72 / 209
第七章 闇の鳴動
9 離宮の夜(1)※
しおりを挟む
その夜、シディは初めて言った。
「今夜は、お……オレが、します」と。
シディはあれからレオたちとともに一旦帝都へ戻った。インテス様が思っていた以上に増援部隊の準備には時間がかかることがわかったからである。
あんな貧しい村にたくさんの討伐隊が滞在すれば、ただでさえ少ない村人の大切な食料を食いつぶしてしまうことになる。それでは彼らにとって大迷惑。彼らを救いに来たはずが、本末転倒もいいところになってしまうからだ。
インテス様はレオたちと別れ、警護の数名だけを連れてこの離宮にもどってきた。それが今日の昼過ぎのことだ。出迎えた教育係のリスの人シュールスや、医師の鹿の人ローロなどから、口々に討伐の成功を祝う言葉をもらい、ひさしぶりに離宮での豊かな夕食にもありついた。
あらためて考えると、ここでの暮らしはひどくぜいたくだなと思う。あの貧しい島の人々の暮らしを思うと、シディの食欲はいまひとつ湧かなくなってしまった。
インテス様は「疲れているだろうから、今日はすぐに休もう」とおっしゃったのだが、ふたりでいつものように入浴を済ませると、インテス様の寝室でシディはその体に乗り上がった。
インテス様はさすがに驚いた目をしていた。
「シディ。そんなことはしなくていいんだ。なあ、シディ──」
押しとどめようとするインテス様の手から器用に逃げながら、シディはその腰に跨ったまま、着ているものをさっさと脱いだ。
あの魔塔の島でも、討伐戦の間も、ずうっと自分はこの方の世話になってばかりだった。自分には、ろくにお返しできるものもない。どうせ自分にできるのはこの奉仕だけなのだから──
だから今夜は、絶対にインテス様に十分気持ちよくなって頂きたかった。
だが、インテス様は悲しげな目でこちらを見上げてくるだけだった。
「シディ。そなたはもうあの下町で働いていた男娼ではないんだ。こんなことはもうしなくてもよい」
「……そうじゃない、です」
「うん?」
「オレ」と言いかけて、しばらく口の中でもごもごと言葉をこねまわす。
「だって……いつも、オレばっかり」
自分ばかり、気を失うほど気持ちよくしてもらうだけで。この方はお優しいから、いつだって「私も気持ちよかった」とおっしゃってくださるけれど。
特にあの討伐で出かけた島では、この方が一方的にシディに快楽を与えてくださるばかりだった。
「オレ、気持ちよくなってほしい……です。ちゃんと、インテス様にも」
「シディ──」
インテス様が目を見開いた。シディにはもうちゃんと見分けられている。「そんなことはしなくても」とは言いつつも、インテスさまが嬉しく思っておられることぐらいは。
その目を見たとたん、ぎゅんっと全身が熱くなる。今さらだけれど、急に羞恥に囚われてしまったのだ。
「そっ、それにっ。セネクス師匠にもあれだけ言われましたし! ……お、オレたちが仲良くすればするほど、魔法はうまくいくからって」
「うん。それはその通りだな。事実それで、島でもうまくいったのだし」
殿下はうってかわってニコニコ顔になる。
その腰のものはまだ何の反応もしていないけれど、シディは構わず寝台の横に隠しておいたそれ用の油壺を手に取った。とろりと手の中に落としてから、自分の後ろを慣らしはじめる。香油のいい香りがふわりと寝室にひろがった。
腰を少しくねらせ、入口に塗りつけてからくぷりと指を進める。
あの店にいたときから、もうすっかり慣れた作業だ。固い入り口をほぐして男のモノを受け入れやすく柔らかくさせ、油をしっかり塗りこんでおく。
こく、とインテス様の喉が動いたのが見えた。
「シディ──」
股のところのものが、布の下でぴくりと硬度をもったのがわかる。
ただでさえかぐわしいインテスさまの匂いが、欲望の匂いにつつまれてより強くなる。しっかり気をもっていないと、くらくらして気が遠くなりそうになる。
「あ……」
敢えて敏感な部分に指先が触れないように動かしているのだが、インテス様のそれが足のあいだに当たるだけで心臓の鼓動が速くなってしまった。
じゅぷ、ぐぽっと淫靡な水音が耳を犯す。
シディのものも先走りの雫を少しだけ垂らして、ふるふると立ち上がっている。そこにインテス様の視線を感じる。そこだけではない。下腹、臍、胸、喉。もちろん口を半開きにしただらしないこの顔にも。
「は……、はあ」
十分にそこが広がったところで、シディはそろそろとインテス様の夜着に手をかけた。すっかり張り詰め、天を向いてそそり立ったインテス様のそれがひどく嬉しい。だってそれは、自分に欲情してくださっているからこそだから。
シディはゆるりと腰を一度くねらせてから持ち上げた。
「んっ……。いれ、ますよ……? インテス様」
「今夜は、お……オレが、します」と。
シディはあれからレオたちとともに一旦帝都へ戻った。インテス様が思っていた以上に増援部隊の準備には時間がかかることがわかったからである。
あんな貧しい村にたくさんの討伐隊が滞在すれば、ただでさえ少ない村人の大切な食料を食いつぶしてしまうことになる。それでは彼らにとって大迷惑。彼らを救いに来たはずが、本末転倒もいいところになってしまうからだ。
インテス様はレオたちと別れ、警護の数名だけを連れてこの離宮にもどってきた。それが今日の昼過ぎのことだ。出迎えた教育係のリスの人シュールスや、医師の鹿の人ローロなどから、口々に討伐の成功を祝う言葉をもらい、ひさしぶりに離宮での豊かな夕食にもありついた。
あらためて考えると、ここでの暮らしはひどくぜいたくだなと思う。あの貧しい島の人々の暮らしを思うと、シディの食欲はいまひとつ湧かなくなってしまった。
インテス様は「疲れているだろうから、今日はすぐに休もう」とおっしゃったのだが、ふたりでいつものように入浴を済ませると、インテス様の寝室でシディはその体に乗り上がった。
インテス様はさすがに驚いた目をしていた。
「シディ。そんなことはしなくていいんだ。なあ、シディ──」
押しとどめようとするインテス様の手から器用に逃げながら、シディはその腰に跨ったまま、着ているものをさっさと脱いだ。
あの魔塔の島でも、討伐戦の間も、ずうっと自分はこの方の世話になってばかりだった。自分には、ろくにお返しできるものもない。どうせ自分にできるのはこの奉仕だけなのだから──
だから今夜は、絶対にインテス様に十分気持ちよくなって頂きたかった。
だが、インテス様は悲しげな目でこちらを見上げてくるだけだった。
「シディ。そなたはもうあの下町で働いていた男娼ではないんだ。こんなことはもうしなくてもよい」
「……そうじゃない、です」
「うん?」
「オレ」と言いかけて、しばらく口の中でもごもごと言葉をこねまわす。
「だって……いつも、オレばっかり」
自分ばかり、気を失うほど気持ちよくしてもらうだけで。この方はお優しいから、いつだって「私も気持ちよかった」とおっしゃってくださるけれど。
特にあの討伐で出かけた島では、この方が一方的にシディに快楽を与えてくださるばかりだった。
「オレ、気持ちよくなってほしい……です。ちゃんと、インテス様にも」
「シディ──」
インテス様が目を見開いた。シディにはもうちゃんと見分けられている。「そんなことはしなくても」とは言いつつも、インテスさまが嬉しく思っておられることぐらいは。
その目を見たとたん、ぎゅんっと全身が熱くなる。今さらだけれど、急に羞恥に囚われてしまったのだ。
「そっ、それにっ。セネクス師匠にもあれだけ言われましたし! ……お、オレたちが仲良くすればするほど、魔法はうまくいくからって」
「うん。それはその通りだな。事実それで、島でもうまくいったのだし」
殿下はうってかわってニコニコ顔になる。
その腰のものはまだ何の反応もしていないけれど、シディは構わず寝台の横に隠しておいたそれ用の油壺を手に取った。とろりと手の中に落としてから、自分の後ろを慣らしはじめる。香油のいい香りがふわりと寝室にひろがった。
腰を少しくねらせ、入口に塗りつけてからくぷりと指を進める。
あの店にいたときから、もうすっかり慣れた作業だ。固い入り口をほぐして男のモノを受け入れやすく柔らかくさせ、油をしっかり塗りこんでおく。
こく、とインテス様の喉が動いたのが見えた。
「シディ──」
股のところのものが、布の下でぴくりと硬度をもったのがわかる。
ただでさえかぐわしいインテスさまの匂いが、欲望の匂いにつつまれてより強くなる。しっかり気をもっていないと、くらくらして気が遠くなりそうになる。
「あ……」
敢えて敏感な部分に指先が触れないように動かしているのだが、インテス様のそれが足のあいだに当たるだけで心臓の鼓動が速くなってしまった。
じゅぷ、ぐぽっと淫靡な水音が耳を犯す。
シディのものも先走りの雫を少しだけ垂らして、ふるふると立ち上がっている。そこにインテス様の視線を感じる。そこだけではない。下腹、臍、胸、喉。もちろん口を半開きにしただらしないこの顔にも。
「は……、はあ」
十分にそこが広がったところで、シディはそろそろとインテス様の夜着に手をかけた。すっかり張り詰め、天を向いてそそり立ったインテス様のそれがひどく嬉しい。だってそれは、自分に欲情してくださっているからこそだから。
シディはゆるりと腰を一度くねらせてから持ち上げた。
「んっ……。いれ、ますよ……? インテス様」
0
お気に入りに追加
185
あなたにおすすめの小説

狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる