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第四章 はじめてのよる
5 人狼として ※
しおりを挟む「おーい。しっかりしろー? ちゃんと歩けって、勇太」
「う~……」
さっきの行為の余韻でまだ少しふらついている俺の両肩を後ろから抱くようにして、凌牙は一緒にバスルームに入った。何度か「抱いてってやるぜ」と言われたんだけど、俺が必死で固辞したからだ。
だってそれ、明らかに姫だっこを指してるに決まってるもんな。そんなのぜってー拒否るに決まってんじゃん!
そこは手狭なアパートにふさわしい、とても小さなスぺ―スだった。いかにも古い建物らしく、壁はタイル貼り。それでも一応シャワーはついている。バスタブはそれなりの大きさだった。これは多分、凌牙が変身した状態でも使えるようにってことなんだろう。
凌牙は扉の前で無造作に全裸になると、俺の服もひょいひょい脱がせて中に入った。洗濯物は、すぐそばの洗濯機に一緒に放り込んで回し始めてしまう。
「いろいろ汚れちまったからな。体も一回洗おう。あと、ちょっとした下準備もいるしよ」
「し、下準備って……?」
俺は思わずぎくりとして、少し上にある凌牙の目を見返してしまう。凌牙はにっと笑っただけだった。
「ま、任せとけって」
言うなりシャワーを出し、適度に温度が安定したところで俺の体を洗い始める。
「い、いいって。さすがに自分でできるからよ!」
「ま、いいじゃねーかよ。洗わせろって」
「だっておまっ……変なとこ、さわるしっ……!」
「へえ? それってここのことか」
「うぎゃ! だからやめろってえ!」
胸やら股間やらをさらっと触られて、ほとんど悲鳴みたいな声が出る。慌てた声がちいさなバスルームに響いちまって、余計に恥ずかしい。凌牙がわざとらしく口の前に指を立てて「シーッ」と言った。
「一応、静かにな? ここ、かなり古いからよ。壁は薄いし、声とかわりとツーツーなんだわ」
「だったら触んな! バカ!」
そんなことをぎゃーぎゃー言いながらも、俺はまず全身を流された。凌牙は自分も頭からザッと湯を浴びる。
(うわ……)
その横顔を見て、またバカみたいに胸がドキンと跳ねた。
長めの髪や顎の先からぽたぽたと雫を落としている凌牙は、いつも見ているこいつとは違って見えた。
なんか……なんていうか。すごく色っぽいっていうか。
おふくろがよくCMなんか見ながら言う古風な言い回しを思い出す。「水も滴るいい男」。あれがめちゃくちゃ似合うっていうか。
うん。やっぱりこいつ、俺と同い年のはずがない。
前々から、どうかするとひどく大人っぽく見える奴だとは思っていたけど。なんか色々納得するわ。
「ん? なんだよ」
あんまりじっと見つめていたのを、凌牙にはすぐに勘づかれた。
「あんまり男前で見惚れてました~ってか?」
ふっはは、といつもの明るい笑声がバスルームに響く。俺は「ば、バッカ」と言って俯くのが精いっぱいだ。
「おーおー、耳、真っ赤。いいんだぜ? どんどん惚れてくれればよ」
「そっ、そーゆーんじゃねえっ」
「それか、こっちのがいいか?」
「えっ……?」
俺はびっくりして、いきなり変貌した凌牙の顔をぽかんと凝視してしまった。
そこには、一瞬であの銀色の毛皮をもつ人狼としての凌牙の顔が出現していた。毛皮がぐっしょり濡れてしまってはいるものの、それでもめちゃくちゃカッコいい。俺の大好きな白銀色をした狼の顔。
と、長い舌がべろっと俺の顔を舐めた。
「うわっ……んぐっ」
そのあと、口の中にぐいと舌を押し込まれる。人間よりはるかに長い舌は、俺の口の中を好きなように舐め回す。
狼のキスってこんな感じか。あったかくて、なんかめちゃくちゃ安心する。
「ん……んん」
凌牙の全身が、ほとんど毛皮に覆われている。俺はその太い首に腕を回してしがみついた。
しばらく、くちゅくちゅと口づけをかわす。
やっぱ、かっけえ。わんこ大好き。
「こっからはこっちでしてえ?」
ややくぐもった凌牙の声がして、俺は目を開けた。
「え? でも」
「やめといたほうがいいとは思うがな。特に最初は。ココの大きさの問題があるからよ」
言った凌牙の視線をたどって、俺は「ひえっ?」と情けない声をあげた。
だってそこ、元より二回りぐらいサイズがでかくなってたんだもんよ!
無理。無理すぎ! そんなのぜってえ入んねえ!
「だろ? 心配すんなって。いきなりそんな無茶しねえし」
「……ん。でも」
俺は凌牙を抱く腕に力をこめた。
「こっちのお前、俺……好き」
言って自分から、その口にちゅっとキスする。オレンジがかった金色をした狼の瞳が俺をじっと見つめ返している。
「ちぇっ。それもなんか複雑なんだよなあ」
そう言ったかと思うと、もう凌牙はいつもの人の姿に戻っていた。
ああ……なんか、残念だ。
「なあ。お前はどっちが楽なんだよ」
「あん?」
「だからさ。人の姿でいるのと、人狼でいるのと」
「そりゃ人狼だな。当然だろ? 人型のほうが、基本的には擬態なわけだしよ。人間の群れにまぎれるためのな」
「ああ……やっぱりそうなんだな」
「山奥にある人狼族の村なんかじゃあ、基本的にみんなこっちの姿だぜ」
「ふーん。あのさ」
「ん?」
「お前が楽なほうでいいよ。……さ、最初はちょっと怖いから人間のほうでお願いしたいけどさ。でも、あんま無理すんなよな」
ぼそぼそとそう言ったら、凌牙はにこっと笑ってくれた。
「ん。サンキュ」
と、凌牙がいきなりぐいと俺の腰を抱き寄せて、互いの腰をこすり付けるようにしてきた。
「あうんっ」
妙に鼻にかかった変な声が出ちまって、俺は慌てて自分の口を塞いだ。
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