白と黒のメフィスト

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
130 / 209
第十一章 背後の敵

16 溶ける身体 ※

しおりを挟む

「まったく、そなたは。そうやって私の自制心を試すなと言うのに──」
「そ、そんな。試すなんて……わぷっ」

 言っている途中でいきなり抱きしめられた。その力があんまり強くて、一瞬息が止まる。

「十分試しているじゃないか。こんなに可愛いのに、最近のそなたときたら素晴らしく勇壮で、格好よくもあって……ああ、言葉というのは不自由だ」
「え、えええ?」
「ともかく。自制する身にもなってくれ」

 カッコいいだって? まさか、この自分が?
 目を白黒させていたら、ようやく少し体を離された。至近距離からじっと目を覗きこまれる。

「その上、美しい。この上もなく。あれ以来金色に変わったこの瞳もまた、この世の至上の宝玉ではないか」
「あ、あわわわ……」

 なにを言ってるんだろう、この人は。
 美しさで言ったら、この人の隣に並ぶ者なんていないだろうに。

「この瞳が、この姿が罪でなくてなんだろう。今のそなたに無理などさせたくないのに……ここまで私を責めさいなむとは」
「すっ、すす、すみません……??」
「いや、そなたが謝る必要などないんだ」

 わけもわからず謝ってしまったのを、インテス様は苦笑しながらもたしなめた。
 額にちゅ、と軽い音をたてて口づけが落とされてくる。

「ふあっ……」

 それから頬に、目尻に、鼻の先に。
 インテス様の唇がつぎつぎに愛撫を落とす。
 どうしようもなく舞い上がってしまう。背後でまたしっぽが勝手にぱすんぱすんと寝床を叩いている音がする。
 本当にひさしぶりだ。
 シディも恐るおそるインテス様の背中に腕を回して、負けないぐらい強く抱きしめ返した。身体がぴたりと密着する。糸のひと筋すら間にあってほしくないと無性に願ってしまう。
 
 シディは伸びあがり、みずからインテス様の唇に口づけをした。軽いものを、一度だけ。
 目をあけて見ると、インテス様がなんともいえない瞳をして見下ろしていた。その手はずっとシディの髪や頬を愛撫しつづけている。

「ああ……シディ」

 その声も瞳もとろけているように思われた。
 溶けてしまえばいいんだ、と思った。そうしたら自分も一緒に溶けてしまって、あなたと全部がまざりあって、きっとひとつになってしまうのに。
 そうしたらもう二度と、あなたと引き離されることなんてないだろう。あんな風に。

「でも、ダメだ。これ以上は」
「んんっ……や、ですうっ」

 シディは必死で首を横にふった。
 さらに殿下にしがみつき、さらさらした金色の髪や首筋に口づけする。首もとに鼻先を突っこんで、思いきり彼のいい匂いを吸いこむ。

──離れたくない。
 あんな目に遭わせてしまって、この感情は前よりもずっとずっと強いものになった。
 このままあなたと溶けあってしまって、どこかへ行ってしまいたい。……と、そんな罪なことを妄想してしまうほど。

「もっと……。インテスさま」
「シディ」

 眉尻を下げた表情のまま、インテス様はそれでも嬉しそうに微笑んでいる。その手はずっと「可愛くて可愛くてたまらないんだ」と言わんばかりにシディの頭と、肩と、背中と、二の腕と……とにかくあちこちを愛撫しつづけている。
 シディはさらに力をこめて彼の身体にしがみついた。

「もっと、もっと……。おねがい、インテスさま」
「ダメだというのに。そなたは病み上がり──んうっ」

 言いかけた唇に、有無を言わさず吸い付いた。
 少し開いたインテス様の唇の間に自分の舌を這いこませ、出会った舌を丁寧に吸い、腰をくねらせる。

「んふ……っ」
「シディ、こら……シディ」

 構わずさらに深い口づけに移行した。
 いつのまにか、インテス様の手も唇もシディを求めるものに変化していく。
 そこからはもう夢中で、互いの唇をむさぼりあった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...