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第三章 宇宙の涯(はて)で
3 蹂躙 ※
しおりを挟む体じゅうを男の「手」が這いまわる。
手と言っても、それはすでに変形し、いくつもに分裂していて、とっくに人間の形をしていなかった。刃物でこそないけれど、うねうねと細長い軟体動物のような体をなしている。
男は背後からユーリを抱きしめたまま、耳や首筋に口づけを落としていた。
目の前の《水槽》では、玻璃が胡坐をかいてどっしりと座り込み、腕組みをして眉間に皺を刻んでいる。目は閉じず、ずっと細く開いたままだ。その目で男をひたと睨みつけたまま微動だにしない。
「やっ……やめて、お願ッ……ひいっ!」
男の「手」はユーリの体のありとあらゆる場所に触れ、敏感な場所を見つけるとそこをしつこく攻め立てた。
胸の突起をこねくり回され、背筋や脇腹、臍の周りをさわさわと撫でられる。触手はねばついてはいなかったけれど体温があり、人の手が触れるのと変わらない感触がした。
それがゆっくりゆっくりとユーリの太腿と脇腹のあたりから股間へ向かって進んでいく。
「ああっ……あ、ああ……っ」
思わず、もぞもぞと腰を揺らしてしまった。
両足は、玻璃に向かって思いきり開かされた状態だ。がくがくと腰が震え、尻が寝具から浮き上がる。
男はユーリの後ろで、ぺろりと自分の唇を舐めたようだった。
「ふん。なかなか敏感だな。しかも淫靡だ」
「や、……いやっ!」
ユーリは首を必死で左右に振った。
わざわざそんなことを耳朶に囁かないで欲しい。
あの玻璃の目の前でこんな淫らな姿を晒させられて、頭が変になりそうだ。
「ゆるして、アジュール──」
「うるさい。心にもないことを言うな。見ろよ」
言って男は、ぐいとユーリの顎を下げさせた。敢えて見るまいとしていた自分の足の間のものが、いやでも目に入ってしまう。
そこは震えながら、すっかり立ち上がってしまっていた。それどころか、先端からぷつりと透明な雫が染みだしている。
「や……あ。いやあっ……!」
ユーリはまた首を横に振った。いや、そのつもりだったが、男の触手に邪魔をされた。顔を動かすこともままならない。目を閉じるぐらいのことしか、抵抗できることはなかった。
だが、目を閉じたのは明らかに悪手だった。ひとたびそうしてしまったら、逆に体じゅうの感覚が鋭敏さを増したのだ。
男の触手はユーリそのものに巻き付いて、次第に扱き上げ始めている。そればかりではない。別の触手がそろそろと後ろの奥まった場所の周囲を撫でまわし、さらに奥を窺っているのがわかった。
「んあっ……ふあ、んああっ……」
必死に口を閉じようと思うのに、男は例によってユーリの顎の関節を抑え込んでそれを封じている。恥ずかしいほど乱れて上ずった甘い声が、勝手に喉から飛び出ていく。それと同時に、腰も勝手に揺れていた。
やがて自分の股間から、淫らな水音が響き始めた。聞きたくないのに、塞がれていない耳は勝手にその音を拾ってしまう。
触手はゆっくりとそれを扱きあげ、思うさまユーリを昇りつめさせていく。
「あ、あ……ああ、ああっ……」
「そら、いいぞ。存分に啼くがいい。我慢するなよ? ……そら」
男がべろりとユーリの耳を舐めた。
「はうッ……!」
同時に胸の尖りもくりくりと押しつぶされて、ぞくぞくと背筋に何かが駆け上がった。
(うそだ──)
嘘だ、嘘だ、嘘だ。
こんなの、まったく信じられない。現実だなんて、認めない。
いやなのに。あの玻璃どのの目の前でこんな風に凌辱されるなんて、死にたいほど嫌なのに。
どうして自分の体は、こんな風に勝手に悦んでいるのだろう。
玻璃どのに、こんな淫らな奴だと思われたくない。
こんな男に煽られて、簡単に悦がる声などあげたくないのに──。
「ふッ……。うう」
気が付けば、ユーリはもうぼろぼろ涙をこぼしていた。
胸が痛い。いや、痛いなんてものではなかった。
「許して。……いやだ。ゆるして……見ないで」
《見ないで。みな、いで……玻璃どの》
《心配するな、ユーリ》
と、穏やかな低い声が耳の中に響いた。
《そやつはお前に、すでに一服盛っている。お前が眠っていた間にな》
《え……?》
ユーリは思わぬことを聞いて目を開けた。《水槽》の中の玻璃と目が合う。
彼の瞳は穏やかだった。
《恐らくは催淫剤かなにかだろう。体が反応するのも無理はないのだ。お前が健康な男子である証拠に過ぎぬ。気にするな》
《はり、どの……》
《お前が嫌がって泣けば泣くほど、そいつはただ喜ぶだけだ。放っておくのが一番いい。俺のことは気にするな。お前は何も悪くないのだ》
《で、でも──》
《決してお前を軽蔑などせぬ。父と海に誓って、約束する。安心してくれ》
そんなやりとりをする間にも、男の触手が次第にユーリのものを扱く速度を速めている。腰の奥に、あの重くて熱い欲望がどんどん蓄積するのがわかった。
「あっ……あ、ああ……やめ、もうやめてっ!」
さらに手の動きを加速されて、一気に何かがせり上がってきた。
「あっ、あ……ああ……っ」
そうして遂に、男の触手のなかで果てた。
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