愚帝転生 ~性奴隷になった皇帝、恋に堕ちる~

るなかふぇ

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第八章 変転

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 男はわずかに目を細めて、ストゥルトの心の奥底まで見通すようにじっと見つめてきた。

「陛下。どうやらあなた様には、自分にお話しくださっておらぬことが非常にたくさんおありのご様子」

 うぐ、と喉がつまった。この男はきっと、自分が思っている以上のことをとっくに見通している。そんな気がした。

「自分がお聞きするのはまずい話にございますか。ならば無理にはお聞き致しますまい。自分は陛下の単なる護衛にすぎぬ身ですゆえ」
「…………」
「ですが。シンケルスがそのようにせよと申しましたか。自分にその話はするなと?」
「いや……そうではないが」

 年は親子ほども離れているものの、彼らは十年以上におよぶ知己ちきであり、非常に近しい戦友だ。こんな風に距離をおかれ、秘密を持たれるのはこの男にとって決して面白いことではないだろう。
 もしも自分が同じ立場だったなら、とっくに叫び散らかして大暴れをしてしまっているかもしれない。自分だけが蚊帳の外に置かれているというのは、それほど寂しくいたたまれない気持ちがするものだから。

(だが……どうする? この男に話してしまっても大丈夫なのだろうか)

 いや、それはできない。少なくとも今はまだ。
 そもそも未来がどうの、人類の滅亡がどうのと、よくわかってもいない自分が説明するというのも不安が大きい。きっとしどろもどろで何が言いたいのかわからない話になってしまうだろう。まして、自分たちの周りに人間とは別の敵が常に潜んでいたのだなどとこの男に説明するのか? この自分が。

(いやいや。無理だって!)

 とてもではないが自信がない。
 だがこの男なら、その素晴らしい胆力と深い洞察力とで事態をはっきりと理解してくれるやも知れぬ。知っておいてもらえれば、今後はいままで以上に自分たちの力にもなってくれるにちがいない……。

(ああ、しかし──)

 頭のなかがぐるぐると同じところを回るばかりで、ストゥルトはどうしても結論に至ることができなかった。それでとうとう、肩を落としてがっくりと頭を垂れた。

「すまぬ……。今はどうか、見逃してはくれまいか」

 男は鋭い視線でストゥルトの足を床に縫い留めたままである。

「本当にすまない。だがこれは、私だけでは到底決めかねることなのだ。もしもシンケルスが良いと言うなら必ず話す。あれは無事であることが、たったいま確認された。……この、ペンダントで」

 首から赤い石の光るペンダントを持ち上げて男に見せる。男の目がすっと細くなってじっくりとそれを観察する色になった。

「きっと近いうち、あの男自身がそなたと直接話をすることになるだろう」
「まことにございますな」
「ああ。言ったとおりだ。シンケルスは生きている。生きているなら、必ず私のもとへ戻ってくる。……あれがそう約束したのだから」

 最後は完全に自分に言い聞かせる言葉だった。
 じっとりと澱んだ沈黙がおりてきた。
 ほとんど息がつまりそうになりながら、ストゥルトはそのつらい時間を耐えた。
 やがてとうとう男はこちらに向かって武人式の礼をした。

「……了解いたしましてございます」

 そうしてくるりと向き直って扉に向かった。
 が、男はすぐに足を止めることになった。その時、急に扉の外が騒がしくなったのだ。まもなく外に立っていた衛兵が扉ごしに声を掛けてきた。

「陛下。面会を申し出ている者がございますが、いかがいたしましょう」
「面会? こんな時間にいったい誰か」
「最近側付きになりました女どもの一人にございます。火急の用件があるとのことで、どうしてもお会いしたいと申しておりますが」
「分かった。れよ」

 入室してきた女は、ひどく青ざめた顔をしていた。崩れ落ちるように床にひざまずき、トゥニカの前のところを両手でもじもじと握ったり離したりをくりかえしている。

「や、夜分に失礼いたします、陛下。すぐにほかの者からも報告があると思ったのですが……早い方がいいかと思って」
「そうだったか。それは気遣いをありがとう。で、なにがあった?」

 女はそれでもしばらく口をぱくぱくさせてかなりの時間逡巡した挙げ句、やっと言った。

「リュクス様が、お亡くなりになりました」
「……なに?」
「例の地震のあとしばらくして、急に大声をあげて駆け出したのだそうです。誰の声も聞こえない様子でどんどん走って王宮の屋上にのぼり……衛兵の止める声も聞かず──身を、投げたと」

(なんだと……!?)

 あのリュクスが!
 あの男の頭の中身は謎の宇宙生物であるはずだ。その宇宙生物が自殺をはかったというのか? 信じられない。
 いったい何が起こったというのか。
 このことに、あの火山の噴火は関係あるのか……?

 ストゥルトは血の気の失せているだろう顔をあげ、背後のフォーティスと目を見かわした。
 フォーティスは眉間に皺をきざみ、ひどく難しい顔になっている。
 ストゥルトは呆然と沈黙したまま、その鋭い視線を見返していた。

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