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第二章 魔王エルケニヒ
10 褥の上で ※
しおりを挟む「んっ、んんっ……ん、や、やあ……やめ、ろってえっ……」
彼の唾液を感じたと思ったら、すぐにまたぼうっと脳の芯が痺れはじめた。
魔の都というぐらいだから、他の地域よりも魔素は多いのだろうけれども。それにはほとんど反応しなかったリョウマの体が、魔王の深い口づけひとつでまたもやじわじわと熱を帯びはじめている。やはりこの魔王自身の体液が、なによりリョウマにとって毒であるらしい。
つまりそれが「相性がいい」とこいつが言う所以か。冗談じゃない!
「んあ……ふう、ん……っ」
「まことに憎らしい。その姿も……声も。可愛らしい表情も、仕草も。後ろの可愛らしい穴も。そなたのすべてが、私の理性を狂わせる」
「いやしっかりしろおお!」
「断る。誰しも、自分で引き起こしたことの責任は取らねばな」
そんなことを囁きながら、ちゅ、ちゅっと音を立てて耳や項にもキスを落とされるだけで、腰がふにゃふにゃに砕けてしまいそうだ。
「んあっ……やだ、目を覚ませアンタの理性! 仕事しろお! 頼むからしっかりしろってえええ! んううう~っ」
リョウマは大きな魔王の背中を力なく叩いて半泣きの声をあげた。が、その願いもむなしくリョウマの体は大きなベッドに沈められていった。
忌々しいことに、今回勝手に着せられている夜着は生地が薄いうえに袷になった前開きのものだ。そのあわいからするりと分厚い魔王の手が忍び入ってきて、リョウマは「ひっ」と身を竦めた。
肌の上を優しく愛撫される。勝手知ったるように、男の指先が胸の尖りをとらえてくりくりと弄った。
「あ、ん……っ。やめ、く、くすぐってえ……っ」
思った以上に甘ったるい、鼻にかかった喘ぎが漏れ出てしまって羞恥がマックスになってしまう。魔王はリョウマをあやすように口づけを繰り返しながら、唇を下方へと少しずつずらしていった。
「あっ……?」
胸の先にある小さな粒を、ねっとりとその舌に捉えられる。じゅっと音を立てて大きく吸われてから、ぺろぺろと舌先に愛撫され、こねくりまわされているうちに、ただただくすぐったかったものが違う欲望を孕んで下腹部を刺激しはじめた。
「やっ……やっめ、あ……あっ」
必死に逃げ出そうともがくのだが、足の間には硬くてどっしりした魔王の腰がとっくにねじ込まれていて、びくともしない。そもそも互いの体重差、体格差が大きすぎる。《武神鎧装》していればこそ、こいつと対等にも渡り合えるのであって、生身の状態で抵抗するのは到底無理な相談だった。
「くっそ……!」
リョウマは押し寄せる快感を必死に押し戻して、なんとか両腕の自由を取り戻し、それを試みてみた。
「ぶ、ぶしんがいそっ……」
だが、何も起こらない。何度か同じように、いつも《武神鎧装》するときのポーズを作ってみたが、結果は同じだった。
ひょいとリョウマの胸から顔をあげた魔王は、くすくすと笑いをこらえていた。長くて先の尖った舌で、ちろりと口角を舐めている。そんな姿も決して品を損なわず、それでいて妖艶に見えてしまうのはなぜだろう。
「《鎧装》しようというのか? それは無理だと思うぞ」
「え? なんでだよっ」
「よく考えてみよ。ここは魔都だぞ。つまりは、そなたらが《鎧装》するときに利用する《勇者パワー》がこの世界の中で最も薄く、逆に魔素は非常に濃い地帯だ。ここでのそなたは、体力的にも村で言うところの一般民と大して変わらぬ。無駄な抵抗はせぬがよいぞ」
「ちっ、ちっくしょう……!」
だからこいつは、わざわざ俺をこんなところまで連れてきたのか。コスい野郎だ。こうして《鎧装》できない状態にしておいて、俺を好き勝手にするのが目的だったというわけか!
「てっめ……許さねえかんなっ! 離れろボケェ! 今すぐどけっつーの!」
「いいや。いったんこうなったからには、もう少し先へ進めたいではないか」
「俺は進めたくねーんだよっっ」
「そうか? 相変わらず、上の口は素直ではないなあ、そなたは」
「はあああ? うっ」
いきなり太腿の内側に手を差し入れられて、腰が跳ねた。男にとって最も弱いモノがそこにはある。自分がどんな下着をつけているのか、今の今まで気にしていなかったリョウマだったが、ここへきて初めてそれを目にすることになった。そしてわが目を疑った。
「って。なんじゃこれは~っ!」
それは端に紐が付いているだけの布に過ぎないものだった。前のものがどうにか布で隠れているだけの代物で、尻はほとんどむき出しの状態だ。
魔王の指がその布の隙間からするりと這い進んできて、柔らかい袋をゆるりと撫でた。
「はあっ……ん!」
またもやぴくっとリョウマの腰が跳ねた。
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