墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

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第一章 墜落

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 血の気がひいていく。
 だが、体そのものは正直でしかなかった。魔王が指さすまさにその先、リョウマの腹の奥底で、今まで感じたことのない甘美な疼きが生じていた。

「うう……っ」

 リョウマはその場に片膝をつき、胸をおさえて何度も大きく息をついた。それでも体の勝手な興奮はおさまる様子がない。むしろその熱さはどんどん増してきて、腰の奥の重い渇望がよりひどくなっていくのがはっきりとわかった。もはや呼吸しているのさえ苦痛だ。このままではまずい。
 先ほどから魔王が「私の体液」と言っているモノ──この場合は要するに唾液のことだと思う──が、口腔の粘膜からダイレクトに体に取り込まれてしまった結果だろう。どうすればこれが《中和》させられるのか、まったく見当もつかない。

「てンめ……ほんと、サイテーだなっ。わかってたがよ」
「そうか? 少なくともそのおかげで、酷い飢餓状態からは脱したはずだが」
「え──」

 ハッと気づく。
 言われた通りだった。先ほどまでひどく自分を責めたてていたあの飢餓感、主に食物を欲するほうの欲望がすっかり消え去っている。その代わりに襲ってきている性的な欲望のほうが大きすぎるだけだと思ったが、どうやらそれだけではないらしい。

「ど、どういう、こったよ……」
「おまえたちに強烈な性的欲求を植え付けるだけでなく、私の体液はおまえたちにとって素晴らしい栄養剤でもある、ということだ。感謝するがいい」
「な、わけねえだろっ」
「強がるのもいいが、どんどんつらくなるだけだぞ。その欲望は、首尾よく昇華させなければ決してそなたの体を去らない」
「なんだ、と……」

 言いながらも、ぐらりと視界が傾いた。と同時に少し暗くなる。意識が遠のきかかっているようだ。
 これは危ない。非常に危ない。こんな奴の前で人事不省に陥るなど、自分の命を手放すに等しいではないか。
 いや命のまえに、自分の尊厳の方が圧倒的に危ないのかもしれないが。

「てめ……っ。そういう、趣味が、あんのかよ……っ」

 普通にものを言うのも億劫おっくうだ。息が詰まり、喉が押し上げられてくるほどの狂おしい欲望が、体じゅうから悲鳴のように自分を責め立てている。もう体を起こしているのもつらくて、リョウマは地面に片手を突いた。激しく肩で息をする。しかし、どうあっても体の奥に生じた激しい欲望は去る様子を見せなかった。
 魔王は相変わらず、どこか楽しそうにこちらを観察する目をしたままゆったりと答えた。

「お前たちはそういう風に考えるのか? まあ、無理もない。ずいぶんと個体数が減ったのだものな、この数十年で」
「はあ……?」
「子孫を残すためには、オスとメスがつがうほかはない。それがそなたら人間の宿命だ。オスとオス、メスとメスが惹かれ合う場合もあるようだが、生物として追い詰められた今の状況では、『それでは効率が悪い』と言われてしまうのだろう? 同性で番うことは許されても、その一方で必ずほかの個体と子どもを作れと迫られるはずだ。無理もないが」
「…………」
「もっと『効率よく』子孫を残すことを選択した生物は多くいる。単体で数を増やしていける者や、オスとメスの両方を一匹で保持している者とかな。見ていると、どうも人間というのは効率が悪い。要は頭が悪いのだろうな」
「う、うるっせえわ! ううっ……」

 そんなつまらない講釈をのんびり聞いていられるほどの余裕はもうなかった。血液が限界まで集まって、気を失いそうなほどにたかぶった足の間のモノの主張が激しすぎる。
 目の前にこいつさえいなければ、すぐにも手でしごいてどうにかするものを!
 が、魔王の目をそれを見透かしたようにギラリと光った。

「……その程度の《慰め》では到底追いつかぬぞ。一度や二度、そんな昇華を迎えただけではな。あまりいい加減なことをしてしまえば最悪、気が狂うはずだ。……そなたら、弱い人間はな」
「な、なんだと……?」

 エルケニヒはどこまでも、ただただ楽しそうだった。
 だがリョウマにとっては、それは絶望的な宣告だった。
 魔王はゆったりと胡坐をかいた姿勢のまま、長く尖った黒い爪の生えた手をゆっくりとこちらへ差し出した。

「だから、どうだ。ひとつ、私の手を借りてみぬか」
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