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第一章 親友の正体は
6 お仕置き
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「むぐっ……こら、やめろ! ふぐううっ」
凌牙による「お仕置き」はしつこかった。
その日、部活が終わって一緒に電車に乗り、俺んちに帰りつくまで凌牙はぴったりとついてきたんだ。ただ俺は、まだ本当には知らなかった。そこにどんな意味が隠されているかをだ。
月齢はあの日から一周回って、だいぶ満月に近づいている。
凌牙は俺が「お前、もう帰れよ。こっちじゃねえだろ、家」ってどんなに言っても、聞く耳なんて持ってくれもしなかった。それでそのまま有無をいわさず俺んちの玄関に押し入るように入ってきて、俺を抱きすくめた。うちの両親は共働きで、まだ帰宅していない。帰ってくるのは、まだ一、二時間は先だろう。
玄関扉に俺の背中を押し付けて、凌牙は思う存分キスをしてきた。
「はん……うう」
顎をがしっと掴まれて、口をこじ開けられる。舌がぬるりと熱いものに絡めとられて、くちゅくちゅと吸われ、舐められた。
いやだ、いやだと言いながら、俺は本気で抵抗していない自分を認識している。
別にそういう気持ちを打ち明けたことはないけど、打ち明ける前にこんなにどんどん攻めてこられちまって、告白するどころじゃないし。なんの隙も与えてもらえない感じだ。
……そう。
本当は俺、べつにイヤじゃない。凌牙も俺も男だし、大事な友達だと思ってきたのはほんとだけど、こうやって「友達以上」のことをするのも不思議と嫌な感じがしないんだ。
それはもう、答えが出ているのと同じことで。
「りょ、……ん、もう……やめろって」
やっとのことで唇を離してもらって、凌牙の顔を押しのける。その手も声にもちっとも力が籠ってないことなんて、凌牙にはお見通しだったろう。
「なんでだよ。お仕置きだっつったろうが。今夜はこんなもんじゃ許してやれねえなあ」
「なに言って……んんっ」
シャツの上からくいっと乳首をこすられて、びくんと腰が跳ねた。
「それによ。今日は二日分、貰っとかなきゃだし」
「二日分……? なんでだよ」
「ん~。ま、あれだ」
「あれって?」
あれ、と言った凌牙の片手があがって、天井のほうを指さしている。実際に指しているのは、そこを突き抜けた空にあるものらしかった。
「明日。満月だし」
「……ああ」
ようやく合点がいった。
明日はこいつ、狼に変身してしまう日なんだ。うっかり満月を見てしまうと決定的な姿になっちまうみたいだけど、たとえそうでなくても体調はよくないらしい。単にまん丸い物を見るだけでもだいぶヤバいらしいし。
実はこの間のあれは、テレビのリモコンに手が当たった瞬間にニュース番組が映ってしまい、ご丁寧にもちょうど「今夜はきれいな満月で……」なんてやっていて、画面にでかでかと満月の映像が流れたのが原因だったらしい。災難だったんだなあ。
外に出さえしなきゃそんなにひどいことにはならないけど、ひとたび出てしまったら何が起こるかわからない。街中にはまん丸いものなんて、そこらじゅうにいっぱいあるからさ。
ということで、凌牙と仲間のウェアウルフたちは、その日は一日じゅう家に籠っているらしいんだよな。
「納得がいったところで、もうちょっとさせろ」
「な、納得したわけじゃ……んんっ!」
もう一回ふかく口づけをされて、頭の芯がくらくらしてくる。凌牙の舌は厚みがあってものすごく熱い。それが俺の口内を好きなように蹂躙していくにつれて、どんどん頭がぼんやりしてくる。
「んう……!」
上顎の裏が特にやばい。じゅるじゅるって舐められたら、背筋に電撃みたいなのが走る。口の端からお互いの唾液が混ざって零れ落ちる。
「お。半勃ちしたな」
「あうっ!」
凌牙の手がスラックスの上から俺の股間の状態を確かめて、俺はびくんとまた跳ねた。
「やめっ……バカ! このバカ!」
「バカバカうるせえ。恋なんてしたら、誰だってバカになる」
凌牙はゆるゆるとそこを扱くみたいにしながら、俺の耳に囁きを流しいれる。
「言ったろ? 人狼が人間の野郎に恋するなんざご法度だ。……そんでもこうなっちまった。バカにでもなったと思わなきゃ、やってらんねえ」
だからあきらめろ、と、ほとんど吐息みたいな声で囁かれたら、足の力ががくんと抜けた。
「ダメ……だ。バカ」
半分泣きそうになりながら、小さな声で反論する。
「なんでよ」
凌牙の声が少し低くなった。見ると眉間に皺が刻まれている。暗いせいで、いつもより余計に彫りが深くみえた。……男前ってこういう貌を言うんだろうな。
「順番が……ちげえ。……こんなの、やだ」
立っていられないので凌牙のシャツを両手でつかんですがりつく。
「順番? どういうことだ」
「だって俺まだ、言ってねえもん」
「ん?」
顔を見られないように、凌牙の胸にぎゅっと頭を押しつけた。もう蚊の鳴くような声しか出ねえ。
「好きだって……言ってねえ」
途端、凌牙がぴたりと止まった。
顔が凌牙の手で優しく挟みこまれ、ゆっくりと上を向かされる。
「……んじゃ。いま言えよ」
めちゃくちゃ優しい目と声だった。
胸のあたりにズクン、となにか重たいものが落ちてきて、急に声が出なくなる。
「なあ。……言えよ」
鼻先と鼻先がすりすりとくっつけられる。
俺はじっと間近にある凌牙の金色を秘めた目を見つめた。
それからそのまま、囁くようにそれを言った。
「……だよ。凌牙」
次の瞬間。
俺の身体は凌牙の腕にがっちりと抱きしめられた。
全身の骨が、バラバラになるんじゃねえかと思った。
でも俺は、はっきり聞いた。
凌牙がちょっと泣きそうな声で「ありがとな」って小さく囁いたのを。
凌牙による「お仕置き」はしつこかった。
その日、部活が終わって一緒に電車に乗り、俺んちに帰りつくまで凌牙はぴったりとついてきたんだ。ただ俺は、まだ本当には知らなかった。そこにどんな意味が隠されているかをだ。
月齢はあの日から一周回って、だいぶ満月に近づいている。
凌牙は俺が「お前、もう帰れよ。こっちじゃねえだろ、家」ってどんなに言っても、聞く耳なんて持ってくれもしなかった。それでそのまま有無をいわさず俺んちの玄関に押し入るように入ってきて、俺を抱きすくめた。うちの両親は共働きで、まだ帰宅していない。帰ってくるのは、まだ一、二時間は先だろう。
玄関扉に俺の背中を押し付けて、凌牙は思う存分キスをしてきた。
「はん……うう」
顎をがしっと掴まれて、口をこじ開けられる。舌がぬるりと熱いものに絡めとられて、くちゅくちゅと吸われ、舐められた。
いやだ、いやだと言いながら、俺は本気で抵抗していない自分を認識している。
別にそういう気持ちを打ち明けたことはないけど、打ち明ける前にこんなにどんどん攻めてこられちまって、告白するどころじゃないし。なんの隙も与えてもらえない感じだ。
……そう。
本当は俺、べつにイヤじゃない。凌牙も俺も男だし、大事な友達だと思ってきたのはほんとだけど、こうやって「友達以上」のことをするのも不思議と嫌な感じがしないんだ。
それはもう、答えが出ているのと同じことで。
「りょ、……ん、もう……やめろって」
やっとのことで唇を離してもらって、凌牙の顔を押しのける。その手も声にもちっとも力が籠ってないことなんて、凌牙にはお見通しだったろう。
「なんでだよ。お仕置きだっつったろうが。今夜はこんなもんじゃ許してやれねえなあ」
「なに言って……んんっ」
シャツの上からくいっと乳首をこすられて、びくんと腰が跳ねた。
「それによ。今日は二日分、貰っとかなきゃだし」
「二日分……? なんでだよ」
「ん~。ま、あれだ」
「あれって?」
あれ、と言った凌牙の片手があがって、天井のほうを指さしている。実際に指しているのは、そこを突き抜けた空にあるものらしかった。
「明日。満月だし」
「……ああ」
ようやく合点がいった。
明日はこいつ、狼に変身してしまう日なんだ。うっかり満月を見てしまうと決定的な姿になっちまうみたいだけど、たとえそうでなくても体調はよくないらしい。単にまん丸い物を見るだけでもだいぶヤバいらしいし。
実はこの間のあれは、テレビのリモコンに手が当たった瞬間にニュース番組が映ってしまい、ご丁寧にもちょうど「今夜はきれいな満月で……」なんてやっていて、画面にでかでかと満月の映像が流れたのが原因だったらしい。災難だったんだなあ。
外に出さえしなきゃそんなにひどいことにはならないけど、ひとたび出てしまったら何が起こるかわからない。街中にはまん丸いものなんて、そこらじゅうにいっぱいあるからさ。
ということで、凌牙と仲間のウェアウルフたちは、その日は一日じゅう家に籠っているらしいんだよな。
「納得がいったところで、もうちょっとさせろ」
「な、納得したわけじゃ……んんっ!」
もう一回ふかく口づけをされて、頭の芯がくらくらしてくる。凌牙の舌は厚みがあってものすごく熱い。それが俺の口内を好きなように蹂躙していくにつれて、どんどん頭がぼんやりしてくる。
「んう……!」
上顎の裏が特にやばい。じゅるじゅるって舐められたら、背筋に電撃みたいなのが走る。口の端からお互いの唾液が混ざって零れ落ちる。
「お。半勃ちしたな」
「あうっ!」
凌牙の手がスラックスの上から俺の股間の状態を確かめて、俺はびくんとまた跳ねた。
「やめっ……バカ! このバカ!」
「バカバカうるせえ。恋なんてしたら、誰だってバカになる」
凌牙はゆるゆるとそこを扱くみたいにしながら、俺の耳に囁きを流しいれる。
「言ったろ? 人狼が人間の野郎に恋するなんざご法度だ。……そんでもこうなっちまった。バカにでもなったと思わなきゃ、やってらんねえ」
だからあきらめろ、と、ほとんど吐息みたいな声で囁かれたら、足の力ががくんと抜けた。
「ダメ……だ。バカ」
半分泣きそうになりながら、小さな声で反論する。
「なんでよ」
凌牙の声が少し低くなった。見ると眉間に皺が刻まれている。暗いせいで、いつもより余計に彫りが深くみえた。……男前ってこういう貌を言うんだろうな。
「順番が……ちげえ。……こんなの、やだ」
立っていられないので凌牙のシャツを両手でつかんですがりつく。
「順番? どういうことだ」
「だって俺まだ、言ってねえもん」
「ん?」
顔を見られないように、凌牙の胸にぎゅっと頭を押しつけた。もう蚊の鳴くような声しか出ねえ。
「好きだって……言ってねえ」
途端、凌牙がぴたりと止まった。
顔が凌牙の手で優しく挟みこまれ、ゆっくりと上を向かされる。
「……んじゃ。いま言えよ」
めちゃくちゃ優しい目と声だった。
胸のあたりにズクン、となにか重たいものが落ちてきて、急に声が出なくなる。
「なあ。……言えよ」
鼻先と鼻先がすりすりとくっつけられる。
俺はじっと間近にある凌牙の金色を秘めた目を見つめた。
それからそのまま、囁くようにそれを言った。
「……だよ。凌牙」
次の瞬間。
俺の身体は凌牙の腕にがっちりと抱きしめられた。
全身の骨が、バラバラになるんじゃねえかと思った。
でも俺は、はっきり聞いた。
凌牙がちょっと泣きそうな声で「ありがとな」って小さく囁いたのを。
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