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1. 異世界デビュー

町歩き2 ひと休み

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 はあ。

 いい天気やあ。

 子供もそれなりに居て、皆の笑顔が眩しい。

 このまま寝てしまいそうだけど、言ったそばからそんな危険な事はしたくない。危険は極力回避。追い剥ぎに狙われてるかもしれないし。


 折角の心地よい酔いを直ぐに覚ましてしまうのは勿体無いからまだエリクサービールは飲みません。

 更に飲むのかよって気もしなくもないけど、ノンアルエリクサービールを口の中に少量製造してやるだけで済んでしまうお手軽回復術。なんと素晴らしいユニークスキルなんでございましょう。まだちょっと酔ってます。

 身体強化と光魔法の補助魔法は絶賛発動中。それは忘れない。そのお陰で酒にも強くなってるみたい?


 こうやって平和を感じながら過ごせるのも悪くない。魔物が居る世界とは思えない。まだ見てないし、恐怖体験もまだ。出来れば避けたい事案だが、そのうち何かしらの事件は起こるだろう。

 しっかり意識しておかないと。速攻で殺られてジ・エンド。なんて御免です。殺られる時は何をしても殺られちゃうとは思うけど。


 平和やなあ。

 ざっと広場を眺めてみる。

 広場と言っても噴水は無い。井戸はある。

 生活用水として使っているのだろう。一般的なやつだった。こっちでは。手押しポンプまで付いてるから、魔法だけに頼らず、ある程度の技術も開発されて浸透している事が分かる。

 簡単には知識無双はさせてくれない世界でもあると。技術系の知識は中途半端なものが多いから、挫折しちゃいそうでやれないと思う。錬金術師と組めれば変わってくるかもしれないけど。


 錬金術師は有能で貴重な人材。国の経済を大きく左右するだけでなく、色んなファンタジーグッズ、魔道具も作れてしまうから、それこそ基本は国が囲ってる。

 だから一介の行商人と組むなんて考えられません。そもそも1度も行商してない俺との接点はない。あっても面倒そうな事はしたくないけど。

 それが仮にとっても可愛くて、俺の事を本気で好きになってくれるような奇特な方で、自由に過ごさせてくれるならいいのにな。なんて妄想の中で楽しむだけで精一杯。

 錬金術師に関する一般知識はそれ位。会えたら嬉しいね。


 おっと、そうだった。会えたら嬉しいねで思い出した。

 尾も白い話の件。ちょっと違った。面白い話の件だった。ドワーフの鍛冶屋、ドノバンが言っていた話。さっき途中で止めたやつ。


 この町を出て一直線に西に進むと、『迷いの森』があり、『面白い狼』が出るらしい。屋台で売ってた、焼かれてた肉のホーンウルフでは無いらしい。

 どうせ尾も白いってオチでしょ。なんて思って聞いてたんだけど、どうも違った。でもやっぱり尾も白いみたいだけど。

 全身白い狼なんだから当たり前。

 他の動物や魔物と違うのは、どうやら酒の匂いに反応する狼らしい。実際に見た事がある人は少ないが、ドワーフの間では有名らしい。酒が絡む話だけに。


 真っ白の狼ってだけでも珍しいのに、群れる事なく、人間を襲わないって事でも知能が高く賢いのは分かるが、更に酒に興味を示すなんて普通じゃない。面白いだろう。と言う話。

 だから西の迷いの森へ行く事があれば、ヤツに遭遇する可能性がある。

 テイムされてる訳でもないっぽくて、人懐っこいとまではいかない。半端なくヤバイ雰囲気を漂わせてるから魔物だとは思うが、人を襲う事もないみたいなので、そこまで警戒する必要もない。

 迷いの森って名前は付いてるが、不思議と魔物は出ない森。でもヤツだけは出ると。だが、必ずって事でもないらしく、出る時と出ない時もあると。不確定要素もある存在。


 最後には、

『野営や移動中に酒を飲まなければ出てくる事はないはずだが、恐らく飲むんだろ? だから話しておいた。出て来る可能性はあるからな。

 だが、白いヤツなら大丈夫だ。慌てて攻撃したりしないようにな。そんな気も起きない位にはヤバイ雰囲気が漂ってるらしいから、その心配もないかもしれないが、それでも一応、な』

 なんてちょいとツンデレ入れて教えてくれた。ドノバンは遭遇した事はないらしい。

 不確定要素もあって、怖がらせる為の出る出る詐欺なんじゃないかとも思ったけど、ドワーフ嘘吐かない。なんて原始人みたいな言い方はしなかったけど、基本的にはドワーフは冗談は好きだが嘘は吐かない。らしい。


 これは、所謂フラグってやつ。

『行く事があれば』って事は、『行けよ』って事。
『飲むんだろ?』って事は、『飲めよ』って事。
『攻撃しないようにな』って事は、『攻撃しろよ』って事?

 最後だけ疑問系。

 なかなかのフラグだ。やってくれる。これは偶然だと思うが、マジで西へ向かおうと思ってた。これマジで。だからちょっとゾッとしたけど、こんなフラグ話まで出て来たからには行かなくちゃ? って思ってたりする。


 恐らく、ファンタジー的に解釈すると、妄想すると、迷いの森には何かがある。人が簡単に入って来れないような大仕掛け。守る為なのか隠す為なのかは分からない。

 で、白い狼って言ったら、フェで始まるやつが思い浮かぶ。フェラじゃない。普段なら直ぐにそれが思い浮かぶけど、今は違う。


 相当にヤバイ雰囲気を漂わせてる魔物とはちょっと違った知能持ちで、ファンタジー的な白い狼と言えば?

 ならばただの魔物ではなくて、神獣って事になるのだろう。この世界では。

 神話に登場する神々に災いをもたらす怪物の方だったら嫌だけど、湿地に棲む者、地を揺らす者なんて言われてたりもしたけど、そうではないっぽい。

 酒の匂い反応してやって来るだけに、酒の匂いに釣られる者。この世界ではそう伝えられて行くのかもしれない。


 神話の時代から、得てして神と名の付くものには酒好きが多かった。それも言い伝えとかだけど。

 これは俺のこれまでの知識、妄想と一致する。でも、行くか行かないかは、やっぱり俺次第。多分行く事になると思う。危険じゃないなら面白そうだから。会えるか会えないかも、俺次第?


 さ。落ち着いた所で移動しましょうか。

 目指せワイナリー直営屋台。ワインの仕入れ。いや。自分用かな。簡易アイテムボックスの容量と金が許す限り、買って買って買いまくりたい。

 保存状態は一定の安定した環境なんだから、時間経過しても逆に有り難いし、いくら仕入れても売れる事は間違いないし、売れなくても俺好みの味なら俺が生涯掛けて飲んで行けばいい。

 ああ。なんて素晴らしい発想。こんな世界でありがとう。

 何種類か購入する予定です。色んな味があっていい。何樽収納出来るかな?


 ……

 ……


 そんなに甘いものじゃなかった。味じゃない。あの素晴らしい発想の件。俺は馬鹿だった。樽買いなんて男のロマン、そんなの許してくれるはずがなかった。

 そもそも魔物の居る世界でこれだけの量の葡萄を確保するのも凄いと思うけど、生産拠点は全国各地にもあって、それをまとめている組織、ギルドに依って管理もされているそうだ。

 だから俺が思ったような夢のような取り引きなんて一行商人には不可能。パトロンになって投資し続ければ別だろうけど。俺にはそんな権利も金もない。

 小さな村や個人的に作ってる人なら分からないけど、それも商売になるような量の確保は難しいだろう。

 しかも、またしてもそもそも論の販売価格も安いから、売るにしても安くは売れないと。大量に買ってくれたら少しサービスする位が関の山。かと言って、それだけの量はここには無い。


 それに、樽は財産。使えば使い込むほどほど価値が上がる。そんなの一見さんに売ってくれる訳がない。

 俺と同じ様な事を考える酒好きが多い世界。その代表がワイナリー関係者。当然か。


 生活の為には、より良いワイン作りの為には、求める人に売るのが商売。だが、出来れば自分達で飲みたいとも考えるのが酒好きの生産者。

 それなりの量は作ってるけど、貯蔵して熟成させる事でも楽しめる飲み物。それがワイン。その過程も楽しいし、結果はやっぱり素晴らしい。


 外れは外れで使い道はある。でも売るのは少しだけ。一見さんには尚更で、既に卸し先やお得意様は居て、支えられているって事もある。

 趣味の範囲でやってる人も居るみたいだけど、それなら自らの目の届く範囲で多くの人に喜んで飲んでもらいたい。なんて事情もありまして、思ったようには買えませんでした。


 そりゃそうだ。直販した方が儲かるし、売る事自体を楽しめるしやる気にも繋がる。そもそも粗悪品でもない限り売れない事はない世界。

 ならば売ってもらえる範囲で購入するしかない。こういう知識はこの世界の『一般教養・一般常識』に無いのが辛い。やはり自分で学んで行くしかない。


 東西南北それぞれに違ったマークの生産者が出店してたから、最低でも4軒は回れるって事。だから行ったのです。

 それぞれに良い顔して、それぞれに良い所を褒めたりして。出来る限り沢山売ってもらえるようにヨイショして。


 瓶にして、合計32本。渋かった。やはり俺の力不足は否めなかった。全部自分で飲んでやる。事もないか。

 値段は、……。忘れた。瓶も分けてもらったから安かったような、納得なような。買えたからよしとします。それぞれに違ったから面倒なだけ。


 疲れた。もう暫くすると日が落ちて来そうだから宿に戻ろう。
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