情事の事情

るなかふぇ

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佐竹と内藤の場合

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「やだっ!」

 突然大声をあげた俺を、佐竹は驚いた目で見返した。

「やだ……。やなんだ。いつも、お……俺ばっかり」
 とうとう我慢できずに顔を歪めてしまった俺を、佐竹は呆然と見返している。
 その顔が、すぐにぐずぐずと熱い雫で遮られて見えなくなる。
「俺ばっか……気持ちイイの、やだ」
「内藤──」

 俺はそのまま、佐竹の首の後ろに両腕を回した。
「俺……オレ、佐竹にも」
 喉がひきつって、上手く声が出ない。
 でも言わなくちゃ、伝わらないから。
「佐竹にも、気持ちよくなって……ほしいんだ」

 佐竹はしばらく、そんな俺の背中に腕を回して沈黙していた。
 やがてその手に力がこもって、抱き寄せられる。

「……内藤」
 耳元で低い声がする。
「いつも、気持ちいいと言っているのに? まだこれ以上、俺をそうしたいというわけか」
「じゃ、なくって──」
 俺は勝手に飛び出ていこうとする嗚咽をかみ殺した。まったくいつもいつも、これには自分でも腹が立つ。言いたいことの半分も伝わらなくなっちゃうじゃないか。

「絶対……負けるもん。俺……女の子には、負けるんだし」
「こんな、いっつも……俺ばっか気持ちいいの……ダメだもん」
「佐竹も、もっともっと……気持ちよくなきゃ。でなきゃ、お、俺なんか」

 「いつ捨てられたっておかしくないもん」とは、さすがに言えなかった。
 佐竹がさも「またそれか」と言わんばかりに軽くため息をついた。
 ぽすぽすと軽く頭を叩かれる。

「……お前はもう少し、自信の持ち方を学ぶべきだな」

 俺はムッとして佐竹を睨んだ。

 自信?
 そんなもんがあるか。
 俺のどこに、女の子に勝てる要素があるんだ。
 それで、どうやって自信なんて持てばいいんだ。
 佐竹は俺の目の中に、そこにめたものをちゃんと認めたようだった。

「……確かに。人の気持ちは目には見えないもんだからな。不安にさせているんだとすれば、それは俺にも責任がある」

 悪かった、と言われて、心臓のあたりがきゅっとなった。
 ちがう。
 別に、お前に謝ってほしかったわけじゃないのに。

「何度言えばいい? 何度その言葉を言えば、そして何度抱けば……お前は、にあるものを信じられるんだろうか」
 言いながら、佐竹は自分の胸のあたりを指さして俺の目を覗き込んだ。
 俺は黙って、佐竹の目を見返した。

(わかってるよ──)

 俺だって、分かってる。
 このクソ真面目が服を着て歩いているような奴の心が、ふらふらと簡単に他の女の方へ彷徨い出たりすることはない、なんてことは。
 でも、どんなに分かってても、不安になるのはどうしようもない。
 こんな風にしていたら、かえってうんざりされて捨てられる日が近づくだけだって、それも分かっているけれど。

 だけど、言葉では多分、足りない。
 それで安心できるんだったら、俺だってこんなにあれこれ悩んだりしないから。
 もちろん、単に抱かれればいい、っていうようなことでもない。

「……抱きしめて」
「いっぱい。俺を、抱きしめて。……できるだけ、たくさん」

 佐竹は俺が言った通り、ぎゅっと背中を抱きしめてくれる。俺は少し上から、その唇に何度も吸いついた。
 佐竹の手が俺の背中や脇腹をなぞって、やがてパジャマの下を脱がせ始める。もどかしくて俺も手伝い、やがて生まれたままの姿になる。佐竹がベッド脇からジェルを手に取って、俺のそこをほぐし始める。

「ん……んう」

 これにもだいぶ慣れたけど。
 でも、男の固い指がそこをなぞって入り込み、ゆるゆると慣らす行為はちょっとまだ気持ち悪い時がある。でも、慣らしておかないとあとで大変なことになるから。
 佐竹は自分の欲望を優先させることは絶対にない。俺の体がちゃんと準備できるまできちんと待っていてくれる。というか、俺がもう辛抱できなくなって「もうやだ、れて」ってお願いするまでは挿れてくれない。
 ぐちゅぐちゅと、下の方で音がする。
 俺は佐竹とキスをし続けながら、下からの刺激で体をはねさせる。

「んっ……あ」

 佐竹の指が増やされて、動きが早くなっていく。じゅぷじゅぷと、下から卑猥な音がする。それを聞いているだけでももう、俺の脳は狂い始める。
 ああ、挿れたい。
 もう、挿れてほしい。
 と、耳のところで声がした。

「……今日は、上に乗るか」
「え……」

 少し体を離して見返すと、佐竹はちょっと変な顔になった。

「誤解するな。そういう意味じゃない」

 言って佐竹は俺をベッドの中央へいざなった。そのまま、寝そべった佐竹の腰の上に跨るみたいに座らされる。
 あ、うん。
 そうだろうなとは思ったよ。
 俺の方が、その……になるっていうのは、あんまり考えられない。俺が挿れて佐竹がアンアン言うなんて、あんまり想像したくないっていうか。
 佐竹は自分のものを俺のそこにあてがって言った。

「ゆっくりでいい。少しずつ腰を落としてみろ」
「あ……うん」

 俺はそろそろと腰を動かして、佐竹の先端が自分のそこに来るようにした。
 ちゃんと入るかな、これ。体位が違うだけで、なんかちょっと不安になる。目線がいつもと全然違って新鮮だけど。
 っていうか、この体勢だと俺がちゃんと動かなきゃ何も始まらないわけで。
 俺はこくりと喉を鳴らして、佐竹のものに片手を添え、ゆっくりと腰を下ろし始めた。

「んっ……」

 十分に慣らされて柔らかくなった入り口は、わりに簡単にぬぷりと佐竹のものを受け入れる。最初の大きくて固い部分が入ってしまえば、あとは比較的スムーズだ。
 ジェルの力を借りてぬるぬると、佐竹の太いのが俺の中に入ってくる。自分の体重のせいで、自然にぐいぐいと杭が突き立てられてくる。

「……あふぁ」

 俺は開けっ放しの口から変な声を出した。
 気持ちいい。
 佐竹の熱いのがまた、俺の中にいっぱいになる。
 俺の尻がぺたりと佐竹の腰に密着するまでおりたところで、一度止まった。
 佐竹の手が俺の太腿の脇をさらりと撫でる。それだけで、ぞくっとまた肌が粟立った。

「まずは、お前が気持ちいいように動いてみればいい」
「あ……うん」

 佐竹の下腹のところに両手を置いて、俺はちょっと、どうしようかと戸惑った。
 佐竹を気持ちよくしようと思ってるのに、こいつはまた「自分が気持ちよくなるように動け」なんて言う。
 ほんと、しょうがない奴だよな。
 いや、でも……そういうこいつだから、俺は好きなんだけど。

 俺はひとつ吐息をつくと、少し腰を持ち上げて、それからゆっくりと上下させ始めた。


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