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2 はじめての椿事
しおりを挟む「なー、シンちゃん。これって、実質何度目のミッションなんだっけか」
《……すまない。俺も、かなり以前に数えるのを放棄した》
「ふはっ」
思わず吹き出した。
作戦中、《イルカ》の指令室兼リビングルーム。いまは自分一人だ。あとの二人は地上におりて活動中。すでにこれが何年も続いている。
「真面目に答えてんじゃねーや。ほんっとクソ真面目なー、シンちゃんは」
マイクの向こうで、男が憮然としたらしい気配がした。相変わらずこの男は面白い。だからついつい弄ってしまう。ほとんどレクリエーションみたいなものだ。
何度この時代に潜っても、何度こうして一緒にミッションに臨んでも、この男はいつもこのとおりのクソ真面目で融通が利かなくて、冗談が通じない男であり続けている……らしい。
「らしい」と言うのは、実際に経験したのは「この自分」ではなく、並行世界にいた別の自分であり、自分が知っているのはその何人もいた「過去の自分」の記憶と記録に過ぎないからだ。
考えすぎると、かなり妙な気分になる。症状がひどくなってくると、精神的にまずい状態になることも多いらしい。ゆえに自分は、敢えてあまり深く考えすぎないことにしている。リーダーがおかしくなってしまったら、困るのは《ペンギン・チーム》の仲間たちだからだ。
実際、過去に考えすぎて頭が変になり、このミッションから外されてしまったエージェントも何人もいる。いやむしろ、そういう奴の方が多い。というよりも、それが普通なのだ。あたりまえの人間なら。
このミッションを続けていくには、常人離れした精神力と判断力、そして場合によってはフィジカル面での能力の高さが求められる。その両方を十分に兼ね備えているのが、いま自分と交信中のこの男、シンジョウだ。
今回も武人として帝国アロガンスに潜入しているシンジョウ──いや、今は「皇帝づきの近衛隊隊長シンケルス」だ──は、恐るべき能力の持ち主だった。
未来世界では、全体的にみな体を使った活動、特に武術に明るい者は少ない。しかもエージェントに選ばれるのは、基本的に体に問題があり、子を為す能力のない者と決まっていた。そういう者たちの中で、シンジョウほどの能力を持つ者などほかには皆無だったのだ。
シンジョウは銃の扱いのみならず、一般的な武術、そしてここ古代世界で一般的とされる様々な格闘技や武器の扱いにも長けていた。それはひとえに彼の努力の賜物だ。
フィジカルのみならず、メンタル面でもかなり強い。冷静沈着でものごとに大きく動じず、必要なときに必要な判断を素早く下す能力もある。正直なところ、本当ならチームリーダーは自分ではなく、彼であるべきなのではと思ったことも一度や二度ではない。
しかしどうも、「他人とうまくやっていく能力」という点においてのみ、男は自分よりも劣っていたらしい。そうでなければ、地上に降りてあの困った皇帝の相手をしていたのは自分の方だったのかもしれない。
そんなシンジョウだからこそ、今回のイレギュラーな事態には驚きだった。
今回のミッションで、自分たちははじめての事態に直面したのだ。
つまり、アロガンスの皇帝ストゥルトと、性奴隷になった異民族の少年インセクの意識が交換されてしまうという事態に。
「まあ、とにかくびっくりだわな。なんでそーなったわけ」
《わからん。なにしろ情報がなさすぎる》
「だよなあ……」
こちらは《イルカ》から話すだけだが、あちらは基本、現地でよく使われるペンダントを模した通信機を使っている。大抵は夜中、他人に声を聞かれないように気をつけながらのことだ。ゆえに男の声は非常に低い。
「ま、こっちでも情報は集めてみっけどよ」
《ああ。よろしく頼む》
「んでどーすんの、シンちゃんは」
《近衛隊長として、皇帝のそばを離れないのは当然として。まずは中身が皇帝になってしまったインセク少年のほうを保護するつもりだ》
「ふうん? どうやって」
かくかくしかじか、と男が説明するのを、レシェントはにやにやしながら聞いていた。
《なんとかアテナ神への犠牲に捧げられるのだけは回避したが、このままでは戦利品として誰かの性奴隷にされてしまうだろうしな。できればインセクのために、もとの状態に戻してやりたい》
「なるほどね。んで? その奴隷になっちゃった皇帝ちゃん、えらい美少年なんだって?」
《……なにが言いたい》
男の声の温度が数度さがった。
「いやあ。お前がそんな、現地人のことを気にするのも珍しいなと思ってよ。さぞや可愛い子なんだろな~ってさ」
《ミッションには無関係な話だ。これ以上、このミッションに余計なファクターを持ち込みたくない。今回こそは成功させたい。それだけだ》
「ほ~ん?」
そうだろうか。本当に?
まああのシンジョウのことだ、確かにそれも嘘ではないのだろうが。
なんとなく、自分の勘が「それだけではない」と言う。
そして別に自慢じゃないが、自分はこの勘が外れたためしがないのである。
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