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第九章 初夜
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「そんなにまじまじとご覧になるな」
「えっ? あ、いえ……!」
ユーリはかっと頬が熱くなるのを覚えて目をそらした。
玻璃はそのまま無造作に自分の股間に器具を向ける。ぷしゅっと軽い音がした。
「このようして、必要な場所に吹き付ける。簡単であろう? ボタンはここだ。すると、ここから液体が噴霧されて表面に薄い膜がつくられる」
彼が指さした場所には、筒の側面に小さな穴があき、細い管が少しだけ飛び出ていた。
「人体に悪影響は一切ないし、ほぼ百パーセントの確率で避妊が可能だ。男同士の行為でも、伝染病の防止などのために日常的に使われている。普段、不衛生なものに触れる場合に手に噴霧して使う場合もあるぐらいだ」
「そ、そうなのですか」
なんとも便利な物があるものだ。手渡された筒をまじまじと見つめて、ユーリはため息をつきたくなった。こんな小さなものひとつからも、アルネリオの科学力との差を見せつけられた思いだった。
「ただし、けっして生き物の鼻や口に向かって噴霧してはならないぞ。呼吸を妨げ、下手をすれば死なせてしまう。だから子供や判断力の弱い者の手の届くところには置かないように。そこだけは重々、気を付けてくれ」
「は……はい」
「さて。ということで」
玻璃は筒をユーリから受け取って枕の脇に放り出すと、あらためて覆いかぶさってきた。
「少し、お邪魔させて頂くぞ」
「あ……。はい」
玻璃の先端が、ぴたりとユーリの入り口に当てられる。ユーリは思わず固く目をつぶった。玻璃の笑みを含んだ声がおりてきた。
「緊張しているな。肩も腰もがちがちだ。まずは体の力を抜こう。……深呼吸をしてみようか」
「は……はい」
「はい、大きく吸ってー……吐いて」
「いや、あのう……」
なんだろうこれは。
色気の欠片もない上に、まるで子供との遊戯のようだ。
「ほらほら。恥ずかしいなら、一緒にやって進ぜようか。すー……はー……」
玻璃が大きな胸をさらに膨らませて深呼吸する。ユーリは思わず吹き出した。
「ふははっ……は、玻璃どのってば!」
「なんだなんだ。さあご一緒に、配殿下」
「やだっ……あははは!」
(本当に、この方は)
大国の皇太子として、ちゃんと抜け目のない部分はお持ちなのに。こういうときにはおおらかで優しくて、相手をしっかりと思いやる。大きな度量とその腕で、相手をゆったりと包み込む。
……だから、好きなのだ。みんなからも愛されるのだ。
ユーリは玻璃の肩に両腕を回して抱きよせた。
「大好き、です……。玻璃どの」
「ん? それは嬉しいお言葉だな」
途端、玻璃はにこっと笑った。
「ただまあ、こんな滑稽な場面で言われると微妙な気持ちにもなるが」
「あ、いえ。そういう意味ではありませんっ……!」
「ははは! わかっているさ」
言って玻璃は、優しく両腕でユーリの体を抱きしめて唇にキスを落とした。
「俺もだぞ、ユーリ。……愛している」
その瞬間、ユーリの胸にわっと熱いものが溢れだした。
嬉しい。舞い上がる。
こんな風に全身全霊で誰かに求められたことなんてない。
(玻璃どの……!)
目尻に浮かんだ雫を吸い取られる。
口づけが深くなる。
そうして遂に、玻璃自身がユーリの内部に踏み込んできた。
「あっ……ふうっ」
凄まじい熱量と質量が、ぐいぐいと内臓を押しのけてくる。その感覚に息が詰まった。やっぱりどうしても体じゅうの筋肉が緊張してしまう。
「ふう……。さすがにキツい」
玻璃は一度動きを止めて息を吐いた。
「ユーリ、息を吐いてくれ。ゆっくりと」
「は……はい」
玻璃の声も少し苦しげだ。それがまた、眩暈を起こしそうなほどに男の色気を纏ってユーリの腰を刺激した。
「そう。……そうだ」
それでまた、ぐぐっと腰を進められる。
「あ……あ」
太い。大きい。
そして、なんという熱さ。
「苦しいか?」
「い、……いい、え」
口ではそう答えたが、声も体もひくひく震えて、ちっとも「うん」とは言っていなかった。玻璃がまた、堪らなく色っぽい吐息をついて動きを止めた。
「無理するな。今宵はここまでとしよう」
「えっ? い、いやですっ……!」
パッと目を開けて、ユーリは玻璃の体にしがみついた。もう退き始めている玻璃を逃すまいと、両足まで彼の腰に掛けて引き留める。
「どの道、今宵は慣らすところまでのつもりだった。気にするな」
玻璃の声も表情も、どこまでも優しい。その手が宥めるようにユーリの頬を撫でてくれたが、ユーリは引かなかった。
「やだっ。いやです! ちゃんと……ちゃんと、玻璃どのも気持ちよくなってくださらなければっ……!」
「無茶を言うな」
「無茶でもなんでもいいのですっ! だって……だって」
だって、そうでなければ。
これまでだっていつもいつも、自分ばかりが気持ちよくしてもらってきた。玻璃はいつだって、自分のことは後回しにする。誰よりもまず、ユーリが気持ちよくなることを優先してくれる。
でも、だからこそ嫌だった。
今宵ばかりはきちんと、ちゃんと、この方に気持ちよくなって欲しかった。
……この体で、気持ちよくして差し上げたかった。
「どうした、ユーリ。……泣かないでくれ」
困った声でそう言われて、はじめてユーリは自分が涙を流していることに気が付いた。
それを拭うことはしないまま、ユーリは必死で玻璃に頬を緩めてみせた。
「では……やめないでください。お願いですから」
玻璃はしばらく、黙ってそんなユーリを見ていた。
が、ひとつこくりと頷き返すと、ユーリの額にキスをくれて、さらにぐっと腰を進めてきた。
「ひっ……あ!」
ユーリは背中を弓なりに反らせ、必死にその衝撃を受け止めた。
めりめりと音がするのではないかと思った。
でも、嬉しかった。
これでこの人のものになれるのだ。
あとはただ、そのことだけを考えた。
「えっ? あ、いえ……!」
ユーリはかっと頬が熱くなるのを覚えて目をそらした。
玻璃はそのまま無造作に自分の股間に器具を向ける。ぷしゅっと軽い音がした。
「このようして、必要な場所に吹き付ける。簡単であろう? ボタンはここだ。すると、ここから液体が噴霧されて表面に薄い膜がつくられる」
彼が指さした場所には、筒の側面に小さな穴があき、細い管が少しだけ飛び出ていた。
「人体に悪影響は一切ないし、ほぼ百パーセントの確率で避妊が可能だ。男同士の行為でも、伝染病の防止などのために日常的に使われている。普段、不衛生なものに触れる場合に手に噴霧して使う場合もあるぐらいだ」
「そ、そうなのですか」
なんとも便利な物があるものだ。手渡された筒をまじまじと見つめて、ユーリはため息をつきたくなった。こんな小さなものひとつからも、アルネリオの科学力との差を見せつけられた思いだった。
「ただし、けっして生き物の鼻や口に向かって噴霧してはならないぞ。呼吸を妨げ、下手をすれば死なせてしまう。だから子供や判断力の弱い者の手の届くところには置かないように。そこだけは重々、気を付けてくれ」
「は……はい」
「さて。ということで」
玻璃は筒をユーリから受け取って枕の脇に放り出すと、あらためて覆いかぶさってきた。
「少し、お邪魔させて頂くぞ」
「あ……。はい」
玻璃の先端が、ぴたりとユーリの入り口に当てられる。ユーリは思わず固く目をつぶった。玻璃の笑みを含んだ声がおりてきた。
「緊張しているな。肩も腰もがちがちだ。まずは体の力を抜こう。……深呼吸をしてみようか」
「は……はい」
「はい、大きく吸ってー……吐いて」
「いや、あのう……」
なんだろうこれは。
色気の欠片もない上に、まるで子供との遊戯のようだ。
「ほらほら。恥ずかしいなら、一緒にやって進ぜようか。すー……はー……」
玻璃が大きな胸をさらに膨らませて深呼吸する。ユーリは思わず吹き出した。
「ふははっ……は、玻璃どのってば!」
「なんだなんだ。さあご一緒に、配殿下」
「やだっ……あははは!」
(本当に、この方は)
大国の皇太子として、ちゃんと抜け目のない部分はお持ちなのに。こういうときにはおおらかで優しくて、相手をしっかりと思いやる。大きな度量とその腕で、相手をゆったりと包み込む。
……だから、好きなのだ。みんなからも愛されるのだ。
ユーリは玻璃の肩に両腕を回して抱きよせた。
「大好き、です……。玻璃どの」
「ん? それは嬉しいお言葉だな」
途端、玻璃はにこっと笑った。
「ただまあ、こんな滑稽な場面で言われると微妙な気持ちにもなるが」
「あ、いえ。そういう意味ではありませんっ……!」
「ははは! わかっているさ」
言って玻璃は、優しく両腕でユーリの体を抱きしめて唇にキスを落とした。
「俺もだぞ、ユーリ。……愛している」
その瞬間、ユーリの胸にわっと熱いものが溢れだした。
嬉しい。舞い上がる。
こんな風に全身全霊で誰かに求められたことなんてない。
(玻璃どの……!)
目尻に浮かんだ雫を吸い取られる。
口づけが深くなる。
そうして遂に、玻璃自身がユーリの内部に踏み込んできた。
「あっ……ふうっ」
凄まじい熱量と質量が、ぐいぐいと内臓を押しのけてくる。その感覚に息が詰まった。やっぱりどうしても体じゅうの筋肉が緊張してしまう。
「ふう……。さすがにキツい」
玻璃は一度動きを止めて息を吐いた。
「ユーリ、息を吐いてくれ。ゆっくりと」
「は……はい」
玻璃の声も少し苦しげだ。それがまた、眩暈を起こしそうなほどに男の色気を纏ってユーリの腰を刺激した。
「そう。……そうだ」
それでまた、ぐぐっと腰を進められる。
「あ……あ」
太い。大きい。
そして、なんという熱さ。
「苦しいか?」
「い、……いい、え」
口ではそう答えたが、声も体もひくひく震えて、ちっとも「うん」とは言っていなかった。玻璃がまた、堪らなく色っぽい吐息をついて動きを止めた。
「無理するな。今宵はここまでとしよう」
「えっ? い、いやですっ……!」
パッと目を開けて、ユーリは玻璃の体にしがみついた。もう退き始めている玻璃を逃すまいと、両足まで彼の腰に掛けて引き留める。
「どの道、今宵は慣らすところまでのつもりだった。気にするな」
玻璃の声も表情も、どこまでも優しい。その手が宥めるようにユーリの頬を撫でてくれたが、ユーリは引かなかった。
「やだっ。いやです! ちゃんと……ちゃんと、玻璃どのも気持ちよくなってくださらなければっ……!」
「無茶を言うな」
「無茶でもなんでもいいのですっ! だって……だって」
だって、そうでなければ。
これまでだっていつもいつも、自分ばかりが気持ちよくしてもらってきた。玻璃はいつだって、自分のことは後回しにする。誰よりもまず、ユーリが気持ちよくなることを優先してくれる。
でも、だからこそ嫌だった。
今宵ばかりはきちんと、ちゃんと、この方に気持ちよくなって欲しかった。
……この体で、気持ちよくして差し上げたかった。
「どうした、ユーリ。……泣かないでくれ」
困った声でそう言われて、はじめてユーリは自分が涙を流していることに気が付いた。
それを拭うことはしないまま、ユーリは必死で玻璃に頬を緩めてみせた。
「では……やめないでください。お願いですから」
玻璃はしばらく、黙ってそんなユーリを見ていた。
が、ひとつこくりと頷き返すと、ユーリの額にキスをくれて、さらにぐっと腰を進めてきた。
「ひっ……あ!」
ユーリは背中を弓なりに反らせ、必死にその衝撃を受け止めた。
めりめりと音がするのではないかと思った。
でも、嬉しかった。
これでこの人のものになれるのだ。
あとはただ、そのことだけを考えた。
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