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第七章 変わりゆく帝国
13 あなたの声と ※
しおりを挟む「あ、……あ、あふ」
左腕の腕輪を耳に当てるようにしながら、右手で足の間のものを扱く。そこはとっくに欲望の滑りを滴らせている。ぐちゅぐちゅと、淫猥な音が耳を犯す。
が、耳を犯しているのはそれだけではなかった。
《そうだ……ユーリ殿。次は先を、もう少しこりこりとひっかくぞ》
「あ……んっ!」
言われる通りに指を動かし、びくんとまた腰を揺らす。
《そのまま指を滑らせて……袋を撫でる。やわやわと……そう、優しくな》
「あ、ふああ……っ」
深く色気をまといつかせた玻璃の低い声が、すぐそばで囁かれているように聞こえて脳が痺れる。
ユーリは背を弓なりにそらして、熱く喘いだ。
《もうずいぶん濡れてきたな。……後ろは? 触っておられるのか》
「ん、んんっ! そんなこと、しなっ……!」
ブンブン首を横に振ると、玻璃の声がくすりと笑った。
《そうか。まだまだ清いお体か》
また、ちゅっと口づけの音がする。
《それでは、そちらは婚礼のあと、ゆっくりと触れて差し上げよう》
「ん……あ、玻璃、どのお……」
先ほどから弄っていたので、もう腰の中は随分せつなくなっている。ぐっと溜まった欲望の渦がそこでうねり、解放を待って暴れまわる。
「ん……やっ、や、はりどの……」
《もう達しておしまいか? ……そうしようか》
玻璃の声が、恐ろしいほど深くて優しい。
《可愛いぞ、ユーリ殿。……そなたはどんな者より可愛い》
「んんっ……!」
《この世のほかの、誰よりも》
(……ほんとうに?)
そう思うと、ちりりと胸に痛みが走った。
でも。
あなたには、すでにあれほど愛した方があるのだろうに。
大切なお子を儲けるほどに、愛した女人があったのに。
まあ、「この世のほかの」とおっしゃるのだから、言葉としては間違っていないけれども。
この人たちにとっての「あの世」である「ニライカナイ」に逝ってしまわれた方々には、この世の者はどうやったって勝つ術がない。
《少し、手を早めよう》
「ん……っ」
言われるまま、自分のものを扱く手を早める。そうしたら、ごちゃごちゃと要らぬことを考えてしまう脳もだまって発光し始めた。
太く硬くなったそこが、もう堪らないと悲鳴をあげる。
もっと、もっと。早く、強く。
「あ……あっ!」
《そら……もっとだ。もっともっと、快くなられよ。さあ》
「あ、あ、あ……っ!」
耳に流れ込む玻璃の声が後押しをした。
びゅく、と欲望を吐き出して、ユーリは大きく息をついた。しばらくは大きく肩で息をする。
「は……あは……」
《……よい声だった》
満足げな玻璃の声が耳に届く。少し息が荒いように聞こえるのは、あちらでもご自身のそれを慰めておられたからであろうか。
……そうだったら、嬉しい。
だが、自分の手を汚した液体を見つめていたら、ユーリは自分の胸に腐った虚があいたような、堪らない気持ちになった。
こんなの、虚しい。
ひとりで自分の寝室で、こんなことを繰り返すなんてたまらない。
「や、……です」
蚊の鳴くような声で言ったから、届いていないかもと思った。だが、玻璃はちゃんと聞いていた。
《なに?》
「やだ。……こんなの、やだ……」
《ユーリ殿》
はやく、と言ってユーリは腕輪に大切に口づけを落とした。
「はやく……ちゃんと」
その後を追うようにして、堪えていたつもりの嗚咽が漏れ出てしまった。
「あなたに抱かれたい、です……」
玻璃はしばらく沈黙していた。
が、やがて軽く吐息を洩らし、口づけの音を送ってきた。
《そうだな。俺も、そろそろ忍耐の限界かもしれぬ》
「玻璃、どのぉ……」
自分で手首を握りしめて、ぎゅっと額に腕輪を押し付ける。
《思ったよりもこの度の作戦に時間がかかってしまったが。必ず近いうちにお迎えに上がる。正式にお父上に書状を出そう。……それゆえ》
もう少しだけ待ってくれ、と言う彼の声に、見えもしないのにこくこくと頷き返す。
最後に優しく愛の言葉を囁かれて、ユーリは彼に同じ言葉をそうっと返し、ぎゅっと唇をかみしめた。
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