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第一章 転生
10 喘ぎ ※
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見下ろしてくる目がまるで氷のようだ。体の芯まで凍えたような気になって、少年は目を逸らした。
なんだろうか、この気まずさは。
そうだ。この男は別に、自分に対してなんの良い感情も持たないのだ。むしろあるのは嫌悪ばかりにちがいない。
そもそも自分が皇帝であった時から、この男の態度は妙に冷ややかだった。命令されたことはきちんとこなすものの、ろくに目も合わせてこない。近衛隊の隊長などという特別な立場のくせにだ。
高貴な者とはあまりまともに目を合わせるべきでないのは事実だ。だが、この場合はそういうことではないだろう。むしろそれをいいことに、男は半ば以上、皇帝たる自分を無視していたと言っていい。
間違いない。いま、それが確信に変わった。
この男は自分を嫌っている。憎んですらいるのかもしれない。
いや、ほんとうは知っていた。この男は皇帝たるこの自分をひどく嫌っていることを。まるで蛇蝎を嫌悪するがごとくに。
そんなことは分かっていたのに、胸の奥に変に痛くて苦いものが居座って、どうしても消えてくれない。
「う……う」
少年が静かになったのを見計らって、男は首から胸、さらにその下へもどんどん痕をつけていく。
「うっ……!」
胸の尖り。それに脇腹。
敏感な場所を刺激されるたび、少年の腰はかるくはねた。
その唇はやけに熱く感じた。
ひとかけらの気持ちもないくせに。忌々しい。
わずかに残された唾液に空気が触れると、きゅうにひやりとつめたくなる。
唇はそのまま静かに下へ、下へとおりていって、やがて足の付け根までやってきた。
「ああ……っ。やだっ!」
少年はいつのまにか両側に開かれていた両足を必死に閉じようとした。羞恥に堪えないことだったが、足の間にあるちいさなモノは、なぜか少年の意思に反してゆるゆると勃ちあがりかけていた。
かりっと腰骨の上を咬まれる。
「ひいっ!」
「後ろを向け。腰を上げろ」
「えっ……?」
驚いて見上げると、やっぱり氷のような目が自分を見下ろしているだけだった。
「そこも詳しく検分されるはずだ。安心しろ。少し緩めておくだけだ」
「そ、そんな──そんなことまでしなくていいだろ!」
自分はそちら側の経験はない。相手が女であれ少年であれ、いつだって抱く側だった。いやもちろん、この少年の体そのものは経験豊富だろうけれども。
が、男は少年の意向など当然のように無視した。寝台脇の小さな台からそうした行為のための油の入った小瓶をとりあげる。潤滑剤となるオリーブの油だ。
(ま、まさか……本当に?)
血の気が引いていくのがはっきりわかった。
◆
暗い寝室に少年の喘ぎと水音がひびく。
「あ……っ、あ……!」
油のぬめりをまとった男の指が、少年の体の中を行き来している。
もっと痛みがあるかと思ったが、この少年の体はごく自然に異物の侵入を受け入れた。そうだ、この少年は経験豊富なのだったと今さらのように思い出す。
「あ、いや……んっ、あうっ……」
そんな声は出したくないのに、口から嫌でも甘ったるい変な声が漏れでてしまう。後ろの口も物欲しそうにぐぽぐぽといやらしい音をたてて、少年の耳を犯してゆく。
と、男の太くて長い指がとある場所をずるりと掠めた。
「ひゃうっ……!」
快感が前の先端にまで突き抜けて、あやうく達しそうになる。
やはり慣れた体だ。後宮の閨でさんざんに愛してやった少年たちが、獣のように両方の口からよだれを垂らしながら啼く様を、毎夜のように楽しんだことを思い出す。
こんな快感だったのか。
もしもその場所を男のそれでさんざんに突かれたら……。
ぞくぞくんっ、と奇妙な期待感が前のものに伝播する。想像だけで達してしまいそうになり、溢れ出そうになる奔流を必死に堪えた。そこは少年としての質量ではありながら、もう十分に欲望を主張していきり立っている。
奴隷の少年たちのこの部分を、自分はどれほど「おお、可愛いぞ」などと言いながら撫でさすり、あるいは舐め、あるいは革紐で戒めて弄んだことだろう。
最後には少年たちの奥の奥までを味わいながら、ぴゅぴゅっと欲望の証をはきだすそこを楽しく眺めたものだった。
が、男の声はひたすら冷たく無情だった。
「このぐらいでいいだろう」
「えっ……」
そう言うなり、少年の上からぱっと離れる。ほとんど少年の体を放り出すに近かった。「残りは貴様が勝手にやれ」と言わんばかりだ。
そっと見上げると、やっぱり嫌悪を押し隠したような暗い瞳に出会うばかり。
なんという冷たい横顔。少年の胸はまたきりっと痛んだ。
なんで痛いのかわからない。でも本当に痛いのだ。
少年はかたく唇を噛みしめた。
男はそばの台にある盥で手早く自分の手を洗うと、さっさと寝床にもぐりこみ、こちらに背を向けて横になってしまった。
「あとは知らん。好きにしろ」とその背中が告げている。
少年は呆然として座りこみ、自分の股間にそそり立っているものを見つめた。
「ううっ……」
──情けない。
そう思ったとたん、裸の太腿にぱたぱたっと温かい雫が落ちた。
なんだろうか、この気まずさは。
そうだ。この男は別に、自分に対してなんの良い感情も持たないのだ。むしろあるのは嫌悪ばかりにちがいない。
そもそも自分が皇帝であった時から、この男の態度は妙に冷ややかだった。命令されたことはきちんとこなすものの、ろくに目も合わせてこない。近衛隊の隊長などという特別な立場のくせにだ。
高貴な者とはあまりまともに目を合わせるべきでないのは事実だ。だが、この場合はそういうことではないだろう。むしろそれをいいことに、男は半ば以上、皇帝たる自分を無視していたと言っていい。
間違いない。いま、それが確信に変わった。
この男は自分を嫌っている。憎んですらいるのかもしれない。
いや、ほんとうは知っていた。この男は皇帝たるこの自分をひどく嫌っていることを。まるで蛇蝎を嫌悪するがごとくに。
そんなことは分かっていたのに、胸の奥に変に痛くて苦いものが居座って、どうしても消えてくれない。
「う……う」
少年が静かになったのを見計らって、男は首から胸、さらにその下へもどんどん痕をつけていく。
「うっ……!」
胸の尖り。それに脇腹。
敏感な場所を刺激されるたび、少年の腰はかるくはねた。
その唇はやけに熱く感じた。
ひとかけらの気持ちもないくせに。忌々しい。
わずかに残された唾液に空気が触れると、きゅうにひやりとつめたくなる。
唇はそのまま静かに下へ、下へとおりていって、やがて足の付け根までやってきた。
「ああ……っ。やだっ!」
少年はいつのまにか両側に開かれていた両足を必死に閉じようとした。羞恥に堪えないことだったが、足の間にあるちいさなモノは、なぜか少年の意思に反してゆるゆると勃ちあがりかけていた。
かりっと腰骨の上を咬まれる。
「ひいっ!」
「後ろを向け。腰を上げろ」
「えっ……?」
驚いて見上げると、やっぱり氷のような目が自分を見下ろしているだけだった。
「そこも詳しく検分されるはずだ。安心しろ。少し緩めておくだけだ」
「そ、そんな──そんなことまでしなくていいだろ!」
自分はそちら側の経験はない。相手が女であれ少年であれ、いつだって抱く側だった。いやもちろん、この少年の体そのものは経験豊富だろうけれども。
が、男は少年の意向など当然のように無視した。寝台脇の小さな台からそうした行為のための油の入った小瓶をとりあげる。潤滑剤となるオリーブの油だ。
(ま、まさか……本当に?)
血の気が引いていくのがはっきりわかった。
◆
暗い寝室に少年の喘ぎと水音がひびく。
「あ……っ、あ……!」
油のぬめりをまとった男の指が、少年の体の中を行き来している。
もっと痛みがあるかと思ったが、この少年の体はごく自然に異物の侵入を受け入れた。そうだ、この少年は経験豊富なのだったと今さらのように思い出す。
「あ、いや……んっ、あうっ……」
そんな声は出したくないのに、口から嫌でも甘ったるい変な声が漏れでてしまう。後ろの口も物欲しそうにぐぽぐぽといやらしい音をたてて、少年の耳を犯してゆく。
と、男の太くて長い指がとある場所をずるりと掠めた。
「ひゃうっ……!」
快感が前の先端にまで突き抜けて、あやうく達しそうになる。
やはり慣れた体だ。後宮の閨でさんざんに愛してやった少年たちが、獣のように両方の口からよだれを垂らしながら啼く様を、毎夜のように楽しんだことを思い出す。
こんな快感だったのか。
もしもその場所を男のそれでさんざんに突かれたら……。
ぞくぞくんっ、と奇妙な期待感が前のものに伝播する。想像だけで達してしまいそうになり、溢れ出そうになる奔流を必死に堪えた。そこは少年としての質量ではありながら、もう十分に欲望を主張していきり立っている。
奴隷の少年たちのこの部分を、自分はどれほど「おお、可愛いぞ」などと言いながら撫でさすり、あるいは舐め、あるいは革紐で戒めて弄んだことだろう。
最後には少年たちの奥の奥までを味わいながら、ぴゅぴゅっと欲望の証をはきだすそこを楽しく眺めたものだった。
が、男の声はひたすら冷たく無情だった。
「このぐらいでいいだろう」
「えっ……」
そう言うなり、少年の上からぱっと離れる。ほとんど少年の体を放り出すに近かった。「残りは貴様が勝手にやれ」と言わんばかりだ。
そっと見上げると、やっぱり嫌悪を押し隠したような暗い瞳に出会うばかり。
なんという冷たい横顔。少年の胸はまたきりっと痛んだ。
なんで痛いのかわからない。でも本当に痛いのだ。
少年はかたく唇を噛みしめた。
男はそばの台にある盥で手早く自分の手を洗うと、さっさと寝床にもぐりこみ、こちらに背を向けて横になってしまった。
「あとは知らん。好きにしろ」とその背中が告げている。
少年は呆然として座りこみ、自分の股間にそそり立っているものを見つめた。
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──情けない。
そう思ったとたん、裸の太腿にぱたぱたっと温かい雫が落ちた。
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