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 その後、《イルカ》をステルス状態にしたまま《火の島》の周りを飛び回り、必死に情報収集したのだったが、すべてはムダに終わった。島の周囲には目に見えないシールドが張り巡らされてしまい、そこから内側にはどうしても入ることができなかったのだ。
 結局、最終的にシンケルスからペンダントによる通信が来るまで、レシェントはそこからイライラと丸ひと月間も足止めを食った。

《レシェント。聞こえるか。シンケルスだ》
「シンちゃんか!? マジでお前か? 無事だったかよ!」

 レシェントは文字通り、通信用のコンソールに飛びついた。

「ああ……よかった。マジで生きた心地がしなかったんだかんな、このクソボケが!」
《……ああ。すまない》

 男の声は相変わらず不愛想だったが、健康に問題がある風には聞こえなかった。
 実際はこの空白の期間で大変なことになっていたのを知るのは後日のことだ。

「んで? 皇帝ちゃんはどうした」
《ああ。まあ……無事だ》
「は? なんだよそりゃ」
 微妙なニュアンスに片眉が跳ね上がる。
「大丈夫かよ。ってかてめえ、一か月も何やってやがったよ!」
《え。一か月?》
「お。その声は……っと、だれちゃん?」

 聞きなれない青年の声がして、レシェントは首をかしげた。が、その理由はすぐに知れた。
 事態は驚くべき変化を遂げていたのだ。
 なんと《火の島》のあるじである異星生命体により、シンケルスは一度半死半生の目に遭わされたらしい。彼の命を盾に、奴らは皇帝ちゃんと取引をした。
 つまり、インセク少年の体を渡し、自分の意識をストゥルト皇帝のクローン体へ移されたというのだ!

「なんてこったよ……びっくりだな」

 さすがのレシェントも、最初はこれ以外に言える言葉が見つからなかった。その他の説明も咀嚼するのに多少苦労したものの、最後にはこう言った。

「んじゃ、そっちに向かやあいいんだな? 了解した。ペンダントの位置はアリスがいま確認した。いらねえ邪魔さえ入んなきゃあすぐにも着くぜ」





「ちくしょう、このやろ! 心配させやがって……!」

 「彼ら」が《イルカ》に到着するやいなや、レシェントはシンジョウを力いっぱい抱きしめた。力の入れ具合として、そこには多分に「心配させたことに対する意趣返し」が含まれていたことは認めよう。つまり相当、キツく抱いた。骨折させる一歩手前ぐらいまでには。

「てめえ、島で死にかけたってマジなのかよ。ったく無茶ばっかしやがって。結局、皇帝ちゃんに迷惑かけたってどーゆーこったよ、それのどこがボディーガードなんだこのクソボケ野郎が!」
「それについては一言いちごんもない。心配かけてすまなかった」
「謝りゃすむってもんじゃねーだろ! ほんと、てめえは皇帝ちゃんに感謝しろ。それからきっちり詫び入れろ!」
「もちろんだ」

 男は特に痛がる様子も見せず、どこまでもしれっとしていた。
 ひとしきりそんな遠慮のない「挨拶」をしてから、レシェントはあらためてその存在に目を向けた。

「んで。そっちのアンタが例の宇宙生物か」
「おやおや。ひどい呼び名だね」

 見た目はもとの「皇帝ちゃん」、つまりインセク少年そのものだ。だが、すでにその中身は不気味な異星生命体の意識になり果てていた。
 一瞥すればわかる。態度に仕草、目線や表情。なにもかもが元の「皇帝ちゃん」からかけ離れた、まったく別の生き物がそこに存在していたのだ。
 一応微笑みは浮かべているものの、それはまるでマネキンのそれのように無味乾燥なものだった。一見して普通の人間の笑みに見えないこともないのだが、しばらくすると奇妙な違和感が心をつかみはじめる。脳が警鐘を鳴らしはじめる。そんなタイプの異様な微笑みなのだ。
 生き物は自らを「異なる者ディヴェースム」と呼べと言った。だが自分はあっさりと一刀両断した。次の台詞ひとつで。

なげえ、『ディヴェ』で十分だ。はい決まりィ!」

 今や皇帝ストゥルトそのもの──ただし、すっきりと痩せて皮膚の状態も至極きれいな青年の姿だが──になった元少年は、非常にやきもきしている様子だった。シンジョウのことも心配だが、異星生物にのっとられたこの体のことも案じている様子だ。彼はこの体をもとの主人であるインセク少年に返してやりたいと切に願っていたのである。
 やがてこの生命体の口から思わぬ事実が告げられて、レシェントは目を剥いた。
 なんと《ペンギンチーム》にはずっと前からスパイが潜り込んでいたというのだ。
 すなわち──

「《リュクス》と呼ばれている個体には、実はこれまでずっとお世話になってきたんだよ」
「なんだって? ずっとってどーゆーこったよ!」

 まさに青天の霹靂だった。

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