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第二章 新たな生活
5 忌み色
しおりを挟む ロボットスーツを着脱装置に戻すと、程なくして『以下の部品を補充して下さい』というメッセージが表示された。
見ると、通信機の部品だ。
「香子さん。ごめんなさい。通信機は治りそうにありません」
済まなそうに頭を下げる芽衣を、香子はねぎらった。
「芽衣ちゃんが無事だっただけ十分よ。気にしないで……」
「でも……」
「壊れちゃった物はしょうがないわよ。それに、送信はダメだけど、受信機能は生きているのでしょ?」
「はい。それはなんとか。でも、私があの魔法使いの挑発にさえ乗らなかったら……」
「挑発に乗らなかったら、相手の実力も分からなかったわ」
香子はモニター画面の方に視線を向けた。
そこには、ロボットスーツ搭載カメラが撮ったエラの様子が映っている。
それを眺めているのは、中年のナーモ族男性ター・メ・リック。薬師を生業としている男で、魔法にも詳しい。
リックが香子の方を向いた。
「雷魔法ですね。それもかなり強力な」
「雷魔法? 帝国は魔法の軍事利用に踏み切ったという事でしょうか?」
「そのようです。帝国は今まで火薬を使った武器で有利な立場にいたので、扱いにくい魔法など使おうとはしなかった。しかし、日本人から我々に火薬の製法が伝わってしまったために、そうも言っていられなくなったのでしょう」
「こちらに、対抗できる魔法使いはいますか?」
「魔法使いは何人かいるが、これと戦える力のある者はいません。いたとしても、肝心の回復薬がない。シーバ城の方へ回してしまって、こちらの在庫が空なのです」
「作れないのですか?」
「材料さえあれば……レッドドラゴンの肝以外は揃っています。今、それを取り寄せているのです」
となると、自分たちの持ち込んだ武器で戦うしかない。
しかし、すでにヘリコプターは飛べない。
ヘリに積んであった武器は、ショットガンと化学レーザーと芽衣のロボットスーツ。
そして、ドローンが三機。
死んだ海斗のロボットスーツもあるが、これを動かせる者はいない。
カルカシェルターでプリンターが動いていた時代に作られたドローンで、飛べる物は一機もなく、その三機を貸し出していたのだが、うち一機はすでに落とされた。
これ以上ドローンを失いたくないので、エラ攻撃には使いたくない。
しかし、あの魔法使いにはショットガンが効かなかった。カルカシェルターで生産しているライフル銃も通用するか分からない。レーザーは?
いや、あの魔法使いの周りを守っていたのがプラズマの壁なら、レーザーだって吸収されてしまう。
頼みの綱は、芽衣のロボットスーツ。
しかし、ロボットスーツの装甲でも、あの光球に耐えられるだろうか?
「大丈夫です。香子さん」
「芽衣ちゃん。大丈夫って……さっきは通信機だけで済んだけど、あれの直撃を受けたら、ロボットスーツだって、ただでは済まないわよ」
「大丈夫です。当たらなければ、どうという事ありません」
「当たらなければって……」
「さっきの戦いで分かったのですけど、あの光球ってすごく遅いです。空中を素早く飛び回っていれば当たりません」
「そうなの? でも、こっちの攻撃も通じないわよ」
「ですから、攻撃はしません。挑発して撃たせ続けるのです」
「え?」
「リックさんの話では、雷魔法は魔力消費が激しいそうです。無駄撃ちさせていれば、そのうち魔力が尽きます。魔力が尽きたところを見計らって攻撃に転ずれば勝機はあります」
「そう、うまく行くといいけど……」
その時、ドアがノックされて楊美雨が入ってきた。
「ちょっと、確認したいのですが、その魔法使いの名前はエラ・アレンスキーで間違えないかしら?」
芽衣が頷くと、楊美雨はタブレットを差し出した。
「これは私のオリジナルが、日本留学中に読んでいた雑誌の記事なのだけど」
それを見て、芽衣は顔を輝かせる。
「わあ! 『ウー』じゃないですか。私も大好きでした」
香子はため息をついた。
(なんでこの子、リケ女のくせに、こんなオカルト雑誌が好きなのだろう?)
「そうなの? まあ、その話は置いといて、ここにエラ・アレンスキーという人物の記事が載っているの」
そこには『驚異の電気人間』というタイトルの記事が載っていた。その中に、手で電球を持っただけで点灯させる男とか、身体が磁石になっている男とかの記事に混じって、手が触れるだけで相手を感電させる電撃少女が紹介されている。少女の名前は、エラ・アレンスキー。
「記事が書かれた二〇××年の時点で、この少女の年齢は十二歳。この時に、この少女の三次元データが取られたとして。帝国の船を私たちが破壊したのは三十年前。それ以降、帝国はコピー人間を作れない。だとすると、彼女のコピーが作られたのは三十年より前になる。現在は四十代のはず」
芽衣は記事の写真に写っている少女の顔を見つめた。
確かに、さっき会った女の面影がある。
「では、あの魔法使いはコピー人間?」
「おそらく。映像を見ると四十代くらいだから、年齢的には合っているわ」
そこへ香子が疑問を挟んだ。
「でも、この記事だと精々スタンガン程度の能力ですよ。芽衣ちゃんが戦った女が使っていたのは、高温のプラズマボールです」
「香子さん。未来ちゃんの事を覚えていますか?」
「え? 未来ちゃんがどうしたの?」
「あの子、電脳空間で式神が使えると言っていましたね。誰も、本気にしていなかったけど」
「ええ」
「でも、プロクシマ・ケンタウリbという惑星で、未来ちゃんを再生したら、本当に式神を使いだしたと……」
「その話は、私も知っているけど……」
「超能力というべきか魔法というべきか、地球ではこういう不思議な力が発動するのを抑制する何かがあるのではないかと言われています」
「じゃあ、エラ・アレンスキーも、この惑星で再生されて、能力が強くなったというの?」
「そうじゃないかと思うのです」
香子は考え込んだ。だが、なにもいいアイデアは浮かばない。
「ちょっと、それを見せてもらっていいですか?」
「どうぞ」
芽衣は、楊美雨からタブレットを受け取った。
記事に目を通すと、エラへのインタビュー記事もあった。そこには、日本の時代劇や特撮ヒーロードラマが好きだと書いてある。
「やはり、同一人物だと思います」
「そうだとして、そこに付け入る隙はないかしら?」
「ちょっと返して」
楊美雨は芽衣から、タブレットを返してもらって操作した。
「エラ・アレンスキーは、二十代になってから逮捕されているわ。罪状は暴行傷害拉致監禁。そうとうの性格異常者だったようよ」
「性格異常? 確かに変な人だな、とは思いましたけど……」
芽衣は、エラと会った時の事を思い浮かべながら言った。
「それなら、挑発に乗りやすいかもしれないですね」
見ると、通信機の部品だ。
「香子さん。ごめんなさい。通信機は治りそうにありません」
済まなそうに頭を下げる芽衣を、香子はねぎらった。
「芽衣ちゃんが無事だっただけ十分よ。気にしないで……」
「でも……」
「壊れちゃった物はしょうがないわよ。それに、送信はダメだけど、受信機能は生きているのでしょ?」
「はい。それはなんとか。でも、私があの魔法使いの挑発にさえ乗らなかったら……」
「挑発に乗らなかったら、相手の実力も分からなかったわ」
香子はモニター画面の方に視線を向けた。
そこには、ロボットスーツ搭載カメラが撮ったエラの様子が映っている。
それを眺めているのは、中年のナーモ族男性ター・メ・リック。薬師を生業としている男で、魔法にも詳しい。
リックが香子の方を向いた。
「雷魔法ですね。それもかなり強力な」
「雷魔法? 帝国は魔法の軍事利用に踏み切ったという事でしょうか?」
「そのようです。帝国は今まで火薬を使った武器で有利な立場にいたので、扱いにくい魔法など使おうとはしなかった。しかし、日本人から我々に火薬の製法が伝わってしまったために、そうも言っていられなくなったのでしょう」
「こちらに、対抗できる魔法使いはいますか?」
「魔法使いは何人かいるが、これと戦える力のある者はいません。いたとしても、肝心の回復薬がない。シーバ城の方へ回してしまって、こちらの在庫が空なのです」
「作れないのですか?」
「材料さえあれば……レッドドラゴンの肝以外は揃っています。今、それを取り寄せているのです」
となると、自分たちの持ち込んだ武器で戦うしかない。
しかし、すでにヘリコプターは飛べない。
ヘリに積んであった武器は、ショットガンと化学レーザーと芽衣のロボットスーツ。
そして、ドローンが三機。
死んだ海斗のロボットスーツもあるが、これを動かせる者はいない。
カルカシェルターでプリンターが動いていた時代に作られたドローンで、飛べる物は一機もなく、その三機を貸し出していたのだが、うち一機はすでに落とされた。
これ以上ドローンを失いたくないので、エラ攻撃には使いたくない。
しかし、あの魔法使いにはショットガンが効かなかった。カルカシェルターで生産しているライフル銃も通用するか分からない。レーザーは?
いや、あの魔法使いの周りを守っていたのがプラズマの壁なら、レーザーだって吸収されてしまう。
頼みの綱は、芽衣のロボットスーツ。
しかし、ロボットスーツの装甲でも、あの光球に耐えられるだろうか?
「大丈夫です。香子さん」
「芽衣ちゃん。大丈夫って……さっきは通信機だけで済んだけど、あれの直撃を受けたら、ロボットスーツだって、ただでは済まないわよ」
「大丈夫です。当たらなければ、どうという事ありません」
「当たらなければって……」
「さっきの戦いで分かったのですけど、あの光球ってすごく遅いです。空中を素早く飛び回っていれば当たりません」
「そうなの? でも、こっちの攻撃も通じないわよ」
「ですから、攻撃はしません。挑発して撃たせ続けるのです」
「え?」
「リックさんの話では、雷魔法は魔力消費が激しいそうです。無駄撃ちさせていれば、そのうち魔力が尽きます。魔力が尽きたところを見計らって攻撃に転ずれば勝機はあります」
「そう、うまく行くといいけど……」
その時、ドアがノックされて楊美雨が入ってきた。
「ちょっと、確認したいのですが、その魔法使いの名前はエラ・アレンスキーで間違えないかしら?」
芽衣が頷くと、楊美雨はタブレットを差し出した。
「これは私のオリジナルが、日本留学中に読んでいた雑誌の記事なのだけど」
それを見て、芽衣は顔を輝かせる。
「わあ! 『ウー』じゃないですか。私も大好きでした」
香子はため息をついた。
(なんでこの子、リケ女のくせに、こんなオカルト雑誌が好きなのだろう?)
「そうなの? まあ、その話は置いといて、ここにエラ・アレンスキーという人物の記事が載っているの」
そこには『驚異の電気人間』というタイトルの記事が載っていた。その中に、手で電球を持っただけで点灯させる男とか、身体が磁石になっている男とかの記事に混じって、手が触れるだけで相手を感電させる電撃少女が紹介されている。少女の名前は、エラ・アレンスキー。
「記事が書かれた二〇××年の時点で、この少女の年齢は十二歳。この時に、この少女の三次元データが取られたとして。帝国の船を私たちが破壊したのは三十年前。それ以降、帝国はコピー人間を作れない。だとすると、彼女のコピーが作られたのは三十年より前になる。現在は四十代のはず」
芽衣は記事の写真に写っている少女の顔を見つめた。
確かに、さっき会った女の面影がある。
「では、あの魔法使いはコピー人間?」
「おそらく。映像を見ると四十代くらいだから、年齢的には合っているわ」
そこへ香子が疑問を挟んだ。
「でも、この記事だと精々スタンガン程度の能力ですよ。芽衣ちゃんが戦った女が使っていたのは、高温のプラズマボールです」
「香子さん。未来ちゃんの事を覚えていますか?」
「え? 未来ちゃんがどうしたの?」
「あの子、電脳空間で式神が使えると言っていましたね。誰も、本気にしていなかったけど」
「ええ」
「でも、プロクシマ・ケンタウリbという惑星で、未来ちゃんを再生したら、本当に式神を使いだしたと……」
「その話は、私も知っているけど……」
「超能力というべきか魔法というべきか、地球ではこういう不思議な力が発動するのを抑制する何かがあるのではないかと言われています」
「じゃあ、エラ・アレンスキーも、この惑星で再生されて、能力が強くなったというの?」
「そうじゃないかと思うのです」
香子は考え込んだ。だが、なにもいいアイデアは浮かばない。
「ちょっと、それを見せてもらっていいですか?」
「どうぞ」
芽衣は、楊美雨からタブレットを受け取った。
記事に目を通すと、エラへのインタビュー記事もあった。そこには、日本の時代劇や特撮ヒーロードラマが好きだと書いてある。
「やはり、同一人物だと思います」
「そうだとして、そこに付け入る隙はないかしら?」
「ちょっと返して」
楊美雨は芽衣から、タブレットを返してもらって操作した。
「エラ・アレンスキーは、二十代になってから逮捕されているわ。罪状は暴行傷害拉致監禁。そうとうの性格異常者だったようよ」
「性格異常? 確かに変な人だな、とは思いましたけど……」
芽衣は、エラと会った時の事を思い浮かべながら言った。
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