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第十六章 恐慌
6 祈り
しおりを挟む(どうすればいいんだ。どうすれば……!?)
思い悩む間にも、セネクス師匠たちの《飛翔体》がマルガリテ女史たちの方へと素早く近づき、あらたに強力な守護魔法をかけて防御力をあげてくれている。判断が素早く、迷いがない。さすがはセネクス師匠である。
しかしそのセネクス翁たちをしてさえ、《皿》の反発に対抗するだけで精一杯のようだった。
と、突然周囲を囲んでいた後方支援用の《飛翔体》のひとつがぐらりとひどく傾いた。と思ったのと同時に一気に体勢を崩して《皿》に向かって吸い込まれかける。
(あぶない……!)
運悪く、その《飛翔体》の途上にセネクス翁たちの《飛翔体》がいた。そのまま激突した拍子にセネクス翁たちの《飛翔体》も激しく傾き、どっとひとつの塊のようになって《皿》に吸い込まれて行く。
《ああっ! 師匠! ティガ……!》
目を疑った。ティガリエとラシェルタ、セネクス師匠が乗った《飛翔体》がまっすぐに《皿》へと突進していく。
(ダメだ! ダメだっ……!)
「シディ! 精神を集中させよ!」
インテス様の声がしたが、もうシディの耳には届かなかった。ふたつの《飛翔体》はきりきり舞いをしながら《皿》へと転落していく。と、とぷりとその底の知れない真っ黒な闇に呑まれていった。
シディの喉から、声にならない悲鳴があがった。
《ひっ……! うわ、うわああああああ──っ!》
「シディ! 落ち着くんだ!」
《いやだあああ! ティガ、ティガあああ! 師匠! ラシェルタ……!》
半狂乱になったシディはもうがむしゃらに空気を蹴り、一気にみんなの《飛翔体》が落ちた場所へと飛んだ。
インテス様が叫んでいる。
「ダメだ! 我らまで取り込まれたら、もうあとがないのだぞっ!」
《でも! ティガが、師匠が──》
「落ち着くんだ。まだ方法はある。きっとある」
そう言ってくださるインテス様の心の声も、決して穏やかとは言えなかった。それでも必死に理性を総動員してシディを励ましてくださっている。
《方法? どんな? なにがあるんですか、どこに!? 教えてください、インテス様っ!》
「……落ち着くんだ。心を静めて、今できることを考える。どんなときでもそうだ。起こったことに心をかき乱され、鼻面を引き回されてはいけない。平常心であることが、もっとも成功に近づく秘訣だよ、シディ。……どんなときでも」
《でもっ……インテス様──》
目の前の巨大な《黒き皿》は、今こうしているうちにも少しずつ膨張しているようだ。せっかく周囲を覆った輝く《網》も、あちこちヒビが入って今にもはじけ飛んでしまいそうに見える。今こうしながらも、まだ《光の網》は作り続けているけれど、《皿》の成長にまったく追いつけているとは言えない。
だというのに、いまのシディには残された魔力がもうほとんどない。
八方ふさがりだ。こんなことで「まだ道がある」と? 本当に……?
《助けて……助けて!》
必死に考え、そして祈った。
なにに祈ったのかはよくわからない。いや、だれでもよかった、助けてくれるというのなら。
だれでもいい。
ティガを、師匠を、ラシェルタを。みんなを助けたいんだ。
こんな風にお別れをしたくない。
みんな大事な、大事な人たちだ。
こんなダメなオレだけど、やっとみんなの役に立てるようになったのに。一生懸命練習してきたつもりだったけど、それでも足りない。足りなくてごめんなさい。オレがこんなんで、ごめんなさい。
……だけど、お願い。
一度だけでいいんだ。
どうか一度だけ、オレを助けて。
だれか。
お願い……!
ぎゅっと目をつぶったときだった。
耳の奥で、聞き覚えのある涼やかな声がした。
《ヤット、ヨンデクレタネ》
《マッテイタゾ、クロイノ》
(えっ……?)
ハッと目を開く。
飛び込んできたのは、色とりどりに輝く光の玉たちだった。
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