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第一章 親友の正体は
1 凌牙
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最初に凌牙を見たのは、高校に入学したときだった。
ずいぶん大人っぽくてワイルドな雰囲気の奴がいて、俺はてっきり「ああ、かっけえ先輩がいるなあ」なんて思ったもんだ。
ところが蓋をあけてみると、そいつは俺と同じ一年生の教室にいた。
月代凌牙。
そいつは俺のクラスメートだった。
横顔をチラ見している奴は俺だけじゃなかった。日本人ばなれした高い鼻。何となく野生の生き物を連想させるような鋭い眼差し。赤味がかった長髪は、染めているわけじゃないらしいけど、十分攻撃的に見えた。
それなのに、話しかけてくる奴に無意味に凄んだりなんてことはいっさいなく、むしろ笑うと急に眼が優しくなった。そのギャップが妙に目を引いた。
女の子たちの中には、あからさまに目のなかにハートを浮かべて嬉しそうにあいつに話しかけたり、遠巻きにして顔を赤らめ、こそこそと友だち同士でなにか言ってる子がかなりいた。
(うーわー。モテるイケメン、確定だあ)
俺は半分あきれつつ、そんな状況は万が一にも望めない自分のことをちょっと哀れんだぐらいだった。まあ、いつものことだしな。
十点中、せいぜい六点ちょい。べつにブサイクまではいかないと自負しているけど、背がちょっと高い以外はどこもかしこもせいぜい平均点でしかない俺は、小中学校と同様、予想どおりにクラスの男どものなかに埋没していた。
だから、その時はかなり驚いた。
「渡海、だっけ。なあ、部活なんにすんの」
最初にあいつから、こんなふうに話しかけてきたからだ。
俺は面食らって、しばらく返事ができなかった。
凌牙はなぜか、くん、と犬みたいに何かを嗅ぐようなしぐさをし、口の中で何かぼそっと言った。「くっそいいにおいする」と聞こえたような気がしたが、たぶん俺の耳のせいだと思う。
それから俺たちはサッカー部に入部した。
中学ではサッカー部がなくて、俺は地元のジュニアサッカークラブに所属していたからだ。
「サッカー部か。いいな。俺、走んの好きだし」
凌牙はにかっと笑って「俺もそこにする」と決めてしまった。
笑うと白い歯がやけにきれいだった。普通よりちょっと大きめの犬歯がまたかっけえ。こいつが笑うと、クラスの女子の視線が集中するのが肌でわかった。
俺が「月代」から「凌牙」にするのとほぼ同時に、凌牙も俺を「渡海」から「勇太」と呼ぶようになった。
凌牙は足が速くてアグレッシブで、意外と冷静で視野が広く、サッカープレーヤーとしては相当な才能を持っていた。なにより、スタミナが無尽蔵。俺は基本的に、凌牙に置いていかれないようにするだけで必死だった。
練習が終わると、俺はもうへとへとだった。なのに凌牙はまだまだ元気いっぱいで、なんだったらグラウンドをあと百周だって軽くこなしてしまいそうな勢いだった。
「うお~、腹減った。今日も駅前のお好み焼き屋いこうぜ。な? 勇太」
「えー。今月、行きすぎじゃね? 俺もう、こづかい厳しいんだって」
「なあんだよ。しょうがねえなあ。わかった、んじゃ俺、おごってやっから」
「えっ。マジ!?」
「マジマジ。ただし、お前だけだかんな!」
ぐいと肩に腕を回されてにかっと笑われると、それ以上拒否の言葉なんて出せなかった。俺だって凌牙のことは好きだった。高校で一番の友達だって思っていたから。
そんな元気な凌牙だったけど、月に一度はなんか用事があるとか言って部活を休むことがあった。学校そのものを欠席することさえあった。
「ちょっと風邪ひいちまって」なんて言ってることもあったけど、風邪のほうで裸足で逃げだしそうな凌牙のことだ。次の日にはけろっとして学校に来ていたし、なんとなく不思議な気はしていた。
俺が凌牙の秘密を知ったのは、ほんの偶然からだった。
結論からいうと、凌牙は俺ら人間とは根本的にちがう生きものだったんだ。
ずいぶん大人っぽくてワイルドな雰囲気の奴がいて、俺はてっきり「ああ、かっけえ先輩がいるなあ」なんて思ったもんだ。
ところが蓋をあけてみると、そいつは俺と同じ一年生の教室にいた。
月代凌牙。
そいつは俺のクラスメートだった。
横顔をチラ見している奴は俺だけじゃなかった。日本人ばなれした高い鼻。何となく野生の生き物を連想させるような鋭い眼差し。赤味がかった長髪は、染めているわけじゃないらしいけど、十分攻撃的に見えた。
それなのに、話しかけてくる奴に無意味に凄んだりなんてことはいっさいなく、むしろ笑うと急に眼が優しくなった。そのギャップが妙に目を引いた。
女の子たちの中には、あからさまに目のなかにハートを浮かべて嬉しそうにあいつに話しかけたり、遠巻きにして顔を赤らめ、こそこそと友だち同士でなにか言ってる子がかなりいた。
(うーわー。モテるイケメン、確定だあ)
俺は半分あきれつつ、そんな状況は万が一にも望めない自分のことをちょっと哀れんだぐらいだった。まあ、いつものことだしな。
十点中、せいぜい六点ちょい。べつにブサイクまではいかないと自負しているけど、背がちょっと高い以外はどこもかしこもせいぜい平均点でしかない俺は、小中学校と同様、予想どおりにクラスの男どものなかに埋没していた。
だから、その時はかなり驚いた。
「渡海、だっけ。なあ、部活なんにすんの」
最初にあいつから、こんなふうに話しかけてきたからだ。
俺は面食らって、しばらく返事ができなかった。
凌牙はなぜか、くん、と犬みたいに何かを嗅ぐようなしぐさをし、口の中で何かぼそっと言った。「くっそいいにおいする」と聞こえたような気がしたが、たぶん俺の耳のせいだと思う。
それから俺たちはサッカー部に入部した。
中学ではサッカー部がなくて、俺は地元のジュニアサッカークラブに所属していたからだ。
「サッカー部か。いいな。俺、走んの好きだし」
凌牙はにかっと笑って「俺もそこにする」と決めてしまった。
笑うと白い歯がやけにきれいだった。普通よりちょっと大きめの犬歯がまたかっけえ。こいつが笑うと、クラスの女子の視線が集中するのが肌でわかった。
俺が「月代」から「凌牙」にするのとほぼ同時に、凌牙も俺を「渡海」から「勇太」と呼ぶようになった。
凌牙は足が速くてアグレッシブで、意外と冷静で視野が広く、サッカープレーヤーとしては相当な才能を持っていた。なにより、スタミナが無尽蔵。俺は基本的に、凌牙に置いていかれないようにするだけで必死だった。
練習が終わると、俺はもうへとへとだった。なのに凌牙はまだまだ元気いっぱいで、なんだったらグラウンドをあと百周だって軽くこなしてしまいそうな勢いだった。
「うお~、腹減った。今日も駅前のお好み焼き屋いこうぜ。な? 勇太」
「えー。今月、行きすぎじゃね? 俺もう、こづかい厳しいんだって」
「なあんだよ。しょうがねえなあ。わかった、んじゃ俺、おごってやっから」
「えっ。マジ!?」
「マジマジ。ただし、お前だけだかんな!」
ぐいと肩に腕を回されてにかっと笑われると、それ以上拒否の言葉なんて出せなかった。俺だって凌牙のことは好きだった。高校で一番の友達だって思っていたから。
そんな元気な凌牙だったけど、月に一度はなんか用事があるとか言って部活を休むことがあった。学校そのものを欠席することさえあった。
「ちょっと風邪ひいちまって」なんて言ってることもあったけど、風邪のほうで裸足で逃げだしそうな凌牙のことだ。次の日にはけろっとして学校に来ていたし、なんとなく不思議な気はしていた。
俺が凌牙の秘密を知ったのは、ほんの偶然からだった。
結論からいうと、凌牙は俺ら人間とは根本的にちがう生きものだったんだ。
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