白と黒のメフィスト

るなかふぇ

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第七章 闇の鳴動

1 修練の終わり

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 そこから次第に、シディと殿下の合わせ技の精度はぐんぐんあがりはじめた。
 想定している《魔力の水がめ》に二人の魔力を注ぎ込み、それが十分にいっぱいになったところで、目標とする大岩や大木などに向けて魔力を放つ。
 最近ではそれらを一気に粉砕できるまでになってきたのだ。
 火の魔法、水の魔法、土の魔法。それから風の魔法と金属の魔法。それぞれ、精霊の力を借りて打ち出す攻撃魔法である。もちろん、それぞれに守護魔法もある。

「ポテスタス・オブ・イグニス、ダーレ・メ・クエーゾ……」

 シディは初心者らしく簡単な呪文を唱えたけれども、慣れてくればそれを割愛して、頭の中で明瞭なイメージを描くことで魔法を打つことができるようになってくる。だからインテス様は無言だ。

 魔法訓練場の中央に据えられた大岩を目指して、想像上の《水がめ》からシディとインテスの魔力が渦を巻きながら炎に変わって突進する。
 ごおっという音とともに大岩が燃え上がり、焼け焦げて粉砕される。十分に焼き尽くされると、石といえどもどろどろに溶け、しまいには空中分解してしまうようだ。あとに残るのは、少し焼け焦げた訓練場の地面のみ。

「うむ、上々にございまする! 殿下もオブシディアン殿もお見事、お見事」
「は……はい。ありがとうございます……」

 成功するようになってきた理由は明らかだが、シディは赤面するしかない。満足げなセネクス翁や、事情を知っているそのほかの魔導士たちの顔を見るにつけ、できればどこか壁の内側にでも隠れてしまいたい衝動に駆られる。
 実はぽろっとそんなことを洩らしてしまったこともあるのだが、インテス様から「ああ、そういう魔法もあるようだぞ? 《隠遁》といって──」とにこやかに指南されそうになってしまって心底こまった。

(まったくもう、インテス様ったら──)

 お優しいからなのは重々わかっている。だが、それなら夜にあれほど自分を優しく愛しまくらないでほしい、と思うのは自分のわがままなのだろうか。まあそうなのだろう、と肩を落としてあきらめる。
 そうなのだ。
 あれからインテス様は、シディが夜のふたりの営みに慣れてくるに従ってほぼ毎日のようにシディを愛してくださるようになってきた。
 毎回思うが、この人は自分の欲望よりなにより、とにかく「シディが気持ちよいこと」を最優先にしてくださる。途中からはあまりの快感で、もうなにがなんだかわからなくなってしまう。
 あとで思い返すとただ赤面するばかりでなく、地面に埋まりたくなってしまうような恥ずかしいことまで口走ってしまっていて、本当に本当に身が縮むのだ。
 でもそれを、インテス様は「とても可愛い。遠慮せずにもっとどんどん叫んでほしい。私にもっと、そなたの甘い声を聞かせておくれ」とおっしゃって、優しい口づけをまたシディの身体じゅうに落とそうとなさる。

(う、うううう……)

 身の置きどころがないとはこのことだ。
 いや、魔法攻撃がうまく放てるようになったのは嬉しい。でもそれが、インテス様との夜のあれこれと大いに連動しているというのが恥ずかしくてしょうがないのだ。

「またそんな恥ずかしそうな顔をして。これで世界を救う力が手に入るのだからよいではないか? 誰もそなたを馬鹿にしたりしていないのだし」
「そ、それはそうなんですけどっ……」

 そんなこんなで、インテス様はちっとも理解してくださらない。むしろ恥ずかしがっているシディのことがさらに可愛くてしょうがないらしく、夜の愛撫がより丁寧で気を失うほどに気持ちよくなっていくばかりだ。

(あああっ。こんなことで本当にいいの……!?)

 シディの(幸せな)悩みは尽きない。
 そんなこんなの恥ずかしくも幸せな日々にも、やがて終止符を打つ日が来た。
 ある日、執務室に二人を呼んで、セネクス翁がこうおっしゃったのだ。
「ご存知のとおり、辺境の島々では、すでに《闇の勢力》が力をのばしつつありまする。そろそろ実戦に赴かれるのもよろしかろうと思いまするが、いかがにございましょうや」と。

「それはまだ、ごく弱い存在ということでいいな? シディはまだまだ初心者でもあるし。最初のうちは小手調べ程度でないとまずいと思うが」
「もちろんにございまする。《救国の半身》であるあなた様がただけを向かわせるつもりも毛頭ございませぬ。助力する魔導士らを数名お付けいたします」

 言ってセネクス翁は、机に広げられた例の地図のうち、ごく辺境の小島を指し示したのだった。

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