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序章
プロローグ
しおりを挟む「ね、フラン。ぼくらの使命って、なんだかわかる?」
透明な瞳が、ひたとこちらを見つめている。
吸い込まれそうに青くて知的なそれは、自分の兄のものだ。
人工のお日様に照らされて、短い銀髪がきらきら光る。
この兄はとても聡明で美しい。
「えーっと……。子供を生んで『セカイをツクル』ってことだよね? AIがいつも言ってるもの」
そうだ。それはもうほとんど毎日のように、あの「知育訓練室」で教えられていること。
「その通り。『世界を創る』。教科書どおりの回答だね。さすがはフラン」
小川の畔で水の綺麗な場所を探して手に掬い、それで口を湿らせながらアジュールがくすっと笑った。バカにしている風ではないが、ちょっとひっかかる言い方だ。
「なんだよ。じゃあ、ほかになんて言えばいいの?」
アジュールだって、自分と同じことを日々学んでいるだけではないか。自分以上の知識があるわけでもないし、経験だってさほど違わない。
ただ、自分とこの兄弟には、とある決定的な違いがあった。
見た目のことはもちろんだが、なによりも能力的なことで。
掬った水の雫が、彼の顎からすっとのびた白い喉へと落ちかかるのをぼんやりと見つめていたら、アジュールが妙な顔になった。
「……お前、ちょっと子供っぽすぎるんじゃないの」
「え? どういうこと」
ぽかんと口を開けていたら、濡れた手がぐっと伸びてきて、首の後ろをつかんで引き寄せられた。
「んっ……ん」
くちゅりと唇を塞がれる。
小川の水の味がして、フランは素直に目を閉じた。
「なに……アジュール。ねえ……んうっ」
近頃、この兄弟はやたらとこの行為を仕掛けてくる。
こんな、仕事中のちょっとした休憩時間ですらも、うかうかとはしていられない。
別にいやではないのだけれど、ゆっくりと舌まで絡められると下腹のほうで何とも言えない感覚が生まれ、じわじわと上がってきて、フランはどぎまぎするのだ。なんとなく、両足を擦り合わせてもじもじしてしまう。
「んん……アジュ……も、もう行かなきゃ」
ぐいと兄の胸を押しやると、氷みたいな薄青の瞳がほんの少しこちらを覗き込むようにしてから、すいと離れていった。
「……もうそろそろだと思うんだがな。まったく、お前はしょうがない」
意味不明のそんな言葉を残して、踵を返す。
その背にぶわっと白い光の塊が出現し、あっというまに巨大な翼を形成した。
「今日は外界の、C1地点の観測だったな。このところ微震が続いてる。そろそろ行くか」
「あ、うん……」
慌てて自分も、同じ形をした翼を背中に開く。
兄のあとを追うようにして宙に舞い上がると、一瞬で上空まで駆けあがった。
眼下に広がるのは、偽りの楽園の森。
中央部に銀色の球面を晒しているのは、自分たちの家であるドームだった。
「行くぞ」
「ん……」
互いに短く言いあうと、兄弟は翼で大きく空をかいて加速をつけた。
その時には、信じて疑いもしなかった。
いつか自分たちのもとに、可愛い子供たちが生まれてくること。
やがてその子たちに囲まれて、
「幸せだったよ」と笑ってこの地から去る日のことを。
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