愚帝転生 ~性奴隷になった皇帝、恋に堕ちる~

るなかふぇ

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第八章 変転

1 露見

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 遂にストゥルトにその連絡が入ったのは、火山噴火による混乱の平定と事後処理に追われている最中さなかのことだった。
 その頃にはようやく民心は落ち着きをとりもどしかけ、神殿につめかけていた人々も三々五々、自宅へ戻り始めていた。とはいえ半分以上は、兵士らに追い立てられるようにして戻されただけだったが。

 幸い民らのなかに家を失ったり命を喪ったりした者はなかったけれども、その代わりに相当な数の怪我人がでた。本来ならこのまま大騒ぎになるは必至だった。けれども、それまでに少しずつ医療院を組織しはじめていたドゥビウムが、急場しのぎではあったが町の各所に救護所を設置してくれ、そこで多くの怪我人を受け入れてくれたことでことなきを得た。
 それは大いに機能して、人々を安堵させるのに一役も二役も買ってくれた。

 ついでながら、別に頼んだわけではなかったのだが、ドゥビウムが「この医療院は皇帝陛下のお考えなのだぞ」とことあるごとに吹聴してくれたものだから、民らはこれまで「愚帝よ」と蔑んでいた皇帝の評価を大いに上げてくれたようである。


《……こえますか。聞こえますか》

 深夜、疲れ果てて寝所にもどり、女たちがひと通り眠る前の世話を終えて退室した瞬間、胸のところでペンダントがびびっと震えた。それと同時に声がした。

(……!)

 慌てふためいて胸元から取りだすと、そこからやっと声が聞こえ始めた。ただそれはストゥルトが待ちわびていた人の声ではなく、しかもひどく雑音が多くて聞きとりにくいものだった。落胆はどうしても否めなかったが、それでも待ちわびた連絡なのは間違いなかった。

《ストゥルト陛下……聞こえていましたら返事を──》
「ああ、聞こえてるっ! 《アリス》だな? いったいどうした。なにがあったんだ!」

 いつものように寝台に飛びこんで掛け布の中に潜りこみ、必死にペンダントに耳を寄せる。
 通信をしてきたのは、あの飛行艇《イルカ》の中にいた「えーあい」、《アリス》だった。

「シンケルスは? レシェントは? 無事なのか? それに……インセクはどうなったんだ。体の交換はうまくいったのか?」

 矢継ぎばやに訊きたいことをまくしたててしまっている自覚はあったが、とても我慢できなかった。
 しばらくは雑音だらけでほとんど何も聞き取れないほどだったが、その向こうからなんとか《アリス》の声が聞こえてきた。

《はい。みなさん、無事でいらっしゃいます。インセク様とディヴェの意識交換は無事に成功。インセク様はすぐに生き残りの一族のもとへと送りとどけられました》
「そうか……よかった」
 まずは胸をなでおろす。
「で、あの地震は?《火の島》の火山が噴火したというのは本当か。なにかお前たちと関係があるのか? 異星人のやつらはどうなった。あそこはあいつらの本拠地があったはずだろう?」

 質問があまりにも多すぎるのか、《アリス》はしばし沈黙してからまた言った。

《噴火したのは、例の異星生物が拠点を置いていた島の近くの火山です。噴火させたのは……シンケルス様たちは……》
「えっ。なんだって? よく聞こえないぞっ」

 そこから必死で耳を澄ませ、ペンダントを耳に押し当てて何度も質問したのだったが、石は次第に雑音しか発しなくなり、やがてふつりと沈黙してしまった。

「くそっ……!」

 これでは何もわからない。
 しかしどうやら、火山の噴火は自然に起こったことではなさそうだ。それに、シンケルスたち自身にも大いに影響がでたような口ぶりだった。やっぱり何かあったのだ。なにか、大変なことが。
 そう考えたらいても立ってもいられなくなった。ここでゆっくり眠っているなんてとてもできない。
 ストゥルトは飛び起きると、夜着の上からそばにあったマントを巻き付けて外へ出ようとした。

「えっ……うわ!」

 ぎょっとなって立ち尽くす。
 寝室の入り口のすぐ内側に、まだ立っている武人の姿があったのだ。

「フォ、フォーティス……。まだいたのか」
「ええ。まだおりました」

 男は不思議なぐらい落ち着いた瞳の色で、じっともの問いたげにこちらを見返している。ストゥルトは反射的に体を固くした。

(まずい……)

 聞かれただろうか。今の会話を。
 背中をいやな汗がつつうと落ちていく。
 フォーティスはこちらとは対照的だった。普段どおりの落ち着いた物腰である。次に聞こえた声も、いつもどおりの穏やかなものだった。

「シンケルスは無事のようですな。何よりにございます。ところであの地震の理由も、陛下はご存知にあらせられたというわけですか?」
「い……いや。まさか、そんなわけはあるまい」

 ついじりじりと後ずさる。下腹に力をこめてふんばっているつもりだったが、じっと見つめてくる鷹のような目から視線をそらさないようにするだけで必死だった。だがそれは決して功を奏したわけではなかった。
 男はわずかに目を細めて、ストゥルトの心の奥底まで見通すようにじっと見つめてきた。

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