愚帝転生 ~性奴隷になった皇帝、恋に堕ちる~

るなかふぇ

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第五章 神々の海

4 光線銃

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 そのまま《イルカ》は次々と《神々の海》の島々の上空を飛行して、つぶさに観察していった。レシェントに言わせると、これでようやく詳しいデータが取れたという話だった。

 言われた通り、島の崖っぷちにとまったセイレーンたちは上半身だけは美しい女に見えた。長くゆたかな髪を流し、いずれ劣らぬ美しさと優しい相貌をもっている。ただしその背から生えているのは紛れもない鳥の翼だった。腰から下も鳥のそれで、鱗のある足に大きな鉤爪かぎづめが生えている。
 幸いなことに《イルカ》が「すてるす」とやらいう状態なので、彼女たち──と呼んでいいのかどうかははなはだ疑問だが──はまったくの無反応だった。
 近くに迷い込んできた船でもあれば、彼女たちは美しい歌で船乗りたちを迷わせておびき寄せ、頭からぼりぼりとむさぼり食ってしまうと言われている。無視してもらえるならば御の字だった。

 船はそのまま、数々の島の上を飛び越した。
 沢山の豚を飼うという美女キルケ―。伝説によればあの豚たちは迷い込んできた船乗りの男たちが魔法によって変身させられたなれの果ての姿だという。しかし、あれは本当なのだろうか。
 家畜用の柵の中でぶうぶう、ブヒブヒいっている豚たちは至極暢気のんきな姿で、本物の豚としか見えなかった。
 キルケ―はうねうねと長く美しい髪をした美女だった。確かに美しい。だが少年は恐ろしさが先に立つばかりで、うっとりしている余裕などなかった。

 海の怪物スキュラについては、上空からだとほとんど姿は見えなかった。そもそも普段は深い海の底にひそんで眠っていて、船が近づいてきた時にだけ目を覚まし、恐ろしい姿を現すらしい。
 そうして船乗りを食らい、背後の《火の島》を守護しているというわけだ。

 そう言えば先日船で近づこうとしたとき、自分たちはひどい嵐に襲われた。あれも不思議なほどあっという間に現れて消えてしまった。レシェントに言わせれば「あれも人工の嵐だろう」という。なにか非常に進んだ「カガクリョク」とやらを使って起こした、人為的な嵐だと。
 あんなものを起こせるのだとしたら、相手はいったいどんな恐るべき存在だというのだろうか。というか、本当に神なのでは?
 そんな相手から「おいで」と言われている自分は、果たして無事に帰ることができるのだろうか……?

(しかし──)

 《火の島》を目前にして少年は様々な疑問にとりつかれている。

「でも、変じゃないか?」
「なにがだい、皇帝ちゃん」

 例の謎の存在は、みずから自分を招いたはずではないか。それなのに、あんな嵐を起こして自分たちを追い返そうとした。あそこでもし自分が水死などしてしまったら、一体どうするつもりだったのだろう。

「ああ、そりゃあ……。単純に、ほかの人間は邪魔だったんだろ?」
「恐らくそういうことだろうな」
「えええ……?」

 レシェントとシンケルスが言うには、こうだった。
 奴が欲しがっているのはインセクの体を持つ皇帝と、皇帝の体をもつインセク少年のみだ。ほかの色んなはだれ一人必要ない。奴にしてみれば適当にふるいにかけて取り除き、目的の者だけを拾い上げて連れて帰ればいいのだ。

(あの嵐は……ふるいなのかよ)

 少年は呆れた。
 そりゃあ自分たち皇族や貴族だって、平民どもの命などさほど重くは考えていないかもしれぬ。またそうでなければ戦争などできないだろう。しかし、その存在にとっての人間の命は自分たちが思うよりもはるかに軽いもののようだ。まるで鳥の羽のごとくに。
 それがなぜ、こんな少年ひとりのことにはひどく執着しているのか。
 それほどの力を持ちながら、いったい何が不足しているのだろう。
 考えるうちにも、《イルカ》はもう《火の島》に到着しかかっていた。

「俺と《アリス》はステルス状態のまま近くにいる。ま、あんまり意味はねえだろうが一応な」
「意味がない? なぜだ」
「だって皇帝ちゃん。俺らは今まで、この海域にほとんど近づくこともできなかったんだぜ? つまり俺らのステルスなんか、そいつにとっちゃまるっきり無意味だってこった。丸見えも同然かもな」
「そ、そうなのか……?」

 そんなところに自分とシンケルスだけで降りてしまって、本当に大丈夫だろうか。だがここまで来た以上、引き返すことなどできない。
 島に降下し始めるまえ、少年はシンケルスと一緒に最終的な装備の準備をおこなった。船内で履いていたものよりずっと丈夫で底が厚く、ふくらはぎのところまである長い靴。ペンダントを確認し、短剣は腰に差す。
 ひと通り終わったところで、少年はシンケルスからとあるものを渡された。

「これを」
「ん? なんだこれは」

 手のひらよりふた回りほど大きな、妙な形をしたものだ。大きさのわりには重いので、金属でできていることだけは分かった。ベルトつきの入れ物に入っている。

光線銃レイ・ガンだ」
「へ?」

 固まった少年にはお構いなく、シンケルスはその道具の使い方を淡々と説明し始めてしまう。

「このレバーを下げると撃つことができる。安全装置だ。ここをこう持って、この引き金を引くと、ここから光る熱線が出る。絶対に銃口に手などかざすなよ」
「ちょっとまて」
実弾バレットの銃ほど反動はこないが、それでも肘は曲げるな。足はしっかり踏ん張れ。こちらの手をこう添えて撃つ」
 言って少年にも実際に持たせ、背後に立って姿勢を直してくる。
「おいって!」
「撃ち終わったら、ホルスターに戻す前に必ずレバーは元に戻せ。普段は太腿の脇のところに──」
「だからまてよっ。なんだよこれは!」
「俺たちの武器だ」
「武器……?」
「どうしてもという時には使え。まっすぐに光線が出て、当たった物を破壊する。弓の三倍ほどは遠くに届く。遠距離攻撃用だから、短剣を使うより安全だ」
「え、ええ……」
「島についたら少し試し撃ちをやっておこう。基本的には俺が守るが──」

 そこでふと、シンケルスは言葉を途切れさせた。気のせいかもしれないが、ふと少年から視線をはずす。ぴりっと嫌な予感がした。

「俺がいなくなった場合、お前も自分のことは自分で守らねばならん。何があっても生きて帰れ。ペンダントでレシェントに連絡すれば、すぐに迎えに来てくれる」
「そんな──」

 急にそんなことを言われても困る。
 さあっと血の気が引いていくのが自分でもわかった。

(お前になにかあるなんてこと──)

 そんなこと、今の今まで想像すらしなかったのに!

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