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第九章 反撃
6 誘惑 ※
しおりを挟む「こら、ストゥルト──」
衣服を脱いでふたりで生まれたままの姿になり、シャワーが洗浄をはじめた途端、ストゥルトはシンケルスにしがみついた。首に腕を回し、唇を合わせる。
「いいだろっ。ここでなら、こういうことをしたってすぐきれいになるんだし」
「それはそうだが」
「声が外に漏れるか? 私は聞かれたって構わないが」
「……いや。それはない」
言う間にも、ストゥルトは何度もシンケルスの唇を吸い、少し髭の伸びた顎に、そして喉にと口づけた。男は苦しげに眉を寄せた。
「よせ。……加減できなくなる」
「できなくなれよ。私は構わない」
「俺が構うんだ」
「うるさい。だまれ」
口ではそんなことを言いながら、シンケルスの手はしっかりストゥルトの背中と腰を抱きしめている。熱をもった互いの足の間のものが、その欲望をはっきりと証明しながら擦り合わされている。
「んあ……あ」
離した互いの舌の間に透明な糸をひかせながら、ストゥルトはわざと鼻にかかった声で喘いで見せた。腰をくねらせ、男のそれに自分のそれを押し付けて煽りたてる。片足を上げてそのまま男の腰に絡めた。
「ん……っ。ほら……もう我慢できない。お前だって欲しがってる。そうだろう……?」
男の眉間に皺が刻まれた。と思った次の瞬間、がしっと尻を掴まれて思いきり深い口づけをされていた。
熱い舌が自分の口内を這いまわる。淫靡な水音が小さな部屋の中に響いている。音はストゥルトの耳を犯し、脳を痺れさせていく。
「はう……っん、んくっ」
腰のものが痛いほどに張り詰めていく。ストゥルトよりずっと大きな質量と重みをもった男のものが隆々と天を指して硬くなり、ごりごりと自分のそれにこすり付けられている。男の口より、ここのほうがよっぽど正直だと思う。
ストゥルトはうっとりと目を開いた。すぐ目の前に、明らかな熱を灯した男の瞳がある。
こいつはまだ、一度もこの体で果てたことがない。
いつもいつも、こちらの欲望を満たすことだけを最優先にして、自分のことは後回しだった。
(それとも……)
もしかしたら、変な遠慮があるのかもしれないとは思っていた。
自分が皇帝だから? いや、ちがう。
恐らくそれは、彼が未来人であることと関係があるのだろう。
(あとは私が……未経験だから、か)
性奴隷どもと散々な真似をしてきた自分だが、後ろを他人に犯されたことは一度もない。インセク少年の体だったとき、傭兵どもにもう少しで輪姦されるところだったが、あれもこの男が危機一髪で救ってくれた。
「んっ……あ、シン……ケル」
男の名を呼ぼうと思うが、たいてい全部は言わせてもらえず、何度も唇をふさがれた。
男の吐息が荒く、熱くなっていくのが嬉しい。これは彼が、自分のこの身体を求めてくれているからだから。この身体に、ちゃんと感じてくれているという証だったから。
「シンケルス……なあ、シンケルス」
荒い息をどうにか静めて、男の顔を両手ではさみ、真正面からその瞳を覗きこむ。いつもは静かに凪いでいる男の瞳の中に、揺れる炎とかすかな獣性が仄見えた気がした。
欲しがってくれている。
だったら多分……いまなら、言える。
「抱いてくれ……ちゃんと、最後まで」
男の眉がまた寄せられる。
「なあ、いいだろ……? 一度だけでも、いいから……さ」
言いながら、ちゅ、と音を立てて男の唇の端に口づけを落とす。男の眉間にさらに深い皺が刻まれた。
「しかし」
「それはもういい。聞き飽きた」
「だが……初めてだろう。すぐには準備できないぞ」
「準備してくれるのか?」
男はそこで少し黙った。
「十分時間をかけないと、お前がただつらいだけになる。……それは望まん」
「……そうか」
ふつふつと腹の底から湧きあがってくる温かいなにかで、自分の頬がだらしなく緩むのを感じた。
「だったらゆっくり、しっかり準備してくれよ。……お前が。いいだろ?」
男の耳にちゅうっと吸い付いてからその囁きを流し込む。
「抱けよ。私を思いきり啼かせてみろ。声が枯れてしまうほど」
「…………」
「気持ちよくて気持ちよくて、最後には気を失ってしまうほど。何度だって……私の中でイくがいい」
ストゥルトは顔を離すと、またじっと正面から男を見つめて微笑んだ。
「私の中で果てよ。思いきりな。これは命令だ……シンケルス」
途端、男の目がカッと開いた。
次いで、凄まじい力で抱きしめられた。ほとんど息もできないほどだった。
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