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第五章 輝く世界
12 恍惚 ※
しおりを挟む「あ……っあ、んあ、だめ……っ」
自分が何を言っているのかわからなくなっていく。その間も殿下の手は優しくシディのものを上下に扱いている。
「らめぇ……でん、か……じぶ、じぶん、でえっ……」
「いいから。気持ちよくおなり」
「きゃうんっ」
ちゅ、と油と先走りで濡れた先端に口づけられ、眼前がちかちかした。
「んっ……や、ああん、きゅうんんっ……」
言葉とは裏腹に、腰は勝手に蠢いている。
殿下の目から見て、どんなにかなまめかしく見えるだろう。まるでその先を「もっと、もっと」とおねだりしているように見えないだろうか?「なんていやらしい子だ」とがっかりされたりしないだろうか──
そんな思考も、どんどんぼんやりとどこか遠くへ消えてしまいそうになる。
頭のなかがふわふわしていて、ひとつも考えがまとまらない。
「あひいっ!」
と、殿下がいきなりシディのものをべろりと舐めた。途端、ガクンッとまた腰が上下してしまう。
「らめ……らめえっ、そんな……でんかあっ」
必死で首を左右に振って、殿下の腕をつかみ、拒もうとするのに、うまく力が入らない。声にも体にも、ちっとも力が入れられないのだ。
……気持ちいい。今にも昇天しそうだ。
夜のこの行為で、こんなに人から気持ちよくしてもらったことはなかった。
あの店での仕事はただただつらいばかりで、嗜虐的な客がときどきシディの欲望を無理やりに引きだす以外では、まともな射精もさせてもらえないのが常だった。
男娼が先に射精してしまうと、どうしても尻の具合が悪くなってしまうのだ。客たちは基本的に、とにかく男娼の口や尻でどれだけ自分が気持ちよく射精できるか、そのことしか考えていなかった。
だから客によっては事前に根元を革紐で縛るなどして射精を禁じ、なるべく最後まで射精できないように調整させられたものだ。それでも我慢できずに達してしまえば、客は親方に文句をいう。中には金を返せとゴネる者までいる。待っているのは当然、残酷な「お仕置き」だった。
いつもそんな風だったから、こんな風にだれかにシディ自身を舐められたこともない。まあ相手は客で、自分の快楽のためだけに金を払っていたのだから当たり前なのだけれど。
「んあ、らめ……あふ、らめええっ」
それなのにこの人ときたら、もうずっぽりとシディのものを咥えこんで、唇と頬裏と舌を駆使し、シディそのものを熱心に愛撫してくださっているのだ。
とても信じられない。
帝国の皇子様が、自分のそれを口に含んでいるだなんて!
とかなんとか、色々と考えている余裕もあまりなかった。
下の小さな袋をも柔らかく揉まれ、竿をしっかりと愛撫されて。
部屋に響く卑猥な水音に、耳までが犯されて。
ああ、もうダメだ。我慢できない。
「やっ……あ、あ……らめっ、はな、はなし、てええっ!」
いけない欲望が腰の奥から今にも爆発しそうになり、必死で叫ぶ。
殿下のお口に出すだなんて、そんなとんでもないことはできない。
怖い。
本能的に怖かった。
だからこれは、ほとんど泣き叫ぶに近かった。
「やめっ、いやあっ……だめぇ、ゆるして……でんかああっ」
「いいから。シディ」
出すんだ、と自分の股間から囁かれて声を飲む。
じゅっとわざと音を立てて先端を吸い上げられ、じわりと奥の穴に指が忍び込んだのを感じた。
「はああうんっ……!」
もうダメだった。
シディは涙をこぼしながら、首を左右に振った。
次の瞬間、腰の中で暴れ狂っていたその欲望が、ぱっと外へと出て行った。
「ひいっ……い!」
凄まじい解放感。
……そして、快感。
こんな経験、間違いなくはじめてだった。
(へん……だ、オレ)
霞んでくる意識の底でふとそう思った。
こんなこと、もう何百回も経験させられたはずなのに。
どうしてこの方との行為はこんなに──
こんなに、心地いいのだろう……。
そこからほんの少し、意識を飛ばしてしまっていたらしい。
ハッと気づくと、殿下が隣にねそべってシディの身体を温かく濡らした布で拭いてくれているところだった。頬に、唇に、肩に口づけを落としながら。
ゆらゆらと覚醒していきながら、これが夢か現かわからないなか、シディはぼんやりときれいな殿下の顔を半開きの目で見つめていた。
が、これが現実だと分かった瞬間、どっと襲って来たのは恐怖だった。
「……ハッ。ごっ、ごめんなさいっ!」
慌てて飛び起きる。
そのまま寝台から飛びおりて床にはいつくばり、必死で頭を床にこすりつけた。
「すみません! すみません……! ゆるしてくださいっ……」
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