星のオーファン《外伝》~花弁の痕~

るなかふぇ

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《ミミスリ……ミミスリ》

 頭の中で自分の主人あるじの声が響いて、灰色狼の顔をした男はぴくりと耳を動かした。自分の主人、タカアキラからの<感応>による通信である。
 隣の鷲の顔をした巨躯の男が、その金色をした猛禽の目で、無言でこちらを見下ろしている。
 ミミスリは無意識に、主人とその相手──例の忌々しいスケベづら──が使っている、ドーム型の居住施設にちらと目をやった。

《おはようございます、殿下。いかがなさいましたか》
《ああ、……おはよう。えっと……その》

 あちらから話しかけてきておきながら、主人はなかなか本題に入らなかった。いや「入れなかった」と言うべきなのだろう。十中八九、言いにくい話なのは分かっている。
 ミミスリは、ついこぼしてしまいそうになる溜め息をどうにかこらえた。このところ、主人からのこうした恥ずかしそうな「お願い」が続いているのだ。それも大体、あの「スケベ面」由来のことで。

《……すまない。今朝も、外を散策していたのだけど──その》

 恐らく主人は、顔じゅうで赤面しているのであろう。そのぐらいのことは、思念を受け取るだけでも手に取るように分かる。
 ミミスリは、やや肩を落としてやんわりと機先を制した。

《……了解です。おきますゆえ。どうかご安心を》
《あ、うん……。本当に申し訳ない……》
《いえ。どうぞお気になさらずに》

 そこで通信はぷつりと途絶えた。
 ミミスリは、今度こそ「やれやれ」と吐息を洩らしてしまいつつ、敢えて自分の素晴らしい聴力のレベルを下げた。
 この惑星オッドアイには、もともと素晴らしい警備システムが備わっている。が、いくらなんでもあのご身分の方をなんの警護もなしにスメラギの外へお出しするわけにもいかない。それで今回も自分たちが随伴してきた。
 あの皇子殿下のお気持ちは察するにあまりあるが、そこは我慢していただくより仕方がない。自分たちもなるべくこうして、かの御方おんかたとその相手の男の目に触れぬようにと十分注意して行動しているのだから。
 と、隣の相棒が低く言った。

「殿下は今、外においでか」
「……ああ」

 不満げな声は極力出すまいと思うのだが、どうも失敗しがちである。
 ザンギは滅多に笑わぬ男だけれども──というか、鷲がどんな顔をして笑うのかを自分は知らない──その表情の読めない顔が、一瞬だけ微妙に緩んだようだった。
 なんとなしに、むっとする。

「……なんだ、ザンギ」
「いや。なんでもない」

 唸るように言って見上げたが、ザンギは相変わらずの顔だった。表情の読みにくい生き物の顔というのは、すっとぼけるには都合がいい。

「まあ、あまりかりかりするな」
「……大きなお世話だ」

 ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
 細長く広がる雲の間から、朝の爽やかな陽光がさしこんでいる。平和な小鳥の鳴き声を混ぜ込みながら、その日差しがゆっくりと島の空気をあたためはじめていた。





「っは……あ、や……んん」

 その頃。
 男の手と舌に翻弄されて、アルファは桜の太い幹に両手をつき、とうに熱い吐息と甘い声ぐらいしか出せなくなっていた。
 ベータはアルファの体を後ろから抱き込むようにして少しずつ衣服を脱がせ、首筋に、肩に、背中にとあらためてその印をつけなおしている。その手が胸のかざりをこりこりと弄び、脇腹を撫でおろして足の付け根のあたりでうごめいている。
 ちらりと見れば、昨夜彼がつけた場所をなぞるように、ほぼ正確にまた例の「花弁はなびら」が自分の身体に散りはじめていた。

「んあ……う」

 敏感な部分に触れられるたび、アルファの身体はびくりと反応した。
 恐らく故意なのだと思う。その手が一向に、アルファが「触れて欲しい」と思う部分に到達しない。ベータの手は肝心な場所のすぐ脇をするりと指先で撫で、そのままやわやわと内腿や尻のあわいに触れておいて、またすぐに別の場所へ滑っていく。
 両手で尻をもみしだいておきながら、その間へは指をさらりと辿たどらせるのみだ。
 こんなことを繰り返されて、アルファのそこはもうとっくに欲望を主張してそらを指しているというのに。

「や、……あ……あ、ベータ──」
「何が『イヤ』なんだ? 言ってみろ」

 後ろから、耳たぶを甘噛みしながら囁かれる。
 分かっているくせに、どうしてもアルファの口にそれを言わせたいのだろう。目尻に涙のたまった目でどんなに睨んでも、男はただ嬉しそうに、にやにやと笑うばかり。そうと分かっているけれど、つい睨みたくなってしまう。
 その目もとにまたキスを落とされて目を閉じた。

「ん……」
「言えよ。どこを、どうして欲しいんだ」

 困って少しうつむく。一度唇をきゅっと噛み、あれこれ逡巡してから、やっと思い切って言おうとした矢先、「ただし」とベータに遮られた。

「『ここ』とか、『そこ』とか、そういう指示語は却下だぞ」
「え──」

 心の中を見透かされてでもいるのだろうか。今まさに、自分は彼の手を導いてそう言おうとしていたのだ。
 つまり、「にさわって」と。

「ちゃんと言えたら、思う存分触ってやる。……だから」

 言いながら、またかするように、さらりと下腹から太腿のあたりを撫でられた。ぴくっと体がはねてしまう。
 もう、立っていられなかった。
 膝が震えて、ずるずるとそこにしゃがみこんでしまいそうになる。ベータが背後から抱きしめる形で支えてきた。唇で首筋にまた痕をつけられ、その指がまた、くりくりと胸の突起を刺激している。

(ああ……たまらない)

 もっと……もっと。
 もっと、しっかりと触れて欲しい。
 見なくても分かる。今、自分のそこは情けないぐらいに上を向いて、欲望の雫をたらたらとこぼしているのに違いなかった。男のものを迎え入れる悦びをすっかり覚え込まされた場所も、ひくひくと「先を、先を」としきりに強請ねだっている。
 ベータの指が、アルファの足の付け根の筋を確かめるようにして、ゆるゆると撫でていく。その指が肝心の部分を無視して、その下の袋をやわやわと揉みしだいた。

「あ……ひっ! ……っく」

 アルファはぶんぶんと首を横に振った。

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