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第十一章 背後の敵
16 溶ける身体 ※
しおりを挟む「まったく、そなたは。そうやって私の自制心を試すなと言うのに──」
「そ、そんな。試すなんて……わぷっ」
言っている途中でいきなり抱きしめられた。その力があんまり強くて、一瞬息が止まる。
「十分試しているじゃないか。こんなに可愛いのに、最近のそなたときたら素晴らしく勇壮で、格好よくもあって……ああ、言葉というのは不自由だ」
「え、えええ?」
「ともかく。自制する身にもなってくれ」
カッコいいだって? まさか、この自分が?
目を白黒させていたら、ようやく少し体を離された。至近距離からじっと目を覗きこまれる。
「その上、美しい。この上もなく。あれ以来金色に変わったこの瞳もまた、この世の至上の宝玉ではないか」
「あ、あわわわ……」
なにを言ってるんだろう、この人は。
美しさで言ったら、この人の隣に並ぶ者なんていないだろうに。
「この瞳が、この姿が罪でなくてなんだろう。今のそなたに無理などさせたくないのに……ここまで私を責め苛むとは」
「すっ、すす、すみません……??」
「いや、そなたが謝る必要などないんだ」
わけもわからず謝ってしまったのを、インテス様は苦笑しながらもたしなめた。
額にちゅ、と軽い音をたてて口づけが落とされてくる。
「ふあっ……」
それから頬に、目尻に、鼻の先に。
インテス様の唇がつぎつぎに愛撫を落とす。
どうしようもなく舞い上がってしまう。背後でまたしっぽが勝手にぱすんぱすんと寝床を叩いている音がする。
本当にひさしぶりだ。
シディも恐るおそるインテス様の背中に腕を回して、負けないぐらい強く抱きしめ返した。身体がぴたりと密着する。糸のひと筋すら間にあってほしくないと無性に願ってしまう。
シディは伸びあがり、みずからインテス様の唇に口づけをした。軽いものを、一度だけ。
目をあけて見ると、インテス様がなんともいえない瞳をして見下ろしていた。その手はずっとシディの髪や頬を愛撫しつづけている。
「ああ……シディ」
その声も瞳も蕩けているように思われた。
溶けてしまえばいいんだ、と思った。そうしたら自分も一緒に溶けてしまって、あなたと全部がまざりあって、きっとひとつになってしまうのに。
そうしたらもう二度と、あなたと引き離されることなんてないだろう。あんな風に。
「でも、ダメだ。これ以上は」
「んんっ……や、ですうっ」
シディは必死で首を横にふった。
さらに殿下にしがみつき、さらさらした金色の髪や首筋に口づけする。首もとに鼻先を突っこんで、思いきり彼のいい匂いを吸いこむ。
──離れたくない。
あんな目に遭わせてしまって、この感情は前よりもずっとずっと強いものになった。
このままあなたと溶けあってしまって、どこかへ行ってしまいたい。……と、そんな罪なことを妄想してしまうほど。
「もっと……。インテスさま」
「シディ」
眉尻を下げた表情のまま、インテス様はそれでも嬉しそうに微笑んでいる。その手はずっと「可愛くて可愛くてたまらないんだ」と言わんばかりにシディの頭と、肩と、背中と、二の腕と……とにかくあちこちを愛撫しつづけている。
シディはさらに力をこめて彼の身体にしがみついた。
「もっと、もっと……。おねがい、インテスさま」
「ダメだというのに。そなたは病み上がり──んうっ」
言いかけた唇に、有無を言わさず吸い付いた。
少し開いたインテス様の唇の間に自分の舌を這いこませ、出会った舌を丁寧に吸い、腰をくねらせる。
「んふ……っ」
「シディ、こら……シディ」
構わずさらに深い口づけに移行した。
いつのまにか、インテス様の手も唇もシディを求めるものに変化していく。
そこからはもう夢中で、互いの唇をむさぼりあった。
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