愚帝転生 ~性奴隷になった皇帝、恋に堕ちる~

るなかふぇ

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第四章 海に棲むもの

3 短剣とペンダント

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 その夜、部屋に戻ってからのこと。
 少年は男から思わぬことを宣言された。

「この旅、俺も同行するぞ」
「ええっ!?」

 少年は目を丸くした。いや、ぜんぜん期待しなかったわけではない。できれば彼が一緒に来てくれたらいいなと考えなかったと言ったら嘘になる。でも彼は近衛隊の隊長だ。四六時中皇帝を守ることが彼の仕事なのだから、土台無理だと諦めていたのである。
 いつまでも阿呆のような顔でいたら、男はなぜか不機嫌そうな目でこちらを見下ろしてきた。

「なにを驚いている。当然だろう。その体はインセクのものだ。俺には守る義務がある。何度も言ってるだろうが」
「あー。なるほどね」

 思わず肩を落としそうになるのを懸命にこらえた。
 どうせこの男の行動理由なんてそんなものだ。中身である自分のことが心配で……なんてこと、あるはずがない。いちいちうきうきとわき立つ自分自身の心がめちゃくちゃに忌々しい。いい加減、へんな期待はやめればよいものを。

「陛下からの許可もすぐに下りた。警護は副隊長に一任してきた。すぐにも準備にとりかかる。海が少しでも穏やかな季節のうちに行ってしまった方がいいからな」
「ああ、うん……」
 変に唇を突きだした顔になっている自覚はあるが、そのぐらいは許してほしい。
「それと」
 男は「これを」と言って自分の懐からなにかを取り出し、少年の手に握らせた。
「えっ……?」
 短剣だった。
 皇族が使う飾り物のそれのようなきらびやかなこしらえではないけれども、少年の手にしっくりくる大きさと重さのものだ。

「え、これ……」
 鞘を払って刃を出してみて、少年はさらに驚いた。
「まさか……鉄か」
「ああ」

 なんと、鉄製とは。
 このあたりでは、まだまだ青銅製の武具が中心である。青銅よりも丈夫な鉄は、本当か嘘かしらないが空から降ってきた星の塊から採れるのだという。材料が非常に貴重である上、製鉄の技術を持つ部族も限られるため稀少性が高い。
 かれらはかつて各国からその技術を狙われ、奪いあわれたという過去を持つ。だが今では時代が変わり、みな帝国のお抱えとして大切に保護されている。それやこれやの事情もあって、鉄製の武具は非常な高値で売り買いされると聞いていた。
 高価な鉄製の武器を売った金は国庫に入る。製鉄法をこちらで押さえておけば、帝国と敵対する国々へは売らないようにするなど、適度に流通を調節することも可能になるわけだ。
 
「今のお前の体格ならこちらのほうが扱いやすいはずだ。丈夫で軽いものを選んでおいた。常に肌身離さぬようにしろ」
「う、うん……」

 ありがとう、とつぶやくように言った言葉を、男の耳はちゃんと聞き取ったようだった。軽く顎を上下させたことでそうと知れる。
 少年は腰ひもに鞘の革ひもの端をくくりつけ、短剣を大事に懐に押しこんだ。

「それから、これなんだが」

 言って男は、今度は懐から鎖のついたペンダントタークエを取り出した。これもそんなに華美な造りではないが、なかなか美しいものだった。先に紫色の宝玉がつけられている。石は少年の親指ほどの大きさだった。
 そしてその真ん中に、見覚えのある鳥の意匠。
 男はその宝玉を軽く指で叩いてみせた。

「これをこのように三度たたく。それからこれに向かって話す。……なにかしゃべってみろ」
「えっ……?」

 いきなりそんなことを言われても困る。面食らって呆然としていたら「俺の名前でいい。言ってみろ」と面倒くさそうに促された。

「ええっと……。シ、シンケルス……?」

 その時だった。シンケルスが手にしている彼の青いペンダントから声が聞こえた。いま、自分が言ったのと同じ言葉だ。
 シンケルスは無表情のまま自分のペンダントに口を寄せた。

「こうすると通信ができる。聞こえているな?」
「うひゃ!」
 少年は耳をおさえてとびあがった。
 言われた通りだった。手にした紫の宝玉から、シンケルスの声がそのまま聞こえてきたのだ。
「何かあって離れてしまったとか、他にも俺が不在のときに身に危険が迫ったら使え。すぐに迎えに行く」
「ちょ……ちょっと待てよ!」

 思っていた以上に素っ頓狂な声が出た。

「まてよ、まてよ! なんだよ。なんなんだよっ、これは……!」

 こんな技術、見たことも聞いたこともない。こんなものが存在したら、この世界の戦争の様相は大きく変わってしまうことだろう。馬を飛ばして何日もかかる伝令の意味が消え失せる。
 どうということもないペンダントのようだけれど、これひとつでこの世界の勢力図は大きく書き換えられてしまうだろうに。
 だが男は相変わらず眉ひとつ動かさなかった。

「ひとたび海に出れば、いま以上に連絡がとりにくくなる。一度はぐれるとあとが面倒だ。これがあればすぐに場所も特定できる。短剣ともども、肌身離さず身につけておけ」
「ちょ……聞けよっ。シンケルス!」

 少年は無意識のうちに男の衣服の裾にとりついていた。
 これは何だ。いったいどういう技術なんだ。
 なんでお前は……いや多分あのリュクスもだが、なんでこんな技術を持っている? こいつらはいったい何者なんだ。

「そのうち話す、と言った」
「いま言えよ。でないと怖くて、こんなの身につけていられないだろ」

 少年が睨みつけると、男はまた眉間に深い皺をきざんでじろりと少年を見下ろした。

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