白と黒のメフィスト

るなかふぇ

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第七章 闇の鳴動

9 離宮の夜(1)※

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 その夜、シディは初めて言った。
「今夜は、お……オレが、します」と。

 シディはあれからレオたちとともに一旦帝都へ戻った。インテス様が思っていた以上に増援部隊の準備には時間がかかることがわかったからである。
 あんな貧しい村にたくさんの討伐隊が滞在すれば、ただでさえ少ない村人の大切な食料を食いつぶしてしまうことになる。それでは彼らにとって大迷惑。彼らを救いに来たはずが、本末転倒もいいところになってしまうからだ。
 インテス様はレオたちと別れ、警護の数名だけを連れてこの離宮にもどってきた。それが今日の昼過ぎのことだ。出迎えた教育係のリスの人シュールスや、医師の鹿の人ローロなどから、口々に討伐の成功を祝う言葉をもらい、ひさしぶりに離宮での豊かな夕食にもありついた。
 あらためて考えると、ここでの暮らしはひどくぜいたくだなと思う。あの貧しい島の人々の暮らしを思うと、シディの食欲はいまひとつ湧かなくなってしまった。

 インテス様は「疲れているだろうから、今日はすぐに休もう」とおっしゃったのだが、ふたりでいつものように入浴を済ませると、インテス様の寝室でシディはその体に乗り上がった。
 インテス様はさすがに驚いた目をしていた。

「シディ。そんなことはしなくていいんだ。なあ、シディ──」

 押しとどめようとするインテス様の手から器用に逃げながら、シディはその腰にまたがったまま、着ているものをさっさと脱いだ。
 あの魔塔の島でも、討伐戦の間も、ずうっと自分はこの方の世話になってばかりだった。自分には、ろくにお返しできるものもない。どうせ自分にできるのはこの奉仕だけなのだから──
 だから今夜は、絶対にインテス様に十分気持ちよくなって頂きたかった。
 だが、インテス様は悲しげな目でこちらを見上げてくるだけだった。

「シディ。そなたはもうあの下町で働いていた男娼ではないんだ。こんなことはもうしなくてもよい」
「……そうじゃない、です」
「うん?」
「オレ」と言いかけて、しばらく口の中でもごもごと言葉をこねまわす。
「だって……いつも、オレばっかり」

 自分ばかり、気を失うほど気持ちよくしてもらうだけで。この方はお優しいから、いつだって「私も気持ちよかった」とおっしゃってくださるけれど。
 特にあの討伐で出かけた島では、この方が一方的にシディに快楽を与えてくださるばかりだった。
 
「オレ、気持ちよくなってほしい……です。ちゃんと、インテス様にも」
「シディ──」

 インテス様が目を見開いた。シディにはもうちゃんと見分けられている。「そんなことはしなくても」とは言いつつも、インテスさまが嬉しく思っておられることぐらいは。
 その目を見たとたん、ぎゅんっと全身が熱くなる。今さらだけれど、急に羞恥に囚われてしまったのだ。

「そっ、それにっ。セネクス師匠にもあれだけ言われましたし! ……お、オレたちが仲良くすればするほど、魔法はうまくいくからって」
「うん。それはその通りだな。事実それで、島でもうまくいったのだし」

 殿下はうってかわってニコニコ顔になる。
 その腰のものはまだ何の反応もしていないけれど、シディは構わず寝台の横に隠しておいたそれ用の油壺を手に取った。とろりと手の中に落としてから、自分の後ろを慣らしはじめる。香油のいい香りがふわりと寝室にひろがった。
 腰を少しくねらせ、入口に塗りつけてからくぷりと指を進める。
 あの店にいたときから、もうすっかり慣れた作業だ。固い入り口をほぐして男のモノを受け入れやすく柔らかくさせ、油をしっかり塗りこんでおく。
 こく、とインテス様の喉が動いたのが見えた。

「シディ──」

 股のところのものが、布の下でぴくりと硬度をもったのがわかる。
 ただでさえかぐわしいインテスさまの匂いが、欲望の匂いにつつまれてより強くなる。しっかり気をもっていないと、くらくらして気が遠くなりそうになる。

「あ……」

 敢えて敏感な部分に指先が触れないように動かしているのだが、インテス様のそれが足のあいだに当たるだけで心臓の鼓動が速くなってしまった。
 じゅぷ、ぐぽっと淫靡な水音が耳を犯す。
 シディのものも先走りの雫を少しだけ垂らして、ふるふると立ち上がっている。そこにインテス様の視線を感じる。そこだけではない。下腹、臍、胸、喉。もちろん口を半開きにしただらしないこの顔にも。

「は……、はあ」

 十分にそこが広がったところで、シディはそろそろとインテス様の夜着に手をかけた。すっかり張り詰め、天を向いてそそり立ったインテス様のそれがひどく嬉しい。だってそれは、自分に欲情してくださっているからこそだから。
 シディはゆるりと腰を一度くねらせてから持ち上げた。

「んっ……。いれ、ますよ……? インテス様」
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