6 / 217
第一章 墜落
5 くちづけ
しおりを挟む
「は? んだよそれ、早く言えよ!」
思わず大声を出したのと対照的に、魔王はふと口をつぐんだ。
「なーにを黙ってんだ。気ぃもたせる気か? 早く言えや」
「……まあ、あわてるな。これにはそなたの気持ち次第なところが多分にあってな」
「はあ? 意味わかんねー」
魔王は黒く鋭い爪の生えた指先で、自分の顎をとんとんと軽く叩いている。何ごとかを考えている様子だ。
「なんだよ、もったいぶんなよ」
相手をにらんでまた歯を剥きだす間も、腹の虫は一向におさまる気配がない。それどころか、よりひどくなっていく。
魔王エルケニヒはちらりと目をあげ、その目を細めてなぜかしげしげとこちらを見つめた。
「……な、なに見てんだよっ」
「いや。己の内面を精査しているところだ」
「はあ???」
さっぱりわからない。
さっきから、意味不明なセリフのオンパレードだ。
もちろん、わざわざ手下にか弱い人間の村など襲わせる時点で「意味不明」は極まったようなものなのだが、それでも普段はもう少し冷静で聡明で理路整然としているイメージだった。
この洞窟に来てから、どうもこの男はおかしい。
どこがどう、と訊かれれば判然とはしないが、確かに変なのだ。その証拠に、いつもならもっと冷然とした瞳の色が不思議に熱く燃えているように見える。目の前の焚火のゆらめきのせいばかりでないのだけは、はっきりわかるのだ。
「お前たち人間には、空気中の魔素を栄養に替える機能がない。我々にはそれがある。われらは己の体のなかで、無機物から有機物をつくりだすことができるわけだ」
「むずかしーことはよくわかんねーけど。まあ、そこらへんの石やらなんかを食い物替わりにできるっつーことだろ」
「それだけではないが、まあそうだな」
「で? それがどーしたっつーのよ。話が長えっつーのよ。前置きとか要らねーから、とっとと要点を言えや、要点を!」
「百万言を費やしたとしても、そなたの頭に理解させられる自信がない」
「はあ? やっぱりケンカ売ってんだろてめえ!」
思わず立ち上がったら、いきなり目の前に魔王の巨体が立ちはだかっていて驚いた。勇者パワーのない自分は普通の人間と大差ない動きしかできないというのに、この男はかなりの身体能力を残したままということだ。これは危ない。
本能的に退こうとしたリョウマは、しかし、いきなりエルケニヒに腰を抱き寄せられて仰天した。
「なっ……コラ! なにすんだてめえ!」
「『百聞は一見に如かず』というしな。まずはその身で体験するがいい」
「はあ? むぐうっ」
見上げて百万言の文句を言ってやろうとした口を、いきなりぐわっと塞がれた。
──魔王の、唇で。
「んっ……んむっ、ん、んぐううっ」
こんなキスはしたことがない。ないから何とも比べられるわけではないが、エルケニヒの舌は厚くて長く、燃えるように熱かった。それが今、思うさまリョウマの口腔を犯し、蹂躙している。
「んっ……んんっ、んんんん~~~~!」
リョウマは必死で、でかい魔王の背中をバシバシ叩いた。もちろん「グー」で。
思わず大声を出したのと対照的に、魔王はふと口をつぐんだ。
「なーにを黙ってんだ。気ぃもたせる気か? 早く言えや」
「……まあ、あわてるな。これにはそなたの気持ち次第なところが多分にあってな」
「はあ? 意味わかんねー」
魔王は黒く鋭い爪の生えた指先で、自分の顎をとんとんと軽く叩いている。何ごとかを考えている様子だ。
「なんだよ、もったいぶんなよ」
相手をにらんでまた歯を剥きだす間も、腹の虫は一向におさまる気配がない。それどころか、よりひどくなっていく。
魔王エルケニヒはちらりと目をあげ、その目を細めてなぜかしげしげとこちらを見つめた。
「……な、なに見てんだよっ」
「いや。己の内面を精査しているところだ」
「はあ???」
さっぱりわからない。
さっきから、意味不明なセリフのオンパレードだ。
もちろん、わざわざ手下にか弱い人間の村など襲わせる時点で「意味不明」は極まったようなものなのだが、それでも普段はもう少し冷静で聡明で理路整然としているイメージだった。
この洞窟に来てから、どうもこの男はおかしい。
どこがどう、と訊かれれば判然とはしないが、確かに変なのだ。その証拠に、いつもならもっと冷然とした瞳の色が不思議に熱く燃えているように見える。目の前の焚火のゆらめきのせいばかりでないのだけは、はっきりわかるのだ。
「お前たち人間には、空気中の魔素を栄養に替える機能がない。我々にはそれがある。われらは己の体のなかで、無機物から有機物をつくりだすことができるわけだ」
「むずかしーことはよくわかんねーけど。まあ、そこらへんの石やらなんかを食い物替わりにできるっつーことだろ」
「それだけではないが、まあそうだな」
「で? それがどーしたっつーのよ。話が長えっつーのよ。前置きとか要らねーから、とっとと要点を言えや、要点を!」
「百万言を費やしたとしても、そなたの頭に理解させられる自信がない」
「はあ? やっぱりケンカ売ってんだろてめえ!」
思わず立ち上がったら、いきなり目の前に魔王の巨体が立ちはだかっていて驚いた。勇者パワーのない自分は普通の人間と大差ない動きしかできないというのに、この男はかなりの身体能力を残したままということだ。これは危ない。
本能的に退こうとしたリョウマは、しかし、いきなりエルケニヒに腰を抱き寄せられて仰天した。
「なっ……コラ! なにすんだてめえ!」
「『百聞は一見に如かず』というしな。まずはその身で体験するがいい」
「はあ? むぐうっ」
見上げて百万言の文句を言ってやろうとした口を、いきなりぐわっと塞がれた。
──魔王の、唇で。
「んっ……んむっ、ん、んぐううっ」
こんなキスはしたことがない。ないから何とも比べられるわけではないが、エルケニヒの舌は厚くて長く、燃えるように熱かった。それが今、思うさまリョウマの口腔を犯し、蹂躙している。
「んっ……んんっ、んんんん~~~~!」
リョウマは必死で、でかい魔王の背中をバシバシ叩いた。もちろん「グー」で。
18
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説





【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる