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「教えてくれ。あの《火の島》の噴火はどういうことだ? あの近くにディヴェたちの根城があったはずだろう。どうなったんだ、あそこは」

 レシェントの呼びかけて四人はテーブルに移り、そこで主に「新・リュクス」がこれまでの顛末について皇帝ちゃんに説明をしてくれた。レシェントにとってはこれが二度目なので、みなに飲み物など配ってやりつつ適当に聞く。
 シンジョウはさほどでもなかったが、次々に明らかにされていく新情報に、皇帝ちゃんはずっと「へー」とか「ええっ!」とか、見ていて楽しい反応をしまくっていた。
 いや、驚くべきことではある。古代人である皇帝ちゃんが、人類の進化の過程をわりとすんなり受け入れたのは、特にレシェントの気を引いた。もともと神話を事実として考えていたはずの古代人が、いきなり「ネズミのような生きものから少しずつ変わってきた」などと説明されて「はあ、そうなのか」とは普通ならない。
 まあ彼の場合はシンジョウがずっとそばにいて、あれこれと影響を与えてきたからこそなのかもしれないが。
 ……だが、根底にあるのは恐らくシンジョウへの信頼と、多分「愛」ではないかと思う。

 話が《イヌワシ・チーム》による火山噴火誘導に至ったとき、さすがの皇帝ちゃんも度肝を抜かれた様子だった。ただ、詳しい技術を理解するのはどうやら放棄したようだったが。無理もない話である。
 気を落ち着かせるためだろう、皇帝ちゃんは隣からシンジョウが差し出した紅茶をひと口飲み下して吐息をもらし、こう言った。

「それで? あいつらは全滅したのか」
「それが……そうはいきませんでした」
「そうなのかよ!」
 リュクスの返事に、あからさまにガッカリしている。
「おおむねは成功した、とは言えるのですよ。でも、いかんせん討ち漏らしが出てしまった。まあ想定内ではありましたが」
「討ち漏らしだと? どういうことだ」

 要するに、本拠地である《火の島》そのものは叩けたが、ディヴェの仲間たちはかなりの数が逃げ延びた。これからの自分たちの仕事は、その掃討作戦になったわけだ。

「実数はわかっていませんが、数百匹にもならないだろうというのが《アリス》の予想です。動いていた連中だけでなんとか脱出し、場所を変え、また別の基地を作るつもりではないかと」
「あるいは、すでにもう作ってあるかだな」

 口を挟んだのはシンジョウだった。
 問題はあのディヴェだ。例の「蚊」は潰したけれども、ディヴェ本体はまだどこかに逃げ延びている可能性が大である。
 これから自分たちも《イヌワシ・チーム》と協力して、一匹残らず殲滅せねばならない。
 という話になったところで皇帝ちゃんが言った。

「で、次はどうするんだ? 私にも当然、手伝わせてくれるよな?」
「は? 皇帝ちゃん、手伝うんかい。まじで?」

 思わず目を丸くした。
 なにしろこの「皇帝ストゥルト」の体はクローン体だ。今回はオリジナルを皇宮に置いてきたわけだが、《イルカ》で管理しているのとはわけがちがう。《アリス》によれば皇宮で寝かせておくだけでは五日が限度だろうと言われている。
 つまり、あまり長い時間皇帝ちゃんがここにいることはできないのだ。
 皇帝ちゃんはガタンと椅子を蹴って立ち上がった。

「あったりまえだろ! 何のためにここまで来たと思ってるんだよっ!」
「え? シンちゃんといちゃいちゃするため?」
「あっ……アホかぁ!」

 テーブルをぶっ叩いて憤慨している。顔なんてもう真っ赤だ。「むきー
!」なんて言っている。マンガか何かのようだ。
 あの美少年インセクの姿ではなくなったというのに、やっぱり皇帝ちゃんは皇帝ちゃんだ。この青年が可愛いのは、決して外見からではないのだとしみじみわかる。
 たまらずリュクスと一緒に大笑いしてしまったが、案の定シンジョウに殺しそうな目で睨まれた。やれやれだ。

 シンジョウは憤慨している皇帝ちゃんを引きずって着替えさせに行ったようだったが、その後すこしの間戻ってこなかった。単純に皇帝ちゃんを着替えさせるだけだったら、ものの数分も要らなかったはずなのにだ。

(『いちゃいちゃするためじゃねえ』とか言わなかったか?)

 まったくしょうのない奴らである。
 そう思いながら、自分の頬がどうしても緩んできてしまうことがおかしかった。
 新たなコーヒーを淹れ直して、リュクスがそばへやってくる。

「ストゥルト皇帝にずいぶん入れ込んでいるようですね、シンジョウは。どうするんですか」
「んー。そうねえ。どーしたもんかねー」

 顎を撫でつつ、コクピットの天井を見上げる。
 どうにかしてやれないものか。それはずっと考えてきた。
 もう自分たちは今までとは違う。この作戦が完了すれば、恐らく《イヌワシ・チーム》とともに新たな未来へ戻ることが可能だろう。
 そうなったとき、あのシンジョウはいったいどうするつもりなのか。

 自分と同じように──いや地上に降りて実際に戦ってきたシンジョウはさらにだが──多くの苦労と孤独を噛みしめてきた男だ。それはよく理解している。
 その彼が、あろうことかあのアロガンス帝国の皇帝に恋をした。
 ふたりがどんな関係であるのかをつぶさに見てきたのは自分だけだ。

 ……どうにかしてやりたい。
 実はその方策について考えない日はなかったのだ。
 この《ペンギン・チーム》のリーダーとして、彼らにしてやれることを。

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