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7 萌え袖

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「おっ。可愛いじゃん」
「かっ、かわ……?」

 シャワーを終えて出てきた二人を見て、思わず口をついて出たのはこれだった。いやしかし、本当に可愛い。きれいに汚れが落ちて髪が乾いているし、シンジョウが貸してやった未来式の服がまた、少しサイズオーバーで可愛いのだ。

「ちょい大きめなとこがまた可愛い。いわゆる《萌え袖》とか言うやつか? こりゃシンちゃんの趣味爆発だな」
「やかましい。このサイズしかなかっただけだ」
「へーへー。そういうことにしといてやんよ」

 ぎろりとこっちを睨んで答えたシンジョウを適当にいなす。
 シンジョウの方も、地上に降りているときの古代様式の衣服ではなく、未来人としての普通の服装に変わっている。レシェントとしてはこちらの方が見慣れた姿だが、皇帝ちゃんは物珍しそうに彼の姿をめつすがめつしている様子だった。
 レシェントそのまま、すでに食事を用意してあったテーブルへふたりをいざなった。 
 その後はシンジョウが「シンちゃん」呼びをやめろ、と少ししつこく食い下がるので、ちょっと面白くなって構っていた。

「なんだよ、いいじゃん。『シンケルス』って長すぎだろーがよ、めんどくせえ」
「それなら『ちゃん』も抜けばいいだろうが」
「やだよ~ん。つまんねえし」
「なにがだ」
「お前の楽しい反応が見られない」
「貴様……」

 男が拳を握りしめる。奥歯がキリキリ音を立てるのが聞こえるようだ。楽しくってしょうがない。吹きださないようにとあまり笑いをこらえているものだから、腹筋が痙攣して痛みを訴えるほどだ。
 そんなレシェントを見て、シンジョウの周囲の空気がさらに温度を下げていく。

「あっ、ああああのっ。た、食べていいのか? もう腹がぺこぺこなんだっ!」
「お? おお。もちろんよ。とっとと食いな」

 男の様子に慌てたらしい皇帝ちゃんが割って入り、その場はそれで終了した。
 今度は目の色を変えて食事にがっついている皇帝ちゃんを横目に、レシェントは心ひそかに決心していた。
 しばらくはこのネタで、せいぜいシンジョウをからかってやろうと。

 食事後、ようやくレシェントは皇帝ちゃんに自分たちの正体を明かすことになった。これ以上秘密にしておけるとも思えなかったからだ。また彼には、これから自分たちに大いに協力してもらう必要があるからだった。彼の強力なしに、例の《火の島》にいるのだろう謎の存在と渡り合っていくことは非常に難しいと踏んだのだ。
 もちろん、教えたことはごく一部だけだ。
 自分たちが未来から来た人間であること。未来の、いまにも滅亡しそうになった人類のため、禁忌を侵してまでも時を遡り、歴史を改変しに来たのだという程度のことだった。

 皇帝ちゃんは最初、ぽかんとしていた。まったく理解が追いつかなかったのだ。まあそれは当然だろう。
 それから心底驚いた。これもまあ当然だ。
 そして次第に、悲しそうな顔になっていった。特に、自分やシンジョウがもう二度と未来には帰れないのだと告げたときに。

(ふーん。なんか、ちょっとイメージ変わったなあ)

 説明しながら、レシェントは脳内で独りちた。
 今までの記録や、シンジョウたちからの報告、そして最近までの行動を見ている限り、この皇帝はもっともっと利己的で、非人間的なバケモノという印象だった。
 奴隷や捕虜など人間だとすら思っておらず、その命がどうなろうがどうでもいい。どこまでもどこまでも、「自分さえよければいい」という、そういう人間なのだと。そう思って来た。それはシンジョウも同じだったろう。

 たった一人のごく平凡な人間がとんでもない権力を持たされれば、こうなってしまうのもやむを得ない話だ。自分の手でつかみとったわけでもない大きな権益は、人の感覚を狂わせる。
 だが少年奴隷に落とされてからのこの人物は、ずいぶんと印象が変わってきた。特にシンジョウに対する態度が。

「まあまあ。皇帝ちゃんまで暗くなるこたあねえって。俺らが勝手にやってることなんだしよー」

 レシェントは敢えてけらけら笑って見せた。
 その後もあれこれと説明するうち、次第に皇帝ちゃんも話の内容をそれなりに理解してくれはじめた。彼自身の言葉で内容を言い直してくれたのだが、それを聞くと、ますますはっきりしてきたのだ。

(へえ)

 これはいい。彼が単なる愚鈍な皇帝ではない証拠だ。これまでは単純に、周囲の人々に恵まれなかっただけのこと。これからちゃんと目標を持って努力し、勉強していけば、十分すばらしい皇帝になりうる。そういう資質が垣間見える。
 彼は未来人の子どもでも知っているような素養を持たない、純粋な古代人だ。そのことを考えれば、むしろ素晴らしい頭の出来といえるのではないだろうか。だとすれば今後も大いに望みがある。
 希望があって悪いことはないのだ。

「そう、そうそう! なんだ皇帝ちゃん、ちゃんと賢いじゃ~ん? 相当甘やかされたダメ皇帝だって聞いてたからどんなアホ子ちゃんが来るのかって戦々恐々としてたんだがよ~。なんかおにーさん安心したわ、うんうん」
 
 そう思って心から褒めたつもりだったのだが、意外や本人には不評だった。
 少年はぷくうっと頬を膨らませ、じとっとした目でレシェントを睨みつけたのだ。その半眼になった目が、隣に座るシンジョウときれいにシンクロしている。

(……ぶくくっ)

 そしてまたレシェントは、腹の中に笑いを押し込めるのにひと苦労したのだった。

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