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第二章 魔王エルケニヒ
9 王配殿下
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「ゴタクはいーんだよっ。いいから、外へ出てもらえっつの! ちゃんと話ができねーだろがっ」
「……わかった」
言って魔王がまたすいと人差し指を動かしただけで、現れた時と同様、侍従たちがまたもや音もなく部屋から出ていった。
魔王はなんだかニコニコしている。これは一体、何度目だ。
「それで? いったい私にどんな『お説教』をしてくれるのかな」
「取り消せ」
「ん?」
「どわっから、キサキだよ、キサキっ。俺がいつ、てめえのヨメになんぞなったんだ! おかしいだろが、俺ぁ男だ!」
「言葉が問題だと言うのなら、『王配殿下』と呼ばせればよい。それでよいか?」
「いいわけねーだろ! 俺にゃ子どもは産めねーって話をしてんの、俺は」
「それはあの洞窟でも話したと思うが」
「んあ?」
エルケニヒが困ったようにため息をついた。なんとなく、「やっぱり少し頭のほうは足りないようだな」と思われている気がしてカチンとくる。
「そなたら人間は、異性同士でなくては子孫が望めないのだったな。しかし、あいにく魔族はそうではない。そなたらよりもはるかに合理的な子孫繁栄方法を、すでに手に入れているからだ」
「あ~。そういや、んなこと言ってたな。オスとメス、どっちも持った体をしてる生き物もいる~、とか」
「そうだ。思い出してくれたか」
「にしたって! 少なくとも俺は魔族じゃねえんだしっ。お前の妃……じゃなくて『オウハイデンカ』か? それにされたって、役に立つわけねえんだしっ。てか、ぜってーヤだかんな! なんで俺がそんなもんになんなきゃなんねーんだっつの!」
「それは仕方がない」
「はあ?」
妙な顔になってしまったところへ、魔王がずい、と顔を近づけてきた。
「おいっ」
「そなたのことが気に入った。それも殊の外、な」
「んなっ……気色悪いこと言うなあああ!」
ブン回した拳を、またヒョイとあっけなくよけられて地味にプライドが傷つく。これでも自分は《BLレンジャー》のリーダー、《BLレッド》だというのに!
「……傷つくな」
「へ?」
「さすがの私も傷つくと申している」
「え? えーと……」
魔王がなんとなくしょんぼりしたように見えて、一瞬だけリョウマは焦った。が、すぐに首をぶんぶん振ってその感情を追い払う。
いやいや、そんなはずはない。相手はあの魔王だぞ? 騙されるな、俺。
「それよりっ。俺の気持ちは? 意思は? まるっと無視かよっっ」
「そなたとは非常に相性がいい。心も、体もな」
「って、ひとの話を聞けー! ……へ? 相性?」
「そうだ。あの洞窟での一件ではっきりした。そなたと私の体は非常に相性がいい。これまで千年生きてきたが、これほどの相手に出会ったことはなかった。これはまことだ。まるで奇跡のようだった」
今度はなんとなく、うっとりと自分に酔ったような顔になっている。リョウマはうんざりして半眼になった。
「……まったく、意味がわかんねー」
「それに、子どものことであれば心配は無用だ。私ほどの魔力の持ち主であれば、相手の性別はもはや問題にならぬゆえ」
「は、はああああっ!?」
どんだけ都合がいいんだ。
そしてなにを言い出すんだ、このドグサレ魔王。
まさかとは思うが本当に、この体に自分の子どもを産ませようと?
思わず背筋がぞわあっとした。
「じょっ、冗談じゃねーぞ! ぜってーヤだかんな! てかもう帰せよ。俺の村に帰らせろ! 仲間や村のみんな、きっと心配してるに違いねえしよっ」
「断る」
「はあああ?」
「なんだかんだと理由をつけてはいたが、たった今そなた自身が、みずから私と二人きりになることを選んだのではないか」
「は? いやそりゃ、ちゃんと話をするためで──」
「これはもう、『そういう意図』だと解釈するほかはない。そうであろう?」
「『そうであろう?』じゃねーわこのスットコドッコイ! だから人の話を聞けって……っておい、こらっ。寄るんじゃねえ……ひっ?」
気がついたら、魔王は大きな腕でぐいとリョウマの腰を抱き寄せていた。そのまま、すさまじい膂力で抱きしめられてしまう。
「ちょっ……はなせ、このやろっ……んうっ?」
ぐい、と口の中に魔王の舌が押し込まれてきて息がつまった。一般の人間よりも長い舌が、巧みな動きでリョウマの口内をまた蹂躙しはじめる。
「んっ、んんっ……ん、や、やあ……やめ、ろってえっ……」
彼の唾液を感じたと思ったら、すぐにまたぼうっと脳の芯が痺れはじめた。
「……わかった」
言って魔王がまたすいと人差し指を動かしただけで、現れた時と同様、侍従たちがまたもや音もなく部屋から出ていった。
魔王はなんだかニコニコしている。これは一体、何度目だ。
「それで? いったい私にどんな『お説教』をしてくれるのかな」
「取り消せ」
「ん?」
「どわっから、キサキだよ、キサキっ。俺がいつ、てめえのヨメになんぞなったんだ! おかしいだろが、俺ぁ男だ!」
「言葉が問題だと言うのなら、『王配殿下』と呼ばせればよい。それでよいか?」
「いいわけねーだろ! 俺にゃ子どもは産めねーって話をしてんの、俺は」
「それはあの洞窟でも話したと思うが」
「んあ?」
エルケニヒが困ったようにため息をついた。なんとなく、「やっぱり少し頭のほうは足りないようだな」と思われている気がしてカチンとくる。
「そなたら人間は、異性同士でなくては子孫が望めないのだったな。しかし、あいにく魔族はそうではない。そなたらよりもはるかに合理的な子孫繁栄方法を、すでに手に入れているからだ」
「あ~。そういや、んなこと言ってたな。オスとメス、どっちも持った体をしてる生き物もいる~、とか」
「そうだ。思い出してくれたか」
「にしたって! 少なくとも俺は魔族じゃねえんだしっ。お前の妃……じゃなくて『オウハイデンカ』か? それにされたって、役に立つわけねえんだしっ。てか、ぜってーヤだかんな! なんで俺がそんなもんになんなきゃなんねーんだっつの!」
「それは仕方がない」
「はあ?」
妙な顔になってしまったところへ、魔王がずい、と顔を近づけてきた。
「おいっ」
「そなたのことが気に入った。それも殊の外、な」
「んなっ……気色悪いこと言うなあああ!」
ブン回した拳を、またヒョイとあっけなくよけられて地味にプライドが傷つく。これでも自分は《BLレンジャー》のリーダー、《BLレッド》だというのに!
「……傷つくな」
「へ?」
「さすがの私も傷つくと申している」
「え? えーと……」
魔王がなんとなくしょんぼりしたように見えて、一瞬だけリョウマは焦った。が、すぐに首をぶんぶん振ってその感情を追い払う。
いやいや、そんなはずはない。相手はあの魔王だぞ? 騙されるな、俺。
「それよりっ。俺の気持ちは? 意思は? まるっと無視かよっっ」
「そなたとは非常に相性がいい。心も、体もな」
「って、ひとの話を聞けー! ……へ? 相性?」
「そうだ。あの洞窟での一件ではっきりした。そなたと私の体は非常に相性がいい。これまで千年生きてきたが、これほどの相手に出会ったことはなかった。これはまことだ。まるで奇跡のようだった」
今度はなんとなく、うっとりと自分に酔ったような顔になっている。リョウマはうんざりして半眼になった。
「……まったく、意味がわかんねー」
「それに、子どものことであれば心配は無用だ。私ほどの魔力の持ち主であれば、相手の性別はもはや問題にならぬゆえ」
「は、はああああっ!?」
どんだけ都合がいいんだ。
そしてなにを言い出すんだ、このドグサレ魔王。
まさかとは思うが本当に、この体に自分の子どもを産ませようと?
思わず背筋がぞわあっとした。
「じょっ、冗談じゃねーぞ! ぜってーヤだかんな! てかもう帰せよ。俺の村に帰らせろ! 仲間や村のみんな、きっと心配してるに違いねえしよっ」
「断る」
「はあああ?」
「なんだかんだと理由をつけてはいたが、たった今そなた自身が、みずから私と二人きりになることを選んだのではないか」
「は? いやそりゃ、ちゃんと話をするためで──」
「これはもう、『そういう意図』だと解釈するほかはない。そうであろう?」
「『そうであろう?』じゃねーわこのスットコドッコイ! だから人の話を聞けって……っておい、こらっ。寄るんじゃねえ……ひっ?」
気がついたら、魔王は大きな腕でぐいとリョウマの腰を抱き寄せていた。そのまま、すさまじい膂力で抱きしめられてしまう。
「ちょっ……はなせ、このやろっ……んうっ?」
ぐい、と口の中に魔王の舌が押し込まれてきて息がつまった。一般の人間よりも長い舌が、巧みな動きでリョウマの口内をまた蹂躙しはじめる。
「んっ、んんっ……ん、や、やあ……やめ、ろってえっ……」
彼の唾液を感じたと思ったら、すぐにまたぼうっと脳の芯が痺れはじめた。
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