ひどく、優しい。
(かあ、さん……?)
ふっと緊張がやわらいだ。
こんな風に自分を抱きしめて眠ってくれたのは、かつて、ずっとずっと幼い頃に死んでしまった母親ぐらいだと思う。
その母の面影も随分と遠くへかすんで、今のリョウマにはハッキリと思い出せないほどの記憶でしかないが。あの匂いと、優しい声はなんとなく今でも思い出せる。
母に限らず、人間の生き残りが暮らす村での人々の寿命は決して長くない。みんな、これほどまでに厳しい環境に適応しきることができないのだろう、と古老たちは言う。母もそうだった。父親はもっと早くに事故で死んで、すでに妊娠していた母はひとりで自分を生み、その後の「肥立ち」がよくなかったとかで、リョウマがまだ幼児のうちに、ちょっとした風邪をこじらせただけで死んでしまった。とてもあっけなく。
人間たちだけの村の生活は、それだけ厳しいものなのだ。
「うう……ん?」
接着剤で閉じられているのではないかと思うぐらい重たい瞼をなんとか開くと、すぐ目の前に青みの強い肌があった。胸筋が美しく発達したたくましい胸板だ。その下には彫刻を思わせる腹筋がきれいに並んでいる。
(む、胸板? 腹筋……???)
そこでようやく、ばっちりと目が覚めた。
カーテンと天蓋の垂れ布を透かして忍び入ってくる陽の光が、ぼんやりと天蓋の中を照らしている。紺の敷布の上に真っ白な長い銀髪が寝台の上に波打ち、あふれていた。
精巧な美術品のように見える男の顔が自分の顔のすぐ上にある。髪と同じ色をした長い睫毛がぴたりと閉じられていて、その下に濃い陰をつくっている。そのせいで、余計にこの男の美貌が際立つように思われた。
お互い、柔らかい生地の前袷の夜着姿だ。魔王は黒。自分は白。どちらにも繊細な金糸の刺繍がほどこされている。
エルケニヒの腕は片方がリョウマの頭の下、もう片方が背中に回されており、大きな体躯にすっぽりと包まれるような状態になっていた。
「うげっ! お、俺、なんでっ……」
「もう少し眠っておけ。まったくそなた、意外と体力がないのだからな」
「ひえっっ!?」
てっきり眠っているものと思っていたら、眠った顔のまま魔王がしゃべったからびっくりしてしまった。自分がネコであったなら、全身の毛が爆発状態になっていただろう。
エルケニヒの瞳がぱっちりと開き、リョウマを見下ろしてきた。
「いくら今は《レッド》としての能力が失われているとは言え、もう少し頑張ってもらいたいのだが」
「なっ……か、勝手なこと言うなあ! てめえが勝手にこんなマネしてんだろーがよっ。なんで俺が、てめえのために頑張らなきゃなんねーんじゃクソボケぇ!」
厚い胸板をどかすか叩いて抗議するが、魔王は蚊に刺されたほどにも感じていないようだった。
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