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第十章 決戦
8 七色の狼
しおりを挟む生産職なみゆきちだけど、実はちょー強い。針と糸を使わせたら右に出るものはいないのだ。ほら、某仕事人にも糸使いいるじゃん? あんな感じー。暗殺者向きなんだよねー。
打って変わってぼく。ちょー弱い。付加術で自分を強化したって、元がアレだからそんなに強くならない。だから役に立つため、他人のサポート特化できたえてきた。ので、ぼく自身はちょー弱い。大事なことなので二回言いました。
で、先生。ちょー強いけど詠唱とか溜めがあるので完全に後衛。いわゆる火力魔術師だねー。回復もできるけどやっぱ溜めが――以下略。しかも賢者って本当は大規模戦闘に適してる職業らしいよ。本当はこんな室内で戦う人じゃないのだ。……どうして攻城戦パーティーに戦略兵器を混ぜたし、アルスター。
というわけで、このメンツで戦闘に突入しちゃうと、必然的にみゆきちが前衛になっちゃう。
――何でぼくがこんな思考をしているかというと、ぶっちゃけこのメンツで戦闘に突入しちゃったからだ。
転移の罠が発動してとっさに手を繋げたのはぼくとみゆきちと先生だけだったみたいで、気付くと中庭。そこには貴族の集団が、お待ちしておりましたとばかりに襲いかかって来たんだよね。
フツー前口上とかあるでしょ? 今回、全くそんなのナシ。余裕なさすぎ!
「樹ー、バフ超大盛りマシマシでー」
「はいよー。『攻アップ』に『防アップ』に『すばやさアップ』入りましたー」
ちなみに『かしこさアップ』はかけない。バーサーカーには賢さなど必要ないのだ。本能で殺るのみ。……あ、これ言ったらみゆきちにコロコロされてしまうのでナイショで。
次々とみゆきちの糸で拘束されていく貴族っぽい人達。ちょろい。……と、思いきや。
「装飾師などに遅れをとるな! こちらの方が人数で勝っているのだから囲い込め!!」
ヒゲ面でひときわ豪華な衣装のオジさんが、不穏な内容をわめき散らしている。むむむっ、これはさすがのみゆきちも多勢に無勢かなー?
「せんせーには『詠唱速度アップ』盛っておくんで、よろですー」
「はーい。それじゃあ行きますよ! 『|吹雪よ(テンペスタ・ディ・ネーヴェ)』!」
先生の魔術で、足元から凍りついて行く貴族っぽい人達。頭だけは凍ってないところをみると、加減はしてるんだろうけど流石は戦略兵器級。こんな城の中庭なんかあっという間に氷漬け。めっちゃ寒いです。ぶるぶる。
「みゆきちー、何か羽織るもの作ってよ」
「材料ないから無理」
素気無く断られちゃった。ぼくらアイテムボックス持ちじゃないからねぇ。シータちゃんとか、四次元ポケット持ってる友瀬ちゃんが羨ましい。
「……ですよねー」
逆に言えば、材料あったら作ってくれるって事だ。みゆきちってば優しー。
「ええっと……先生、張り切りすぎちゃったかしら……?」
「いえいえ。丁度いい感じでっす」
「頭だけ凍らせてないとか、先生器用すぎるよ!」
ぼくとみゆきちの言葉に照れる先生。くるりと貴族たちの方に向き直って、口を開いた。
「――では、あなた方にお聞きしたいのですが……アルスター王は一体何を企んでいるのですか?」
先生の言葉で初めて『ああ、あの王さま何か企んでるんだー?』と気付いたぼく。まあ、城の入り口が意味ありげに開けっ放しだったし、入り口でわざわざ待ってたしねー。挙句に転移の罠で分断。他に何かあってもおかしくないかあ。
「しょ、正直に答えるとでも……?」
寒さに震えつつも気丈に振る舞う貴族の人。おう、これが貴族の誇りってやつですね。プライド高いだけともいうけど。でも氷漬けにされてる状態でこんな態度とられてもなぁ……。
「……まあ良いでしょう。しらみつぶしに城を探索すれば良いだけの話ですし」
早々に追及を諦める先生。先生はあれだね、RPGとかだとダンジョンの宝箱全部開けてからボスに挑むタイプ。
「じゃあ、行きましょっか先生! 樹も早くいくわよー」
みゆきちは元気いっぱいだなあ。ぼくは寒くて動きたくないや。できれば暖かい布団がほしい。あ、でもここから離れたら暖かくなるかー。早よ行こう。
……それにしても最近の女の人ってホント強いよねー。守る必要とか全然ない。むしろ守ってくださいって感じ。
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