愚帝転生 ~性奴隷になった皇帝、恋に堕ちる~

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
66 / 144
第五章 神々の海

12 すり替え

しおりを挟む

「ということは、貴様は主犯を知っているのか? 三年後の皇帝ストゥルト暗殺の黒幕を」

 青年は無表情にシンケルスを見返した。

「それを聞いてどうするの? 僕に教えてあげる義務があるのかな」
「別に損もしないんだろ? だったら教えてくれたっていいじゃないか」
 少年は思わず口を挟んだ。
 ふたりが驚いたようにこちらを見た。
「お前が私の、もとの体のサイボウ……だかを盗ったのは、私が毒殺されたときじゃないのか? だったらその前後の状況も観察していたはずだろう。その、間諜をやらせている羽虫かなにかで」
「おお。ただただおバカさんなだけかと思っていたら。なかなか鋭いじゃないか、皇帝ちゃん」
「それはやめろ。その呼び方はやめろ」
「えーっ。可愛いじゃない? 僕は気にいってるんだけどな、『皇帝ちゃん』」
「きさまっ……!」

 バンッとテーブルを叩いて立ち上がったら、すぐに「落ちつけ」とシンケルスに肩をつかまれて座らされた。むくれた顔で男をにらむ。

「なんだよっ。お前だって聞きたいはずだろう? こんな、話をあっちこっちやってけむに巻こうとする奴の言うままにしていたって埒があかないだろうがっ!」
「それはまあ、その通りだな。……どうなんだ」

 後半はもちろん偽ストゥルトに向かっての言だ。
 青年は別に動じたふうもなく、吐息をこぼして指先で頬を撫でた。

「実際に毒を盛った者はわかってる」
「そいつはだれだ!」
「当時、君のそばにいつもいた性奴隷のひとりだよ」
「なんだと……」

 少年は目を見開いた。
 そうして、あの時自分の近くにいた奴隷たちの顔をひとつずつ思い出した。
 だれだ。いったいどいつがそんな不遜なまねを──。

「そこは別に問題じゃない。その子は単に、いろんな甘言を聞かされてはかりごとに乗っただけ。つまり利用されたわけだ。その証拠に、君の死後すぐに死体になってみつかっている」
「なんだって……」
「勝手に『亡くなった皇帝の後を追って死んだ』っていう美談にされていたよ。服毒自殺だってね。哀れなものさ」
「では黒幕は?」

 切りこんだのはシンケルス。

「さあ。王宮の誰かには違いない。身分が高くて皇帝の地位を狙っている者。あるいは皇帝が死ぬことで大きな権益を手にできる者……」
「そんなことはわかってる! そんな奴なら山ほどいるんだ!」

 少年が叫ぶと、そのとおりと言わんばかりにシンケルスも頷いた。
 青年は呆れたように薄ら笑いを浮かべてふたりを見比べるようにしている。

「だからさ。僕らにはそんなこと、興味ないんだよ。人間の権力争いや舞台裏なんてどうだっていいのさ。そもそも詳細に調べもしないし、誰にも共有されない。だから当然、僕も知らない」
「おっ、お前っ……!」

 またもや青年につかみかかりそうになった少年を、シンケルスが再び捕まえて椅子に座り直させた。少年はそれでもシンケルスの腕を逃れようとそこで暴れた。

「放せよ、シンケルスっ! こいつっ、こいつ許せないいっ!」
「気持ちはわかるが落ちつけ。まだ訊きたいことがある」
「でも──」
 言い募ろうとする少年を男は目だけで黙らせて青年に向き直った。
「王宮に、貴様らの監視装置を忍び込ませていると言ったな。羽虫のようなタイプの極小ロボットか何かなんだろうが。人間はどうなんだ」
「人間?」
「頭の中の記憶を入れ替えてしまえば、そいつはお前の仲間ということになるんだろう。スパイのし放題というわけだ。そういう奴を忍び込ませているのか」
「あはは、なるほどね。君、なかなか勘がいいねえ」

 青年はけたけた笑った。その笑いが答えのようなものだった。
 少年はまたぞうっと背筋に冷たいものを覚えた。

「その通り。君たちが知らないだけで、君たちのそばには僕らの仲間があちらこちらに配置されている。もとの人間の記憶を学習してから乗り移るから、言語や会話、過去の事情の記憶なども完璧だ。見破られることはまずない」
「…………」
「なるべく丈夫で殺されにくい立場にある個体を選んでいるけれど、たとえ殺されたところで実害はほとんどない。記憶を取り出して保存しておき、また別の個体へ乗り移るだけのことだからね」

 そこでさすがのシンケルスも怖い顔のまま押し黙ってしまった。
 少年も愕然と青年を見つめて無言になる。
 なんということだ。なんという、恐るべき存在か。これでは誰を信じればよいのかわからなくなってしまう。

「ま、……まさかとは思うが」
「なんだい? 皇帝ちゃん」
「未来の……つまり、シンケルスたちの時代にも、お前たちが頭の中に入っている人間が大勢いたのか?」

 シンケルスがハッとして少年を見た。

「なかなか冴えてるね」青年は笑みを崩さないまますらりと言った。「その通りだよ。さっきも言ったとおりにね」
「…………」
 シンケルスが愕然と目を見開いた。
「だからこそ、君たちが皇帝暗殺の三年前に再度タイムリープしてくることを知り得たわけだ。当然でしょ?」

 そこでしばらく沈黙が降りた。
 青年は面白そうにシンケルスの表情をうかがう様子だ。少年は隣からはらはらしながら男の顔を覗き込んでしまう。
 やがてついに男が訊いた。

「まさか……俺たちの中にもいると?」
「《ペンギンチーム》のことを言ってるんなら、答えはイエスだよ」

(……!)

 少年は呆然とシンケルスの横顔を見上げた。
 シンケルスはもちろん、そこで氷の彫像となって停止していた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

法律では裁けない問題を解決します──vol.1 神様と目が合いません

ろくろくろく
BL
連れて来られたのはやくざの事務所。そこで「腎臓か角膜、どちらかを選べ」と迫られた俺。 VOL、1は人が人を好きになって行く過程です。 ハイテンポなコメディ

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...