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第三章 海底皇国へ
12 愛撫 ※
しおりを挟む久しぶりの口づけは、蕩けそうに甘かった。
抵抗と言えるほどの抵抗もできず、玻璃の胸元を押し返していたユーリの手からは、力がどんどん抜けていくばかりだ。
「ん……んんっ」
いつの間にか、彼の舌に自分のそれを絡めている自分がいる。
本当は、ずっと待っていた。
最初のあの時、あれはユーリの命を救うための口づけでもあったのだろうが、あれ以来ずっとご無沙汰だったのだ。
次にアルネリオ宮で会ったときには、彼はユーリの手の甲にちょっと口づけをくれただけで、信じられないほどあっさりと姿を消した。
実はユーリは「彼が自分を求めてくれる度合いというのは、その程度のことなのだろうか」と少し訝しんだり、胸に穴があいたような気になったりしていたのだ。あまり認めたくはなかったけれども。
しかし、身体の方はひどく正直だった。
「良かった。お嫌ではなさそうだな?」
少し唇を放して玻璃が囁く。
すっかり腰から下の力が抜けてしまったユーリを、男は太い腕でがっちりと支えてくれていた。
恐らく真っ赤になっているだろう顔で必死に睨みつけてみたが、それすら玻璃の笑いを誘うだけのようだ。腹立たしいが、確かに嫌ではないのだから仕方がない。
と、玻璃がついと視線を下げた。
「……こちらの方は、もっと正直であられるようだ」
「あっ! だめ……!」
証拠をさらに追加するようにして、足の間のものが反応を始めている。玻璃の大きな手がそこを優しく撫でるだけで、ユーリははしたなくも、腰をびくんと跳ねさせた。
玻璃の指先が、布地ごしにそこをかりっとひっかくようにする。
「ふあっ! あんっ……!」
自分でも信じられないような、鼻にかかった甘い声が漏れてしまって、ユーリは慌てて自分の口を手で塞いだ。
しかし、腰は勝手に玻璃の手の動きに合わせて動いてしまう。物欲しげに玻璃の腰に尻を押し当てて、前後に動かしてしまっている。恥ずかしくて堪らない。
「や……や、だめっ。さ、触らないで、ください、ませっ……!」
「こんなに気持ちよさそうなのにか? 謹んでお断り申し上げる」
「は、玻璃どのっ……! あ、んあっ!」
見えない壁に両手をついて、腰を抱かれたまま足の間のものを愛撫され続ける。
「いや、玻璃、どのおっ……」
「ちっとも嫌そうには見えないが。とりあえず、奥の手水へ参ろうか。すぐに楽にして差し上げる」
「えっ? や、やだ……玻璃どのっ!」
手水とは、手洗い場のことだろう。
そこで玻璃が何をするつもりかなんて、教えられるまでもないことだった。
◆
「はあっ……あ、あ、やあっ……だめっ!」
玻璃が「手水」と呼んだ場所は、やっぱり用を足す所だった。基本的な構造は、アルネリオ宮のものと大差ない。比較的狭いスペースに楕円形の什器らしいものがあって、隅に手洗い場などが設置されたデザインだ。ただし、機能はこちらのものよりも遥かに進んだ作りのようだった。
ともかくも。
ユーリはそこで、蓋をした什器に腰かけた玻璃の太い腰に向かい合わせに跨らされていた。下履きの前を寛げられ、足の間のものを露出させた、いかにも情けない恰好だ。
だが、もうそれどころではなかった。
上ではまた激しく唇を求め合いながら、下は盛んに男の手で弄られている。
「やはっ……あ、んあっ、あ……っ」
ぐちゅぐちゅと淫靡な水音が耳をも犯し、小さな個室いっぱいに満ちている。自分の零している快楽に蕩けたようなだらしない声も一緒だ。
たとえようのない快楽が、腰にどんどん集まってくる。今にも変になりそうだった。
ユーリの腰は、もう本人の意思など無視して勝手に振られまくっている。勝手に目尻に涙が溜まってきて、自分でも何を言っているのかわからない。
「あはっ……あ、あ……やあんっ、もう……!」
必死で首を横に振る。
男の大きな手は、思っていたよりずっと器用に動いた。ユーリのものを丁寧にしごき、先端をぐりぐりと刺激しては包み込み、扱き上げるを繰り返す。袋の部分にもやわやわと触れられて、ユーリは声にならない悲鳴をあげ、ぐっと仰け反った。
「あっ……あ、あ」
腰の奥で暴れまわっていた重い欲望が、一気にぐんとせり上がってくる。
(も、だめ……!)
ユーリは男の太い首にかじりつき、背中を丸めて、ぱっと身を縮めた。
目の奥がちかちかする。初めて女を抱いた時だって、ここまで興奮はしなかった。
びゅるっと白濁を吐き出して、ユーリの体が細かく痙攣し、やがて力が抜けていく。ずり落ちそうになった体を、玻璃の腕がしっかりと支えてくれた。
「思った通りだ。そなたはまことに愛らしい」
「……にを、おっしゃ、て……」
ユーリはろくに言葉も紡げないで、玻璃の肩に頭を乗せ、荒い息をつきながら弛緩している。そのこめかみや髪に軽く口づけを落としながら、玻璃は妙に嬉しそうだった。
「心配いらぬ。少し休んでおられよ」
言って男は、部屋の壁に設えられている紙を多めに手に取ると、手早くユーリの後始末を始めた。
ぼんやりとした意識の向こうで玻璃のやっていることを認識しながら、ユーリはちりっと胸の底に痛みを覚えた。
どうしてこんなに、ろくに抵抗もできないのだろう。
この人がこんなに、魅力的すぎるのがいけないのだ。それは分かっている。
自分はきっと、一生かかってもこの人に真正面から反抗なんてできないだろう。
(でも……)
この人は、海底皇国の皇太子だ。
皇太子なら、周囲にいくらでも手をだして構わない美姫や女官がいることだろう。あの兄たちだって、そうした女たちを好きなだけ侍らせている。王族なんて、どこでもそんなもののはず。
今まで考えまいとしてきたことが、ここへ来てぐっとユーリの頭を締め付けてきた。
(この人だって、きっと同じだ)
一応、大国アルネリオの王子としてのユーリだから、正式な伴侶としての立場を用意しようと申し出てくださっているだけで。きっといずれは、自分なんか飽きられるのに違いない。両国の親善のため、安定した国交を維持していくために必要な「駒」だから、この人は自分を欲してくれただけ。
(わかってる。努々忘れてはいけないぞ、ユーリ)
そうやって自分に言い聞かせる。
自分程度の男など、この世には掃いて捨てるほどいる。兄たちのような美貌も才覚もない自分が、今できることといったら、玻璃が求めている役割ぐらいのものなのだ。
「……いかがなさった。どこかお苦しいか」
心配げな男の声が囁いてきて、ユーリはハッとした。先ほどとはまるで意味の違う熱いものが、目から溢れ出てしまっていた。
「な、なんでもありません。参りましょう、玻璃どの……」
男はしばらく、黙ってユーリの弱々しい笑顔を見ていた。
が、たくましい腕にその体を抱き上げ、先ほどの広間へと戻っていった。
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