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終章
エピローグ(1)※
しおりを挟む「ん、あ……ふああっ!」
特別医療機構の建物内の一室で、ストゥルトはさっきからずっと甘い声をあげている。
こうした「作業」のために特別に作られたという部屋は、一般家庭の寝室のような落ち着いたつくりになっていて、寝台──こちらでは「ベッド」と呼称するが──も清潔でやわらかな寝具できちんと整えられている。
いま、ストゥルトはその上で生まれたままの姿になり、同じ姿になった男に散々に喘がされていた。
室内に、聞きなれた淫靡な水音がひびいている。それがどんどんストゥルトの脳を白濁させ、どろどろに溶かしていく。
シンケルスと自分に新たに与えられた住み心地のいい居住空間とは別の寝室──いや、実際のここは医療施設であり、これは飽くまでも「仕事」だったが──で、ストゥルトは何度目かの叫びをあげた。
「ふああっ……!」
尻の奥の一番イイ場所を的確に男の指に刺激されて、腰をびくんと震わせる。と同時に、欲望のもとが一気に爆発し、奔流となって飛び出していく。
「ふあ……あ」
くたりと力を失ったストゥルトの汗ばんだ体を、シンケルスは大切そうに抱きしめてくれている。額に、頬にと口づけを落としながら。
腰のあたりにつけられた物がちょっと邪魔だが、ストゥルトもゆっくりと男の背中に腕を回した。
局部をすっぽりと覆うような筒型の器具の先からは細い管が伸びていて、寝台の下につながっている。ストゥルトが吐き出したモノは、飛び出したと同時にそこにきれいに吸い取られて、この施設の大切な「資産」になるのだ。
──そう。
これこそが、ストゥルトが何よりもこの時代の人々に対して「協力」しなくてはならない大切な「仕事」でもあった。
最初に聞いた時にはなんだか恐ろしくて、背筋が寒くなったのを憶えている。
『なんだって……?』
この医療機構から派遣されて、ふたりの甘い新生活に不協和音を流し込んできた使者の女性を、ストゥルトは気味の悪い思いで見返したものだ。見るからに聡明そうな三十がらみの女性は、淡々と事態を説明してくれた。当然、シンケルスも同席していた。
『つまり、古代人としてのあなた様の遺伝情報は、わたくしたちにとって大きな財産たり得るのです』
『いでんじょ……なんだって??』
そもそも、そういう基本的な知識からして薄いのだから、一度説明されただけですらりと理解するのは難しかった。
隣でシンケルスもあれこれと補足説明をしてくれて理解できたことをまとめると、こうだ。
人口減少に転じたあとの人類は、結婚と出産を繰り返すうち、どんどん血が濃くなっていった。近親交配こそ禁じられているのだが、どうしても数が減ると似たような遺伝情報をもつ者同士で番になってしまいやすくなる。そうすると、なぜか生き物は生きる力のようなものを減じてしまい、ひ弱になりやすくなるのだそうだ。
『ですから、時々ご協力いただけないかと。ストゥルトさんの爪や髪の毛、それに血液をわずかばかりと、それから──』
と、彼女が続けて言ったモノがこれだったのだ。
最初は面食らい、「いや、さすがにそれは断る」と言ったストゥルトだったが、シンケルスに「実はそれが一番重要なんだ」と言われ、遂に説得されてしまった。
……ゆえに、こういうことになっている。
ひとりでこの部屋に来て、ひとりで「作業」しても構わないわけなのだが、シンケルスがそれを嫌がった。それで、こうして協力してくれているわけだ。
行為に及んでいる間は、誰もこれを観察してはいない。そういう「ぷらいばしー」とやらはきちんと確保されているという。いや、ストゥルトにそれを確かめる手段はないから確信は持てないけれど、シンケルスが保証してくれたから渋々応じることにしたのだ。
そんなわけで、あれから数か月に一度ぐらいの割合でふたりでここにやってきて、この奇妙な作業に没頭する。
「仕事らしい仕事」といったら今のところこのぐらいで、あとは前にレシェントも言った通り、色々なこの時代の人々との交流が活動の中心になっていた。
作業が終わり、部屋のすぐ隣に設置されているシャワールームで体を流すと、ふたりは着替えて少し休憩し、外へ出た。
ちょっと溜め息がでる。
(ああ……つらい)
そうなのだ。
実はこの「作業」、とてもつらい部分がある。
なにがつらいって、行為が非常に中途半端なのだ、とても!
「大丈夫か」
隣から心配そうに訊き、シンケルスが優しく腰を抱き寄せてくる。
「ん……大丈夫だけどさ。は、早く……かえろ」
だって、我慢できない。
腹の奥がずくずくとまだ欲望を主張している。こんなのでは足りない。
この男の、太くて熱くて、体じゅうがどろどろに溶かされてしまいそうなあの楔を、もっとしっかり感じたいのに。
あの部屋の中では、最後の性交に及ぶことは禁じられているのである。あれは単純に、ストゥルトの精液を搾り取るだけの行為に過ぎないからだ。
ただ指で、あんな風に触られるだけなんて!
そんなの、ヘビの生殺しのようなものではないか!
「お前の……ちゃんと、欲しい」
「わかっている。早く戻ろう」
「ん」
そうやってエア・カーに乗り、家に戻るとすぐに寝室に直行する。
シンケルス──今ではストゥルトも、だいぶ「トウマ」呼びに慣れてきたが──だってつらいはずだった。何しろ、ストゥルトのあられもない姿と嬌声をさんざん目の前で見せつけられ、聞かされて、自分の欲望は押し殺したままなのだから。
シャワールームで一度だけ、後処理として吐精してきてはいるものの、男も相当つらそうだった。
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