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1. 異世界デビュー

町歩き2 鍛冶屋

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 雑貨屋を出て町ブラ再開。

 町外れに向かって行進中。

 俺の勘が告げる。いい流れの時にはいい発見がある。事が多いけど、一転、真逆の仕打ちを受ける事もある。

 気を付けろ。

 それはいつもか。


 やっぱり、ドワーフって職人さんが向いてるだけに、武器屋とか、防具屋とか、鍛冶屋とかなら間違いないんじゃないかと思われる。

 取り敢えず、仕入れの目的もあるから、武器、防具屋は後回し。買うつもりはないけど、覗いてみるつもりはある。

 実物を見るって大事だし。やっぱりファンタジーの世界に来たのだから、向こうの世界じゃ有り得ない本物の武器や防具は直接見たい。


 誤ってぶつけちゃうと簡単に壊れちゃうプラスチック製品や、刃物が付いてない光るだけの玩具とは違うのだよ。

 ポリカーボネートの盾は持った事があるけど、ネーミングの由来は、警察が使うからじゃない。警察の車がボネートするからでもない。ボネートって何? 分からない。

 ポリをカバーしねえと。って所から来たんじゃないって事は知っている。

 ……


 そんな興味本位なだけに、やっぱり後回し。全く関係ない話でも、独りで歩いてる時に気を紛らわすには丁度いい。フラグを立てないようにするにはこれがいい。


 おっと。ここか?

 ここなら居てくれるかな?


『鍛冶屋』


 店名は、……。

 ここも無い。のかな。うん。無さそうだ。

 看板は、炎の中に金槌がデザインされている。

 でもこれって、ただ炎の中で金槌が燃えちゃってるんじゃね? って感じ。でも言わんとする事は理解出来るから、そこには突っ込まない。敢えて言う事もないだろうし。


 鍛冶屋って、火事やー。って感じに熱気が出てるイメージだったけど、煙も見えないし、音もしない。休みかな?

 それなら仕方ないけど、『closed』とか『お休み』とか『閉店』とか。表示は何も無い。表示の仕方でも個性が出て面白いのに。

 チャレンジするだけしてみよう。扉が開くか開かないか。それは力を入れてみないと分からない。


 さあ。今回はちゃんと用件はあるぞ。昨日のポーション専門店のように、乗りで入る訳じゃない。

 鍛冶屋なんだから、色んな物が置いてあるのだろうし、何かと仕入れるつもりで訪問する予定。

 あるかどうかは分からないけど、農具とか、包丁とか、メンテナンスキットなんかを仕入れたいとは思ってるから、あったらいいなって感じで入ってみる事にします。

 どうだ。これなら怪しくないだろう。まさか、ただドワーフに会いたいってだけで訪ねて来たとは思わないだろう。俺も成長しているのだ。この年でも。


 はい。どうも~。

 って感覚でそろりと扉に力を入れてみる。

 うん。開くな。

 このまま扉を開いてゆっくりと店へ入る。


 うん。鍛冶屋って感じ?

 開けた瞬間から奥の方でガンガンと何かを叩き付けるような金属音が聞こえてくるようになった。それと熱気もやって来た。火事やーって程ではないけど。


 奥に長い建物なんだろう。流石に見えないけど、外への防音対策、防火対策はバッチリって事か。

 こんな音させてたら、隣の店に大迷惑だろうし。ちょいと寂れた商店街の一角って感じだったけど、普通に両隣でもお店をやってたし。

 壁もそれなりに厚そうだけど、恐らくファンタジー的な方法で仕掛けがされているのだろう。さっきまで全く聞こえてこなかったはずだから。


 でも、それならお客が入ってくる店内もそれなりに対策しとけよな。って思うのは普通だろう。せめてそこの扉も閉めとけよって思う。店番もあるだろうから仕方ないのかもしれないけど。

 ああ。客が来てから閉めればいいんだな。俺の早とちり。ごめんなさい。

 さて。

 店番は居ないって事は、皆奥に行ってるのか、そもそも1人でやってるのか。可愛い受付嬢は居ないのか。

 これは大声出して呼ぶやつか? それとも暫く待ってから声を掛けるべき?

 最低でも音が止むタイミング位は計るべきだろう。それ位の気は使わないと怒鳴られそうなのはテンプレだろうし、それ位の心の余裕はある。

 ……

 ……


 やっぱり煩い。そして長い。

 鍛冶って職人芸だから、1度打ち始めちゃうと切りのいい所までやらないと熱が冷めちゃうって感じだったっけ?

 炎の熱と気持ちの熱を掛けてみた。

 集中して打つから、納得のいく所までは休めないし、品質的にも良くないって感じでもあったっけ? でもやり過ぎると鬱になっちゃうとか?

 打つと鬱。鬱に打つ! これはあまり上手くなかったか。さっきもか。

 まだかな。

 おっ?

 音が止んだ。か?

 ……


「おお。すまないな。誰か来た事は分かってたんだが、途中で止める訳にはいなかったからな」

 奥で来客のチャイムでも鳴るようになってたのだろうか。そう言って、突然、ぬうって感じで出て来た。

 思った通りの髭を蓄えたおっさんが。ちょっとびっくりした。


 ずんぐりむっくりで、それでいて体付きはがっしりとした筋肉質で、頭はもじゃもじゃで、話し方はちょっと大雑把な感じ?

 あと、偏屈で頑固者で物作りにめっちゃ拘る職人気質のハンマーがよく似合う親方って感じ?

 ザ・ドワーフ。

 俺の想像通り、よく観知った感じのお方でした。汗も凄いけど、タオルでがしがし拭きながら、更にがふがふ何かを飲みながらやって来た。

 多分、あれは酒だろう。酒であって欲しい。その方がドワーフらしいから。

 でも、やはり商売人でもあるからだろう。ある程度の妥協と協調は必要だから、優しい感じの第一声でした。ちょっとほっとした。良かった。


「いえいえ。突然やって来たのはこちらですから、気にしないで下さい。それより、もう良かったのですか? 仕事の邪魔をしてしまったようで申し訳ないです」

 取り敢えず下手に出るのが俺のスタイル。特に職人さんとかならこれ必須。

 拘りがある人間ってのは、やっぱり芯がしっかりしてる人が多いから、下手に媚びてもいけないし、上から行ってもいけない。対等なんて考えるのはまだ早い。

 あくでも下手から入りつつ、様子を見てこちらの態度を考える。

 付き合えそうな範囲ならいいけど、頑固過ぎても面倒だし、偉そうな奴は御免だし、頼り無さそうでも取り引きしたくないし。

 そこはやっぱり商人として見極めさせて頂きます。金を払う立場だし、商品を広める役でもあるし、これ位は普通だろう。どうしてもって事でもなければ、嫌な奴から物を買いたくない。


「お、おお。見ない顔だが、やけに気を使ってくれる奴だな。商売人か?

 こっちは切りを付けて来たから大丈夫だ。ありがとうよ。で。何の用なんだ?」

 おお。ビンゴかも。こういう応対好きです。あくまでも応対です。男は好きじゃない。

 つっけんどんな感じはするけど、しっかり優しさもあって感謝の言葉も入ってた。これは高評価。公表か?


「そうですか。それなら良かったです。私は行商人をやってます。この町は初めてで、仕入れに寄らせて頂きました。あっ。これギルド証です。モルトっていいます」

 すっと近寄りギルド証を提示。まずは信頼を得る。少しでも壁を薄くしたい。出来れば無くしたい。

 ……

 これが可愛い女の子なら、膜があったら破りたい。無くても挿入はしたい。勿論優しくしつつゆっくりと。ちょっと逸れた。狙いを外すのは危険だから注意しよう。色んな意味でも。

 ……

 偽造品じゃないですよ? そんなにじろじろ見なくても。ドキドキしてまうやろうが。

 惚れちゃう訳じゃない。悪い事はしてないのに。妄想で誤魔化してるけど。それくらいは許してね。

 身長はもっと低いと思ってたのに、俺とあまり変わらない? そんなごっつい体格した髭もじゃオヤジが、がっしがしの筋肉野郎が、ハンマーは持ってないからまだマシだけど、この近距離で、無言でギルド証を見てプレッシャー掛けて来る件。

 
 どうしろと?
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