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16 イヌワシ・チーム

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《マスター。《火の島》が噴火いたしました》
「なにっ!?」

 《アリス》がけたたましい警告音とともにそう告げたのは、それから数日後のことだった。

《こちらが現場の状況です》
「うおっ……」

 コクピット・ルームに表示された映像には、天に黒々と湧きあがる噴煙の姿があった。
 《アリス》に情報収集を命じ、小型の無人偵察機を飛ばす。シンジョウが直接出向こうと申し出てきたが、リーダーとして阻止した。わざわざ危険を冒して近づく必要はない。あれがただの噴火でないならなおさらだ。 
 あそこは異星生物ディヴェたちの本拠地。
 どんな罠が待ち受けていないとも限らないのだから。

「ともかく、《アリス》。皇帝ちゃんに連絡だ。向こうが無事かを確認しろ。あと、俺らは無事だってこともな」
《了解いたしました》

 だが、通信はなかなかうまく行かなかったようだ。理由はわからない。あの噴煙が自分たちの通信網のどこかを遮断したのかも知れなかった。
 だとすれば「罠」である確率が濃厚だ。これは油断できない。
 通信機能の回復にトライしつつも、しばらくはじりじりとした時間だけが過ぎた。皇帝ちゃんへの連絡は《アリス》がやってくれたのだが、通信障害がひどすぎてどこまで伝わったものか定かではなかった。

 ところが。
 その緊張は、とある驚くべき通信が入ったことで一気に解消されることになったのだ。

《マスター。《イヌワシ・チーム》のリーダー『ハルマ』と名乗る人物からの通信が入っております》
「なにっ!?」

(別チームだと?)

 我が耳を疑うとはこのことだ。
 コクピットの隣に座ったシンジョウも、いつになく目を見開いてこちらを見つめてくる。その目にも自分と同じ驚きの色が浮かんでいた。
 今までこの時代に派遣されたチームはこの《ペンギン・チーム》だけだった。他のチームが派遣されたという話は聞いたことがない。
 少し考えてから「つないでくれ」と返すと、すぐに張りのあるやや低音の女性の声が聞こえてきた。
 女性はまず、お互いの身元確認のためのコードを提示し、所属を明かして来た。

《はじめまして。《イヌワシ・チーム》のハルマと申します。そちらは《ペンギン・チーム》リーダーのトラヴィス殿……いや、レシェント殿で間違いないか》
《間違いない。レシェントと呼んでくれ。今じゃそっちの方が慣れてるんでな》
《了解した。未来で色々と状況が変更した結果、急遽、我々がこちらへ来ることになった。詳細については会って話す。そちらで適当な場所を指定してもらえるか》
《了解だ。それじゃあ、以下のポイントへ──》





 《イヌワシ・チーム》とは、《神々の海》から遠く離れた海域にある、とある無人島で会うことになった。
 相手の飛行艇──実際はタイム・トラベルが可能な機体なので、正式には「時間飛行艇タイム・トラベリング・ボート」とでも呼ぶべきものだが──は、明らかにこちらの《イルカ》よりもはるかに上位機種のようだった。
 シンジョウと二人でそちらにお邪魔する形になったのだが、ちょっと観察するだけでもわかった。内装といい装備といい、《イルカ》なんて足元にも及ばない感じだ。なんだか急に貧乏人になったような気がして、レシェントの気分はやや落ちた。ほんのわずかに。

 が、もちろんそんなことを顔に出す自分ではない。
 リビングルームらしき場所へ案内され、皆に紹介されたときには、とっくにいつものニコニコ笑顔になっていた。

「いやあ、よく来たな~こんなとこまで。お疲れお疲れ~」
 
 舌はいつものように軽く回る。
 対するあちらチームのリーダー、ハルマ女史は、いかにもお堅いクソ真面目女という感じだった。ごく慇懃な未来人式の一礼をされ、チームメンバーを紹介される。
 当然ながら、あちらは七人全員が揃っていた。
 ハルマ以外にも、小柄な女性が一人。あとはすべて男だ。屈強な奴もいればヒョロヒョロした青白い顔の兄ちゃんもいる。当然、「頭が切れる枠」なのだろうと思われた。兄ちゃんは「イェイツ」と紹介された。

 イェイツはすぐに今回の火山噴火を誘発させるミッションについて説明を始めてくれた。
 そうなのだ。なんと、あれはこの《イヌワシ・チーム》の仕業だったのである!

「事前にそちらに連絡できなくて済まない。《ペンギン・チーム》との連絡を取る前に速攻を計る必要があったもので」
「そこは理解してる。こっちにゃあディヴェのスパイもいることだしなー」

 そうだ。あのリュクスがいた以上、不意打ちの作戦をこちらに知らせておくのは悪手だろう。
 ハルマは「ご理解を感謝する」とまたクソ真面目に一礼して、今後の話を始めた。

 レシェントとシンジョウにとって、それは驚くべき話の連続となった。
 ディヴェたちの存在が確認され、あの「羽虫」のようなミニロボットの情報が未来に届けられたことを契機に、未来世界の状況は大きく変わりだしたというのだ。
 レシェントにとって最も驚きだったのは、技術革新の結果《イヌワシ・チーム》の飛行艇には《イルカ》にはない未来世界への帰還モードが装備されていることだった。

(戻れる──)

 すっかり諦めていた未来世界への帰還。
 それが、この《イヌワシ・チーム》の機体でなら可能になるというのだ!
 これには、いつもはクールなさすがのシンジョウでさえ驚きを隠しきれない様子だった。
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