ルサルカ・プリンツ~人魚皇子は陸(おか)の王子に恋をする~

るなかふぇ

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第三章 宇宙の涯(はて)で

13 鳴動 ※※

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※※ 地震に関する描写があります。苦手なかたはご注意ください。

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(……結局、この人も優しいんだな)

 ユーリは思った。
 そんな酷いことがあって、最愛の弟がそんな目に遭い、結局精神が崩壊するようなことになっても、男は本気で人類を見捨てたわけではなかったのだ。
 もちろん、フランの心が壊れたのは、半分以上アジュール自身のせいではあるだろう。だがそれを引き起こしたのはそもそも人間たちの身勝手な欲望だった。だというのに、彼は残された人々を見捨てるどころか、その後も最低限はその面倒を見ようとしていたというのだ。

 そうすることで、本来彼にとって「使命」であったことを完遂しようとしていたのだろうか?
 それとも、それをひとつの「贖罪」と見なしていたのだろうか。
 だとしたら、これは皮肉としか言いようがない。
 その「使命」そのものが、人間が有無を言わさず彼の肩に乗せた非常に手前勝手な重荷でしかなかったのだから。
 ユーリは口中にじわじわと広がる苦いものを噛みしめた。
 
「でも……。それなら、フランさんはどうなったの」
 おずおずとそう訊いたら、男は口の端をひん曲げてにやりと笑った。
「何十年も経つうちに、フランも少しは外に出られるようになった。例の『赤ん坊』を手から離すことだけはなかったけどな」
「……そうなんだ」
「だが、それもとうとう終わりが来た。……あれはちょうど、そうやってフランが『赤子』を抱いて外に散策に出たときのことだった」
 男の視線がまた遠い世界を彷徨い始め、ユーリは静かに口をつぐんだ。


 当時、アジュールは村人たちの目には触れないように気をつけながら、時々フランを外へ連れ出すようになっていた。毎日宇宙船の中にいるだけでは、息がつまるような気がしていたからだ。
 宇宙船に搭載されていた飛行艇で、こっそりと離れた土地へいく。ステルス機能を使うことで、村人の目につくことは避けていた。
 その頃には、人々が少しずつ植えてきた木の苗が育ち、土地のあちこちで森や林が形成され始めていた。木々が育つにつれて乾いた風に湿気が混じるようになり、慈雨も降りやすくなってきていた。そうやって土地が水を保有しやすくなったことで、小さな池や湖が姿を現し、地球のような見た目の場所さえ現れはじめていた。すべて、巫女をはじめとする人々の努力の賜物だと言えた。

 それが起こったのは、そんな景色のいい場所でアジュールとフランがのんびりと休憩していた時のことだった。
 突然、大きな揺れがその惑星を襲ったのだ。
 地震は人がとても立っていられないほどの激しさだった。全体の規模も非常に大きく、激しい縦揺れと横揺れを伴った。大地のあちこちが大きな裂け目をつくり、大きく隆起したり陥没したようである。
 大きな揺れが少し落ち着いたところで、アジュールはフランを連れて急いで集落に戻った。

 だが、すべては遅かった。
 二人がその場所に戻った時、引き裂かれた大地の狭間に、その集落はちょうど落ち込んでいくところだった。地面にぱっくりと開いた口は幅が優に数キロもあり、その先は地平線まで続いていた。とてもではないが、人々が助かる見込みはなかった。
 ところが皮肉なことに、宇宙船はまったくの無傷だった。大地が揺れ始めた瞬間に《サム》がさっさと船体を発進させ、地上から離れたためである。こうした場合の優先順位として、《サム》は地球のお偉方から「とにかく子孫を残せる確率の高い方を選べ」という命令を受けていたのだ。

 宇宙船の中には、まだまだ人類のもとになる「素材」がたくさん残っている。アジュールとフランがもう一度、子供を生み育てて集落をつくるのは簡単なことのはずだった。
 逆に、外にいる人々を救うために無理をして肝心の船体を危険にさらせば、この先のすべての可能性が失われることになりかねない。この場合、《サム》の判断は冷酷にも「外の人間たちを見捨てる」の一択だったのだ。
 これにはさすがのアジュールですら呆れた。

(人間は、貴様らの仲間、同胞ではないのか)

 絶対に完遂させねばならない目的があるときには、奴らはこうも簡単に同胞の命を見捨てるのか。
 だとしたら、人間ですらない俺たち「人形ドール」は……?
 そんなもの、考えるまでもない。

 が、アジュールが自分の皮肉な考えに囚われている暇はなかった。
 モニターで巨大な大地の裂け目に沈んでいく集落を目にした瞬間、フランが布を裂くような悲鳴をあげたのだ。

『いや……、やだ。いやああああ────ッ!』
『おい、フラン! どこへ行く、待てっ!』

 が、止める暇などなかった。フランは例の「布の赤子」を抱いたまま、一目散に飛行艇の出入り口に走ると、後も見ないでそこから飛び出て行ってしまった。
 今まさに飛んでいる飛行艇の中からである。
 だが、それは別に問題ではない。自分たちには、自分ひとりで空を飛ぶ手段があるからだ。


「えっ……?」

 それを聞いた時、ユーリも玻璃も目を丸くした。

「あの、君……君たちは、空を飛べるの?」
「ああ。そう言えば言ってなかったな」

 男はこともなげに言い放った。ひどく面倒くさそうだった。

「別におかしなことじゃあるまい? お前らだって、本来泳げないはずのところ、体を改造して魚みたいに泳げるようになってるんだろうが」
「まあ……それは、そうなんだけど」

 微妙な顔になったユーリたちをほったらかしにして、男は話を続けた。

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