愚帝転生 ~性奴隷になった皇帝、恋に堕ちる~

るなかふぇ

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第一章 転生

3 性奴隷

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 そんなことを思ううちに、奴隷の分配はとうに始まってしまっていた。
 係官がそれぞれの将官や兵士らについてこのたびの戦功を述べ、宮殿にておこなわれた論功行賞の結果を発表し、ふさわしい褒美がつぎつぎに与えられていく。
 皇帝から与えられる金銀財宝や土地、家屋、家畜などに加えて、敵から奪った馬や女たち、また少年たちが適宜分配されていくのだ。女や少年たちはその後、かれらの奴隷として使われることになる。
 敵兵の男らは人質として金品と交換できそうな者以外はほとんどその場で殺され、残りは逃げ散ったためここにはいない。

 奴隷の女や少年たちは、すすり泣いたり互いの体を抱き合ったりして震えているか、すべてを諦めた目をしてぼんやりしている者がほとんどだ。
 さして驚くにはあたらない。このような場面はいつものことだった。戦いの後にはこうして敗北者からの戦利品の分配が行われるのが当たり前。我が国のため命を懸けて戦った兵士らにこうして報いてやれなければ、為政者の威信は揺らいでしまう。
 選ばれる奴隷については、最初から番号かなにかがつけられ、区別されているらしかった。兵らはなんら迷う様子もなく、つぎつぎに奴隷を選んでは引いていく。少年はそこではじめて、自分の足枷になにかの記号があることに気付くという体たらくだった。

(ん……?)

 ちらりと見ると、近衛隊長シンケルスが長身の体を折り曲げ、なにごとかを皇帝に耳打ちする様子だ。皇帝は茫洋ぼうようとした表情で、こくりと素直に頷き返している。
 少年はどきりとした。
 ふたりの視線がほんの一瞬、自分に向けられたような気がしたのだ。

 周囲に立っていた女たちも少年たちもどんどん減っていき、気が付けば少年は広場にたったひとり取り残された状態になっていた。
 少年はおどおどと周囲を見回した。
 この姿になってから、自分がどんな容姿になっているのかはよくわからない。捕虜収容施設には鏡などという高級な代物はありはしないし、未明にたたき起こされてから今に至るまで、ちょっと水桶をのぞくことすらできなかったからである。
 だから周囲の人々が自分をどのように見ているのかはわからない。新たな主人に腰の紐をつかまれ、疲れきってへたりこみ、うつむいているだけの奴隷たちのほかは、みな興味深そうな目をしてことのなりゆきを見守っている。
 係の文官が手にした羊皮紙を一瞥し、最後に少年の行き先を宣言しようとした時だった。

「ま、まってくだ……待つのだ」

 蚊の鳴くような震える声がした……ような、気がした。皇帝の玉座の方からだった。皇帝がぷくぷくした太りじしの指をあげ、もごもごと口を動かしている。
 場の一同は申し合わせたようにさっと沈黙して玉座のほうを見つめた。少年もびっくりしてそちらを見る。
 皇帝が何かまたごにょごにょ言っている。が、何を言っているのかさっぱり聞こえない。脇に立つシンケルスが、いやにくそ真面目な表情で聞き取っているようだ。やがて男はみなの方へ向き直ると、よく通る低い声で宣言した。

「陛下は斯様かようにおっしゃっている。そこの者は以降、このシンケルスの側付きとして下賜かしされる」
「し、しかし閣下」

 否やを唱えたのは、御前会議を構成する貴族の一人だった。居並ぶ貴族たちの席からおずおずと立ち上がっている。

「もっとも美しい戦利品は、建国以来戦いの女神アテナへの捧げものにするものと決まっておりまする。しきたりを破れば、女神からどのような罰がくだされることか──」
「それならば心配には及ばぬ」

 シンケルスが平板な声で答えた。腹に響くような低音だ。もっとも彼がそう言う前から、その厳しい眼光の一瞥で、貴族は「うっ」と言葉を飲み込んで身を縮めていたけれども。

「美しき者ならばもう一名確保してある。敵の第二王女だ。兵らによって穢されてもおらぬ上、その者よりも美しい。我らにおいつめられた際、自害を試みて少し怪我をしていたため今は療養させている。回復し次第、生贄として捧げるがよかろう。以降はそなたらの自由にいたせ」
「は、ははっ……」

 貴族はそれで引き下がった。
 少年は一連の顛末をただぼんやりと眺めていた。

(美しい……だと? この私が?)

 それは果たして事実なのか。よくわからない。
 ぼうっとしているうちに、脇にいた兵士がもう少年の肩をつかんでぐいぐいと隅へ押しやろうとしていた。

「さっさと歩け。ぐずぐずするな」
「え、でも……」

 抗弁する暇など与えられるわけもない。少年はどんどんシンケルスの方へ引きずられて行く。少年は、兵士の腕に必死にとりすがって小声で訊いた。

「あのっ。わ、私はどうなるのです」
「今後はシンケルス閣下の側付きとなる。身の回りのお世話をし、夜にはとぎによってお慰めせよ」
「ええっ!」

 それはつまり、性奴隷ということか。
 国によっては宗教によって禁じられているところもあると聞くが、この国では特に男色を異端視はしない。むしろ戦場にあっては、兵士や将校が自分専用の愛する若い男子を伴うことも許されている。
 多数の商売女を戦場に伴う国も多いけれども、すぐに腹が膨れてくる女たちは足手まといになりやすいし、男ならば槍をとって戦うこともできる。

(しかし──)

 少年は目の前が暗くなった。
 そんな、まさか。
 私をあのシンケルスの性奴隷にしようというのか!
 自分は、自分こそが本物の皇帝だというのに!

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