16 / 31
16 イヌワシ・チーム
しおりを挟む
《マスター。《火の島》が噴火いたしました》
「なにっ!?」
《アリス》がけたたましい警告音とともにそう告げたのは、それから数日後のことだった。
《こちらが現場の状況です》
「うおっ……」
コクピット・ルームに表示された映像には、天に黒々と湧きあがる噴煙の姿があった。
《アリス》に情報収集を命じ、小型の無人偵察機を飛ばす。シンジョウが直接出向こうと申し出てきたが、リーダーとして阻止した。わざわざ危険を冒して近づく必要はない。あれがただの噴火でないならなおさらだ。
あそこは異星生物ディヴェたちの本拠地。
どんな罠が待ち受けていないとも限らないのだから。
「ともかく、《アリス》。皇帝ちゃんに連絡だ。向こうが無事かを確認しろ。あと、俺らは無事だってこともな」
《了解いたしました》
だが、通信はなかなかうまく行かなかったようだ。理由はわからない。あの噴煙が自分たちの通信網のどこかを遮断したのかも知れなかった。
だとすれば「罠」である確率が濃厚だ。これは油断できない。
通信機能の回復にトライしつつも、しばらくはじりじりとした時間だけが過ぎた。皇帝ちゃんへの連絡は《アリス》がやってくれたのだが、通信障害がひどすぎてどこまで伝わったものか定かではなかった。
ところが。
その緊張は、とある驚くべき通信が入ったことで一気に解消されることになったのだ。
《マスター。《イヌワシ・チーム》のリーダー『ハルマ』と名乗る人物からの通信が入っております》
「なにっ!?」
(別チームだと?)
我が耳を疑うとはこのことだ。
コクピットの隣に座ったシンジョウも、いつになく目を見開いてこちらを見つめてくる。その目にも自分と同じ驚きの色が浮かんでいた。
今までこの時代に派遣されたチームはこの《ペンギン・チーム》だけだった。他のチームが派遣されたという話は聞いたことがない。
少し考えてから「つないでくれ」と返すと、すぐに張りのあるやや低音の女性の声が聞こえてきた。
女性はまず、お互いの身元確認のためのコードを提示し、所属を明かして来た。
《はじめまして。《イヌワシ・チーム》のハルマと申します。そちらは《ペンギン・チーム》リーダーのトラヴィス殿……いや、レシェント殿で間違いないか》
《間違いない。レシェントと呼んでくれ。今じゃそっちの方が慣れてるんでな》
《了解した。未来で色々と状況が変更した結果、急遽、我々がこちらへ来ることになった。詳細については会って話す。そちらで適当な場所を指定してもらえるか》
《了解だ。それじゃあ、以下のポイントへ──》
◆
《イヌワシ・チーム》とは、《神々の海》から遠く離れた海域にある、とある無人島で会うことになった。
相手の飛行艇──実際はタイム・トラベルが可能な機体なので、正式には「時間飛行艇」とでも呼ぶべきものだが──は、明らかにこちらの《イルカ》よりもはるかに上位機種のようだった。
シンジョウと二人でそちらにお邪魔する形になったのだが、ちょっと観察するだけでもわかった。内装といい装備といい、《イルカ》なんて足元にも及ばない感じだ。なんだか急に貧乏人になったような気がして、レシェントの気分はやや落ちた。ほんのわずかに。
が、もちろんそんなことを顔に出す自分ではない。
リビングルームらしき場所へ案内され、皆に紹介されたときには、とっくにいつものニコニコ笑顔になっていた。
「いやあ、よく来たな~こんなとこまで。お疲れお疲れ~」
舌はいつものように軽く回る。
対するあちらチームのリーダー、ハルマ女史は、いかにもお堅いクソ真面目女という感じだった。ごく慇懃な未来人式の一礼をされ、チームメンバーを紹介される。
当然ながら、あちらは七人全員が揃っていた。
ハルマ以外にも、小柄な女性が一人。あとはすべて男だ。屈強な奴もいればヒョロヒョロした青白い顔の兄ちゃんもいる。当然、「頭が切れる枠」なのだろうと思われた。兄ちゃんは「イェイツ」と紹介された。
イェイツはすぐに今回の火山噴火を誘発させるミッションについて説明を始めてくれた。
そうなのだ。なんと、あれはこの《イヌワシ・チーム》の仕業だったのである!
「事前にそちらに連絡できなくて済まない。《ペンギン・チーム》との連絡を取る前に速攻を計る必要があったもので」
「そこは理解してる。こっちにゃあディヴェのスパイもいることだしなー」
そうだ。あのリュクスがいた以上、不意打ちの作戦をこちらに知らせておくのは悪手だろう。
ハルマは「ご理解を感謝する」とまたクソ真面目に一礼して、今後の話を始めた。
レシェントとシンジョウにとって、それは驚くべき話の連続となった。
ディヴェたちの存在が確認され、あの「羽虫」のようなミニロボットの情報が未来に届けられたことを契機に、未来世界の状況は大きく変わりだしたというのだ。
レシェントにとって最も驚きだったのは、技術革新の結果《イヌワシ・チーム》の飛行艇には《イルカ》にはない未来世界への帰還モードが装備されていることだった。
(戻れる──)
すっかり諦めていた未来世界への帰還。
それが、この《イヌワシ・チーム》の機体でなら可能になるというのだ!
これには、いつもはクールなさすがのシンジョウでさえ驚きを隠しきれない様子だった。
「なにっ!?」
《アリス》がけたたましい警告音とともにそう告げたのは、それから数日後のことだった。
《こちらが現場の状況です》
「うおっ……」
コクピット・ルームに表示された映像には、天に黒々と湧きあがる噴煙の姿があった。
《アリス》に情報収集を命じ、小型の無人偵察機を飛ばす。シンジョウが直接出向こうと申し出てきたが、リーダーとして阻止した。わざわざ危険を冒して近づく必要はない。あれがただの噴火でないならなおさらだ。
あそこは異星生物ディヴェたちの本拠地。
どんな罠が待ち受けていないとも限らないのだから。
「ともかく、《アリス》。皇帝ちゃんに連絡だ。向こうが無事かを確認しろ。あと、俺らは無事だってこともな」
《了解いたしました》
だが、通信はなかなかうまく行かなかったようだ。理由はわからない。あの噴煙が自分たちの通信網のどこかを遮断したのかも知れなかった。
だとすれば「罠」である確率が濃厚だ。これは油断できない。
通信機能の回復にトライしつつも、しばらくはじりじりとした時間だけが過ぎた。皇帝ちゃんへの連絡は《アリス》がやってくれたのだが、通信障害がひどすぎてどこまで伝わったものか定かではなかった。
ところが。
その緊張は、とある驚くべき通信が入ったことで一気に解消されることになったのだ。
《マスター。《イヌワシ・チーム》のリーダー『ハルマ』と名乗る人物からの通信が入っております》
「なにっ!?」
(別チームだと?)
我が耳を疑うとはこのことだ。
コクピットの隣に座ったシンジョウも、いつになく目を見開いてこちらを見つめてくる。その目にも自分と同じ驚きの色が浮かんでいた。
今までこの時代に派遣されたチームはこの《ペンギン・チーム》だけだった。他のチームが派遣されたという話は聞いたことがない。
少し考えてから「つないでくれ」と返すと、すぐに張りのあるやや低音の女性の声が聞こえてきた。
女性はまず、お互いの身元確認のためのコードを提示し、所属を明かして来た。
《はじめまして。《イヌワシ・チーム》のハルマと申します。そちらは《ペンギン・チーム》リーダーのトラヴィス殿……いや、レシェント殿で間違いないか》
《間違いない。レシェントと呼んでくれ。今じゃそっちの方が慣れてるんでな》
《了解した。未来で色々と状況が変更した結果、急遽、我々がこちらへ来ることになった。詳細については会って話す。そちらで適当な場所を指定してもらえるか》
《了解だ。それじゃあ、以下のポイントへ──》
◆
《イヌワシ・チーム》とは、《神々の海》から遠く離れた海域にある、とある無人島で会うことになった。
相手の飛行艇──実際はタイム・トラベルが可能な機体なので、正式には「時間飛行艇」とでも呼ぶべきものだが──は、明らかにこちらの《イルカ》よりもはるかに上位機種のようだった。
シンジョウと二人でそちらにお邪魔する形になったのだが、ちょっと観察するだけでもわかった。内装といい装備といい、《イルカ》なんて足元にも及ばない感じだ。なんだか急に貧乏人になったような気がして、レシェントの気分はやや落ちた。ほんのわずかに。
が、もちろんそんなことを顔に出す自分ではない。
リビングルームらしき場所へ案内され、皆に紹介されたときには、とっくにいつものニコニコ笑顔になっていた。
「いやあ、よく来たな~こんなとこまで。お疲れお疲れ~」
舌はいつものように軽く回る。
対するあちらチームのリーダー、ハルマ女史は、いかにもお堅いクソ真面目女という感じだった。ごく慇懃な未来人式の一礼をされ、チームメンバーを紹介される。
当然ながら、あちらは七人全員が揃っていた。
ハルマ以外にも、小柄な女性が一人。あとはすべて男だ。屈強な奴もいればヒョロヒョロした青白い顔の兄ちゃんもいる。当然、「頭が切れる枠」なのだろうと思われた。兄ちゃんは「イェイツ」と紹介された。
イェイツはすぐに今回の火山噴火を誘発させるミッションについて説明を始めてくれた。
そうなのだ。なんと、あれはこの《イヌワシ・チーム》の仕業だったのである!
「事前にそちらに連絡できなくて済まない。《ペンギン・チーム》との連絡を取る前に速攻を計る必要があったもので」
「そこは理解してる。こっちにゃあディヴェのスパイもいることだしなー」
そうだ。あのリュクスがいた以上、不意打ちの作戦をこちらに知らせておくのは悪手だろう。
ハルマは「ご理解を感謝する」とまたクソ真面目に一礼して、今後の話を始めた。
レシェントとシンジョウにとって、それは驚くべき話の連続となった。
ディヴェたちの存在が確認され、あの「羽虫」のようなミニロボットの情報が未来に届けられたことを契機に、未来世界の状況は大きく変わりだしたというのだ。
レシェントにとって最も驚きだったのは、技術革新の結果《イヌワシ・チーム》の飛行艇には《イルカ》にはない未来世界への帰還モードが装備されていることだった。
(戻れる──)
すっかり諦めていた未来世界への帰還。
それが、この《イヌワシ・チーム》の機体でなら可能になるというのだ!
これには、いつもはクールなさすがのシンジョウでさえ驚きを隠しきれない様子だった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
俺と父さんの話
五味ほたる
BL
「あ、ぁ、っ……、っ……」
父さんの体液が染み付いたものを捨てるなんてもったいない。俺の一部にしたくて、ゴクンと飲み込んだ瞬間に射精した。
「はあっ……はー……は……」
手のひらの残滓をぼんやり見つめる。セックスしたい。セックスしたい。裸の父さんに触りたい。入れたい。ひとつになりたい。
■エロしかない話、トモとトモの話(https://www.alphapolis.co.jp/novel/828143553/192619023)のオメガバース派生。だいたい「父さん、父さん……っ」な感じです。前作を読んでなくても読めます。
■2022.04.16
全10話を収録したものがKindle Unlimited読み放題で配信中です!全部エロです。ボリュームあります。
攻め×攻め(樹生×トモ兄)、3P、鼻血、不倫プレイ、ananの例の企画の話などなど。
Amazonで「五味ほたる」で検索すると出てきます。
購入していただけたら、私が日高屋の野菜炒め定食(600円)を食べられます。レビュー、★評価など大変励みになります!
俺の小学生時代に童貞を奪ったえっちなお兄さんに再会してしまいました
湊戸アサギリ
BL
今年の一月にピクシブにアップしたものを。
男子小学生×隣のエロお兄さんで直接的ではありませんが性描写があります。念の為R15になります。成長してから小学生時代に出会ったお兄さんと再会してしまうところで幕な内容になっています
※成人男性が小学生に手を出しています
2023.6.18
表紙をAIイラストに変更しました
学祭で女装してたら一目惚れされた。
ちろこ
BL
目の前に立っているこの無駄に良い顔のこの男はなんだ?え?俺に惚れた?男の俺に?え?女だと思った?…な、なるほど…え?俺が本当に好き?いや…俺男なんだけど…
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
学園奴隷《隼人》
かっさく
BL
笹田隼人(ささだ はやと)は、お金持ちが通う学園の性奴隷。黒髪に黒目の美少年が、学園の生徒や教師たち、それだけでなく隼人に目をつけた男たちがレイプしたりと、抵抗も出来ずに美少年が犯されるような内容です。
じみ〜にですが、ストーリーと季節は進んでいきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる