愚帝転生 ~性奴隷になった皇帝、恋に堕ちる~

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
100 / 144
第八章 変転

7 未来人の作戦

しおりを挟む

 彼らの説明はこうだった。
 宇宙からきた謎の生命体による歴史への干渉を知ったエージェントたちは、即座にその情報を本部へ伝え、対策を練った。こうした場合のため、人間は未来へ戻れないものの、情報だけなら伝達できる技術がすでに発明されていたのだという。
 そこからどういう歴史が積み重なったかは割愛するが、とにかくずっと先の未来の姿がずいぶん変わったというのである。

「少なくとも、邪魔者の正体とかれらが邪魔をしている方法がある程度特定できたのは大きかったのですよ。情報があればあるほど、こちらは対処しやすくなる。当然ですけれどね」

 説明の大部分を担ったのは、リュクスだった。

「各時代を訪れて活動しているエージェントたちにも、この情報は知らされました。そして僕ら未来の者は、彼らに対処する機材やシステムの開発に力を入れることになりました」
「実際の時間軸は別でしたが、僕らはこちらへ再びエージェントを送り込むことに成功しました。もちろん、開発した様々なシステムや道具を持ってね」
「じゃあ、あの……火山の噴火は?」
「そう、それなんですよ」

 リュクスはにこりと笑うと、テーブルの上に例の光る画面を開いて画像が見えるようにした。そこにはあの火山のある島の様子が映し出されていた。前にも見せられたことがある画像だ。

「奴らを叩くためには、できるだけ古い時代がよいというのは本部の一致した意見でした。この時代よりも古い時代に戻ることも検討されたのですが、それをやってしまうと、人類の歴史に与える影響が多大になりすぎるかもしれないということになりました」
「影響が大きくなる? どうしてだよ」
「まあ、簡単なことなんですけれどね」

 リュクスは細めの目をさらに細くした。

「まだ『人間』にもなりきっていない頃の人類の祖先は、とてもひ弱な生き物でした。爬虫類である巨大な生物が地上をのし歩いていた時代には、ちいさなネズミに似た生き物の形をしていて、森の中に隠れ住んで生きていたと言われています」
「へえ……? ネズミだって?」
「ええ。びっくりするでしょうけれど、そうなんですよ。それから少しずつ環境に適応したものが生き残り、今の人間の姿になってきました」
「へー!」

 それは初耳だ。
 人間というのは、そうやって形を変えながら続いて来た生き物なのか。
 それでは神話の世界の「神々から生まれた」とかなんとかいう話は、まるきり人間によるつくり話ということになるのだろうか?
 あれこれと考えるうちにも、リュクスの話はつづいている。

「さらにその前ということになると、もっと難しい。ちょっとした影響で、人類そのものが生まれてこないなんていう悲劇にもつながりかねない。それでは本末転倒です」
「ふーん。そりゃそうか」
「と、いうことで、僕らはこの時代に狙いを定めた。ある程度人類が地球上に増えて広がり、一気に絶滅などはしないだろうと思われる時代。かといって、あまり科学が発展しておらず、比較的僕らが動きやすいと思われる時代。人々は船や動物を使って長距離を移動し、何かが起こった場合にもある程度逃げることが可能。そういう時代だと判断したわけです」
「んー。まあいいや。どっちみち、そのへんは聞いたってよくわからないし。で? 《火の島》をどうしたんだよ」
「はい。こちらをご覧ください」

 ぐっと画像が大きくなって、火山のある島の中身が透けたような絵に変わった。前にシンケルスと一緒に入った洞窟の入り口らしい穴から、地面の中に細い通路がおりていき、その下に大きな空洞があるのが見える。
 そこからぐっと下ったさらに地下深い場所には、夕日のような色をしたうねうねと光る巨大な流れが見えた。

「この空洞が、要するに敵の中枢部です。その下にあるオレンジ色のものは地下のマグマ……といってもわかりませんね。岩が非常な高温でどろどろに溶けたような部分です」
「ええっ? 地下にはそんなものがあるのか」
「そうです。このマグマが地球内部の活動によって噴火口から噴き出すのが火山噴火ですね。……で、僕らはこう考えた。ここをほんの少しだけ刺激することで、彼らの本拠地をつぶせないかと」
「なんだって……!?」
「もちろん、ほんのちょっぴりです。あまりひどい噴火を引き起こしてしまうと、周辺に住んでいる人間や動植物にも大きな影響が出てしまいますからね。歴史にも大いに関わってしまうことになるし」
「そ、そりゃそうだ! でも本当にそんなことができるのか?」
「噴火を引き起こすポイントをよく調べておけば、誘発は意外と簡単なのですよ。未来の僕らは地熱を利用したエネルギーも使っていたので、技術は十分もっていました」
「うーん……?」

 またよくわからない単語がずらずらと並び始めた。
 が、ストゥルトはある程度以上を理解することは放棄した。
 実際、そんなにこだわることはない。とりあえず今は、自分に直接関係のある情報だけがわかればいいのだ。

「結論から言いますと、作戦はおおむね成功しました。未来の僕らは徹底的に奴らの介入を退けていたので、作戦が事前に漏れることもなかった。エージェントが前の僕のように脳を乗っ取られることもありませんでしたし」
「ふーん」
「で、先日遂にその作戦を実行しました。それが、あの火山噴火というわけです」
「……ふう」

 なんだか頭がくらくらしてきて、ストゥルトはため息をついた。与えられる情報が多すぎてついていけない。すでに頭の中がぐちゃぐちゃだ。
 隣からシンケルスがさりげなくお茶のカップを差し出してきたので、ありがたくひと口いただく。今は彼らが《コウチャ》と呼ぶ、甘みのない茶だった。

「それで? あいつらは全滅したのか」
「それが……そうはいきませんでした」
「そうなのかよ!」

 なんだ、がっかりだ。
 体じゅうでそう主張してしまったストゥルトを見て、リュクスは軽く苦笑した。

「おおむねは成功した、とは言えるのですよ。でも、いかんせん討ち漏らしが出てしまった。まあ想定内ではありましたが」
「討ち漏らしだと? どういうことだ」

 《火の島》の地下にあったのは、数知れない奴らの本体だった。それらはほとんどが凍結された状態で保存されており、実際に地上で活動していたのはごく一部であったらしい。
 もともと彼らは地球の環境にあまり適応できておらず、だからこそ人間の脳を乗っ取ることで人類の歴史に介入していたのだ。その作戦がうまくいき、地球上を彼らにとって快適な状態にできた暁には、全員が表に出てくる予定だったということだろう。

「奴らだってバカじゃありませんからね。何通りかの予想をたてて、火山の地下基地がダメになった場合など、何通りもシミュレーションして必ずがきくようにしていたということです。当然の処置ですね」
「じゃあつまり、逃げたやつらがいるんだな? どのぐらいだ」
「実数はわかっていませんが、数百匹にもならないだろうというのが《アリス》の予想です。動いていた連中だけでなんとか脱出し、場所を変え、また別の基地を作るつもりではないかと」
「あるいは、すでにもう作ってあるかだな」

 口を挟んだのはシンケルスだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...