白と黒のメフィスト

るなかふぇ

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第十六章 恐慌

9 五柱の光

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《うるっせえ! このオレが来たからには、ぜってえ負けなんてあり得ねえかんな!》
《まったく。いつまでたっても子どもだな》

 冷ややかに応じたのは金のメタリクムだった。

《はあ? どの口が言ってんだこの金物かなもの野郎!》
《無礼を申すな! だれが金物野郎だ、だれがっ》
《オレの力がなきゃ変化もできねえくせに偉そうにしてんじゃねえ! 冷えたら固まって、なんもできなくなるくせによー》
《はあ? 聞き捨てならないことを言ったな、貴様!》
《はいはい。もうそのへんにしようね~? ケンカしてる場合じゃないよ、キミたち》

 なんだか精霊さまたち、ちょっと人間っぽくなったような気がする。急に親しみが湧いてきてしまった。

《ええと……イグニス様? ですか? シディ……オブシディアンです、はじめまして。よろしくお願いします》
《ああ。ちびワンコのこたぁよーく知ってるから大丈夫だぜー》
《ち……ちびワンコ??》
《それより急ごうぜー。余計な話はあとだ、あと!》
《は、はい……》

 シディは一瞬きょとんとしていたが、慌てて気を引き締めた。
 精霊さまたちのやりとりは、実はかなりの高速でなされている。人間同士の会話とは根本的に違うようなのだ。だからこれほどああだのこうだのやりあっていても、その実ほとんど時間はかかっていなかった。

(やれるのか……? オレ)

 四柱よつはしらの精霊さまがたが力を吹き込んだ体はすでに限界だと思っていたのに、さらに五つめの日のイグニス様が加わるという。これはもう、自分の命すら危ない状況なのかもしれない。とはいえ、それを拒むつもりはさらさらなかった。「怖くない」と言ったら、それは嘘になるだろうけれど。
 ここまできて、自分が逃げるなんて選択肢だけはなかった。

《きついだろうが我慢しろ。五つ揃ったほうが安定する。馴染むまでの辛抱だ。それまではしばらくつれえぞ》
《は、はいっ!》
《人間の皇子のことも僕らで手伝うよ》
《さっきから大変そうだもんなー、皇子も》

 言ってくれたのは風のヴェントスと土のソロだ。アクア様とメタリクムはうんうん、とうなずいた感じがあった。

《んじゃ、いくぜっ!》

(ううっ……!)

 予告されていたとはいえ、それは想像以上の衝撃だった。「四だったものが五になる」というような単純なことではなかった。自分の体の中で、強大な魔力がついに五柱が揃ったことで完全体になろうとしている。それが本能的にわかった。
 体全体が、筋肉が、骨が、神経が、ぜんぶみしみしと音を立てている。脳が今にも飛び散ってしまうのではないかと思うほどの頭痛と吐き気が襲ってきた。

《ぐうう……っ》

 どくん、どくんと心の臓が打つのと一緒に、強い痛みが全身を打ち付ける。そのたびに骨が砕け散るのではないかと思うほどの衝撃と激痛が走った。

《うあ……っああ、あああああ──っ!》

 意識が飛びそうになっているシディにはまったくわからないことだった。だが、そのときその場を見ていた人がいたなら、シディの身体がさらに大きくなり、より豊かに光り輝いていることに気付いたことだろう。
 体内で暴れまわるすさまじい魔力が、ゴロゴロと音を立てながら混ぜ合わさっていくのがわかった。

 苦痛の時間がどれほどだったのかをシディは憶えていない。
 しかし、ハッと気づくとすでには終わっていた。

(こ……これは?)

 なんだか信じられない気持ちで、シディは自分の体を見下ろした。
 なんだか、前足がひどく大きくなったような気がする。それに、さっきまであんなに巨大だった《黒き皿》がさほどの大きさでなくなったような気もした。
 が、すぐにわかった。
 自分がもとの姿から、何倍もの大きさに巨大化しているということが。

《い、インテス様! インテスさまっ……! 大丈夫ですか?》
「……あ、ああ。大丈夫だ。なんとかな」
《ああ……よかった》

 首のあたりから小さな声が聞こえて、ほっとする。
 自分が巨大化したぶん、インテス様は巨大な狼の首のあたりの毛皮に埋もれたようになってしまっていた。毛皮は五柱の神々の色にさまざまに光り輝いている。そこにシディが一匹いるだけで、周囲は青天の日の明るさになっていた。首をめぐらすと、《飛翔体》の面々がみな、目をほそめてまぶしそうにしているのがちらりと見えた。

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