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ーキイのエルフに捧ぐー
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なんでなんかようわからんけど、和歌山はどえらい餅まきの数多いんやて。
これが普通やったさかいなんもおかしいら思わんかったけど、ほれ、あれよ、なんとか県民性のなんとかいうテレビあるやして。
あれでね、やっとったさかいよ、ほうか、うっとこえらい餅まき多いんかい思たんでよ。
ぼくが地元の神社の餅まき行こか思てぽくぽく歩いとったらよ、道のはたに髪金色のね、なんや外人さんみたいな女の子うずくまって泣いとるんやして。
えらいびっくりしてよう。
「お嬢ちゃんどないしたんで」
そない声かけたら顔上げはって、もっぺんたまげたな。
目えの色ら翡翠みたいやして、肌の色ら南紀の男山焼みたいに真っ白や。
ぽろぽろこぼれとる涙はあとからあとからガラスみたいに結晶して、地べたに落ちると砕けて消えてしもた。
それに金色の髪から突き出てる長い耳。エルフや。
ロード・オブ・ダ・リングで見た。
「えらいもん落としてしもたん……」
和歌山弁やがな。
せやけどほっとかれへんさかい、ぼくはなるべくやさしく聞こう思た。
「なんぞ落としたんで」
「竜の涙……」
「竜の涙」
「キイエルフ皇位継承権の証にして世界の均衡を保つ霊宝なん……」
「なんてよ」
「あっこの神社でまく餅にまぎれてわからんようになってしもたん……」
「そら難儀なな」
「うちはキイエルフ皇国第四皇女のキノヒカリエルいうん。キノでええさかい。一緒に竜の涙探してくれはるのん。ほんまおおきによ……」
なんも手伝うたるらいうてへんけどなりゆきなんかしてまあしゃない。ぼくはワカタやと名乗ってとりあえず餅まき会場の神社へむけてキノとつれもてぽくぽく歩いてった。
「その竜の涙てどんなんなん?」
「まって、写メあるんよ」
「写メ」
「これや」
キノが取り出したんはまるでスマホやった。
ほんまはスマホとちごて魔法具の一種とかいうてたけど裏に「kii mobile」て書いてあったんはこの話と関係ないさかい置いとこら。
「これが竜の涙…?」
「せや」
「餅そっくりやな」
「餅そっくりや」
それはもうどっからどない見ても小っさい丸餅やった。
子どものころにじいちゃんばあちゃんらと一緒に臼と杵でついて丸めたんを思い出す。
餅つくんは三十一日やったら「一夜餅」いうてあかんのええ、あとなんでなんか二十九日につくのんもあかんのええ、いうてたんやったっけ。
「ほいでなにしとって紛れてしもたんよ」
「これからまく餅に魔力込めにきとったら落としてしもて、わからんようになったんよ」
「餅に魔力」
「せやで。和歌山の餅まき多いんは、うちらキイエルフが込めた魔力を分散させて世界の均衡を保つためなんよ」
「世界の均衡」
「竜の涙がないとうちは完全な魔力を出されへん。このままやと世界が滅んでまうかもわからん……」
「世界が滅ぶ」
そらえらい難儀やいうてぽくぽくぽくと慌てて神社向いて行った。
参道にかかると「瀬乃大明神」て書かれた白いのぼりがぎょうさん立ってて、人もようけ押しかけてきてる。
キノはフードをかぶって長い耳を隠した。
「ほいでどないやって探すのん?」
「餅まくときに、うちには魔力が光ってみえるんよ。竜の涙だけは色ちゃうさかいすぐわからしてよ」
「せやけどまいてしもたらでったいそれ取れると限らんで。どないするん?」
「二手に分かれよら。ワカタは餅ひらう係り。うちはまく係り」
「まく係り?」
餅まき会場となる境内にはすでに多くの和歌山人が詰めかけとった。
高なった拝殿の前にはやぐらみたいなんが組まれて、紅白の幔幕としめ縄が張り巡らされとる。氏子の人らやら商工会の人らやらが裃とか背広の上にはっぴとかの姿でニコニコしとる。
「キノさん、氏子とちゃうのにまく係りらできるんかい」
「氏子ちゃうけど毎年魔力込めとるよ! たのんだらいけるやろ」
そうキノが口を尖らせたとき、境内の端のほうからどす黒い気配を感じた。
素人の僕でもはっきりわかるくらいやから、こらただ事とちゃう。
「ネゴロード枢機卿……!? まさかこんなとこまで追ってきはるなんて」
キノが目を走らせた先には、摂社のお稲荷さんの赤鳥居に隠れるように漆黒の馬にまたがった黒ずくめの仮面の男がおった。これはよう目立つ。
「あっちゃにはコカワード辺境伯……! 竜の涙を嗅ぎつけてきはったんか……!」
反対側の忠魂碑が建っちゃある比較的人混みのまばらなあたりには、これまた漆黒の馬にまたがった漆黒の男が漆黒の仮面をつけてこっちゃを見てる。キャラを分けるつもりら毛頭なさそうでおとろしいこっちゃ。
どっちがネゴロでコカワかわからへんけどピンチなんやろうな。
「ワカタ、うちは早いことまく係りになって竜の涙を探す。わかったら合図するさかい、キャッチしてな!」
そう言い残すとキノはあっという間にやぐらの方へと走り去っていってもうた。
その動きを境内の端っこからネゴロード枢機卿とコカワード辺境伯がじいっと見てはる。
「おいやあぁぁぁん! うちもまく係りやらしてえぇぇぇ!」
「ええで。まくれんよう心得てのぼってきたってよ」
ええんや。あっけなくやぐらにのぼったキノは嬉々として、ローブの上から商工会のはっぴを着せられている。
その周囲に積まれた箱のどれかには竜の涙がまぎれてるんやろう。
そのうち神主さんが出てってお祓いしてくれはって、この辺では「行者さん」いうてる山伏さんらも出てって錫杖鳴らしながら読経が始まった。
うちらでは神さんと仏さんが近いさかい、一緒にお祭りするんも珍しなかった。
いつものように、なんやかわからんうちに餅まきが始まった。
そうらようっ! の掛け声で氏子さんらが投網を打つみたいに抱えた餅をばらまく。
放物線を描いて白やら紅やら、子どもら向けのお菓子の小袋やらが雨あられと降り注ぐ。
と、群衆が無秩序に荒れ狂う波濤となってうねった。
普段は温厚な和歌山人やけど、餅まきのときだけは修羅と化す。
老いも若きも男も女も関係あらへん。流血さえも厭わん狩人の本能を剝き出しにして餅へと殺到する姿は、県外の人らは控えめにいうても引くらしな。
「ワカタ! あったでえ! そっちゃ行ったわあ!」
もうきよった! キノが指さした先で落下してくる餅の一つが、うっすらと緑色に輝いてる気いする。もちろん青カビらとはちゃう。
ぼくは一目散に竜の涙めがけて走った。いや走ろうとした。
せやけど修羅の群れの圧倒的な力でもみくちゃにされて、足の甲はおばあちゃんに踏まれるわおばあちゃんの肘がみぞおちに刺さるわで命の危険すら感じる。
おばあちゃんものすごい力や。
ふと見ると、いつのまにか両側から押し寄せてきてたネゴロード枢機卿とコカワード辺境伯の黒い馬もわやくちゃになっとる。
このままやと馬刺しにされてまう。
と、修羅どもの指先に触れて、竜の涙がはねた。
ぼくは必死で手を伸ばしたけどすんでのところでまたはねて、人混みのはずれへと飛ばされてしもうた。
瞬時に二人の漆黒卿が馬首を返し、丸餅もとい竜の涙へと殺到した。
取られてまう! そう思った瞬間、その向こうの五輪塔の陰から純白の馬にまたがった純白の甲冑姿の純白の仮面の男が颯爽と現れた。色違いや。
「そこまでだ! ネゴロード枢機卿にコカワード辺境伯!」
「おのれクマノサンザントス! 生きておったか!」
「皇族特務の犬めが!」
三人の騎士は剣を抜き、二対一で激しく馬上から斬り結んだ。
刃金が撃ち合わさって火花が散り、その横では修羅の群れが降り注ぐ餅に躍りかかっている。
ふと見ると、目の前に竜の涙が転がってきた。餅まきではこれをラッキー餅と呼び、天の祝福を受けた者に与えられる恩賞と解釈されることかてあるんやして。
「ワカタ―っ! こっちゃ投げてぇぇぇ!!」
やぐらの上から叫ぶキノに、ぼくはめいっぱいの力で竜の涙を投げ返した。
放物線を描いてあやまたず届いたそれを受け取ったキノは、そのままぱくっとかぶりついた。食べるんかい。
するとどうやろう、辺り一面はやわらかな緑の光に包まれて、時間が停まったみたいに人々は動きを止めてしもうた。
ばらまかれた餅も空中に留まり、修羅の形相のおばあちゃんも力強く地を蹴った姿勢で固まっとる。
黒騎士二人と対する白騎士一人という色違い同デザインの男たちもおんないや。
ふうっ、と目の前にキノが浮遊するように降り立ってきた。
金色の髪がたゆたい、商工会のはっぴが風にはためく。
「おおひに。ひゅうひゃよ」
もっちゃもっちゃと竜の涙を噛みしめるキノは「おおきに。勇者よ」というてるらしい。ようわからんけど解決の方向の雰囲気やとわかる気いする。
「魔力が戻ったさかい、世界の滅亡は避けられたんよ」
「そら安堵したわ」
「もう行かな。次の餅まきが始まる」
「次の餅まき」
「また会おら、ワカタ」
「キノさん……どこ行ったら会えるんやろか」
「高野山……」
「高野山」
ふと気付くと、ぼくは神社の境内におった。
たくさんの人が集まってニコニコしとるけど、これから始まる狩りの興奮に身を委ねて牙を研ぎ澄ましてる。
なんか不思議なことが起こった気いするけど、なんやったっけ。
神主さんがお祓いを始めて、行者さんらが読経してはる。
そうらようっ! の掛け声でばらまかれた餅めがけて、ぼくも一匹の修羅になって踊りかかった。
これが普通やったさかいなんもおかしいら思わんかったけど、ほれ、あれよ、なんとか県民性のなんとかいうテレビあるやして。
あれでね、やっとったさかいよ、ほうか、うっとこえらい餅まき多いんかい思たんでよ。
ぼくが地元の神社の餅まき行こか思てぽくぽく歩いとったらよ、道のはたに髪金色のね、なんや外人さんみたいな女の子うずくまって泣いとるんやして。
えらいびっくりしてよう。
「お嬢ちゃんどないしたんで」
そない声かけたら顔上げはって、もっぺんたまげたな。
目えの色ら翡翠みたいやして、肌の色ら南紀の男山焼みたいに真っ白や。
ぽろぽろこぼれとる涙はあとからあとからガラスみたいに結晶して、地べたに落ちると砕けて消えてしもた。
それに金色の髪から突き出てる長い耳。エルフや。
ロード・オブ・ダ・リングで見た。
「えらいもん落としてしもたん……」
和歌山弁やがな。
せやけどほっとかれへんさかい、ぼくはなるべくやさしく聞こう思た。
「なんぞ落としたんで」
「竜の涙……」
「竜の涙」
「キイエルフ皇位継承権の証にして世界の均衡を保つ霊宝なん……」
「なんてよ」
「あっこの神社でまく餅にまぎれてわからんようになってしもたん……」
「そら難儀なな」
「うちはキイエルフ皇国第四皇女のキノヒカリエルいうん。キノでええさかい。一緒に竜の涙探してくれはるのん。ほんまおおきによ……」
なんも手伝うたるらいうてへんけどなりゆきなんかしてまあしゃない。ぼくはワカタやと名乗ってとりあえず餅まき会場の神社へむけてキノとつれもてぽくぽく歩いてった。
「その竜の涙てどんなんなん?」
「まって、写メあるんよ」
「写メ」
「これや」
キノが取り出したんはまるでスマホやった。
ほんまはスマホとちごて魔法具の一種とかいうてたけど裏に「kii mobile」て書いてあったんはこの話と関係ないさかい置いとこら。
「これが竜の涙…?」
「せや」
「餅そっくりやな」
「餅そっくりや」
それはもうどっからどない見ても小っさい丸餅やった。
子どものころにじいちゃんばあちゃんらと一緒に臼と杵でついて丸めたんを思い出す。
餅つくんは三十一日やったら「一夜餅」いうてあかんのええ、あとなんでなんか二十九日につくのんもあかんのええ、いうてたんやったっけ。
「ほいでなにしとって紛れてしもたんよ」
「これからまく餅に魔力込めにきとったら落としてしもて、わからんようになったんよ」
「餅に魔力」
「せやで。和歌山の餅まき多いんは、うちらキイエルフが込めた魔力を分散させて世界の均衡を保つためなんよ」
「世界の均衡」
「竜の涙がないとうちは完全な魔力を出されへん。このままやと世界が滅んでまうかもわからん……」
「世界が滅ぶ」
そらえらい難儀やいうてぽくぽくぽくと慌てて神社向いて行った。
参道にかかると「瀬乃大明神」て書かれた白いのぼりがぎょうさん立ってて、人もようけ押しかけてきてる。
キノはフードをかぶって長い耳を隠した。
「ほいでどないやって探すのん?」
「餅まくときに、うちには魔力が光ってみえるんよ。竜の涙だけは色ちゃうさかいすぐわからしてよ」
「せやけどまいてしもたらでったいそれ取れると限らんで。どないするん?」
「二手に分かれよら。ワカタは餅ひらう係り。うちはまく係り」
「まく係り?」
餅まき会場となる境内にはすでに多くの和歌山人が詰めかけとった。
高なった拝殿の前にはやぐらみたいなんが組まれて、紅白の幔幕としめ縄が張り巡らされとる。氏子の人らやら商工会の人らやらが裃とか背広の上にはっぴとかの姿でニコニコしとる。
「キノさん、氏子とちゃうのにまく係りらできるんかい」
「氏子ちゃうけど毎年魔力込めとるよ! たのんだらいけるやろ」
そうキノが口を尖らせたとき、境内の端のほうからどす黒い気配を感じた。
素人の僕でもはっきりわかるくらいやから、こらただ事とちゃう。
「ネゴロード枢機卿……!? まさかこんなとこまで追ってきはるなんて」
キノが目を走らせた先には、摂社のお稲荷さんの赤鳥居に隠れるように漆黒の馬にまたがった黒ずくめの仮面の男がおった。これはよう目立つ。
「あっちゃにはコカワード辺境伯……! 竜の涙を嗅ぎつけてきはったんか……!」
反対側の忠魂碑が建っちゃある比較的人混みのまばらなあたりには、これまた漆黒の馬にまたがった漆黒の男が漆黒の仮面をつけてこっちゃを見てる。キャラを分けるつもりら毛頭なさそうでおとろしいこっちゃ。
どっちがネゴロでコカワかわからへんけどピンチなんやろうな。
「ワカタ、うちは早いことまく係りになって竜の涙を探す。わかったら合図するさかい、キャッチしてな!」
そう言い残すとキノはあっという間にやぐらの方へと走り去っていってもうた。
その動きを境内の端っこからネゴロード枢機卿とコカワード辺境伯がじいっと見てはる。
「おいやあぁぁぁん! うちもまく係りやらしてえぇぇぇ!」
「ええで。まくれんよう心得てのぼってきたってよ」
ええんや。あっけなくやぐらにのぼったキノは嬉々として、ローブの上から商工会のはっぴを着せられている。
その周囲に積まれた箱のどれかには竜の涙がまぎれてるんやろう。
そのうち神主さんが出てってお祓いしてくれはって、この辺では「行者さん」いうてる山伏さんらも出てって錫杖鳴らしながら読経が始まった。
うちらでは神さんと仏さんが近いさかい、一緒にお祭りするんも珍しなかった。
いつものように、なんやかわからんうちに餅まきが始まった。
そうらようっ! の掛け声で氏子さんらが投網を打つみたいに抱えた餅をばらまく。
放物線を描いて白やら紅やら、子どもら向けのお菓子の小袋やらが雨あられと降り注ぐ。
と、群衆が無秩序に荒れ狂う波濤となってうねった。
普段は温厚な和歌山人やけど、餅まきのときだけは修羅と化す。
老いも若きも男も女も関係あらへん。流血さえも厭わん狩人の本能を剝き出しにして餅へと殺到する姿は、県外の人らは控えめにいうても引くらしな。
「ワカタ! あったでえ! そっちゃ行ったわあ!」
もうきよった! キノが指さした先で落下してくる餅の一つが、うっすらと緑色に輝いてる気いする。もちろん青カビらとはちゃう。
ぼくは一目散に竜の涙めがけて走った。いや走ろうとした。
せやけど修羅の群れの圧倒的な力でもみくちゃにされて、足の甲はおばあちゃんに踏まれるわおばあちゃんの肘がみぞおちに刺さるわで命の危険すら感じる。
おばあちゃんものすごい力や。
ふと見ると、いつのまにか両側から押し寄せてきてたネゴロード枢機卿とコカワード辺境伯の黒い馬もわやくちゃになっとる。
このままやと馬刺しにされてまう。
と、修羅どもの指先に触れて、竜の涙がはねた。
ぼくは必死で手を伸ばしたけどすんでのところでまたはねて、人混みのはずれへと飛ばされてしもうた。
瞬時に二人の漆黒卿が馬首を返し、丸餅もとい竜の涙へと殺到した。
取られてまう! そう思った瞬間、その向こうの五輪塔の陰から純白の馬にまたがった純白の甲冑姿の純白の仮面の男が颯爽と現れた。色違いや。
「そこまでだ! ネゴロード枢機卿にコカワード辺境伯!」
「おのれクマノサンザントス! 生きておったか!」
「皇族特務の犬めが!」
三人の騎士は剣を抜き、二対一で激しく馬上から斬り結んだ。
刃金が撃ち合わさって火花が散り、その横では修羅の群れが降り注ぐ餅に躍りかかっている。
ふと見ると、目の前に竜の涙が転がってきた。餅まきではこれをラッキー餅と呼び、天の祝福を受けた者に与えられる恩賞と解釈されることかてあるんやして。
「ワカタ―っ! こっちゃ投げてぇぇぇ!!」
やぐらの上から叫ぶキノに、ぼくはめいっぱいの力で竜の涙を投げ返した。
放物線を描いてあやまたず届いたそれを受け取ったキノは、そのままぱくっとかぶりついた。食べるんかい。
するとどうやろう、辺り一面はやわらかな緑の光に包まれて、時間が停まったみたいに人々は動きを止めてしもうた。
ばらまかれた餅も空中に留まり、修羅の形相のおばあちゃんも力強く地を蹴った姿勢で固まっとる。
黒騎士二人と対する白騎士一人という色違い同デザインの男たちもおんないや。
ふうっ、と目の前にキノが浮遊するように降り立ってきた。
金色の髪がたゆたい、商工会のはっぴが風にはためく。
「おおひに。ひゅうひゃよ」
もっちゃもっちゃと竜の涙を噛みしめるキノは「おおきに。勇者よ」というてるらしい。ようわからんけど解決の方向の雰囲気やとわかる気いする。
「魔力が戻ったさかい、世界の滅亡は避けられたんよ」
「そら安堵したわ」
「もう行かな。次の餅まきが始まる」
「次の餅まき」
「また会おら、ワカタ」
「キノさん……どこ行ったら会えるんやろか」
「高野山……」
「高野山」
ふと気付くと、ぼくは神社の境内におった。
たくさんの人が集まってニコニコしとるけど、これから始まる狩りの興奮に身を委ねて牙を研ぎ澄ましてる。
なんか不思議なことが起こった気いするけど、なんやったっけ。
神主さんがお祓いを始めて、行者さんらが読経してはる。
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別の小説サイトさんに投稿された時からの、お気に入り作品です。
初めて拝読した時には、個人的にスランプ(新米が生意気ですが、まあ、色々ありまして…)でして、
当時、あんまり元気がなかったのですが、
読みながら、文字通り床(畳)に転げ回って大笑いいたしました。
語り手の「ワカタ」君が、
時にベタなツッコミを、または時にはメタな状況解説を、
常に冷静な視点から繰り出すのが、何とも可笑しいです。
(こういう時、「関西のお方のセンスには敵わん…」と、素直に脱帽せざるを得ません)
「お姫さん」らしく、割とナチュラルに唯我独尊体質のキノ。
(またそれで結構何とかなってしまう辺りが…。実家のお城では、「台風の目」なんだろうなぁ)
出張って来たは良いものの、地元の方々の餅撒きに掛ける情熱と執念とエネルギーとを甘く見て、馬を馬刺しに(!?)されてしまう悪役連中…。
(お馬さんが可哀想…。そんな目先の利かない飼い主に飼われなければ良かったのに)
ちなみに、
「餅撒き」は実際、血沸き肉踊り骨砕くる(!!?)イベントでございまして。
私事になりますが、
我が幼少の砌(小学校低学年時だったかと…)に、
母の在所のお宮の餅撒きに紛れ込んだことがあります。
最初の内は、漫然と投げられるのを待っていたのですが、
各々、その身に宿す「獣性」を発揮する周囲の様子を見るに、ただ呑気にしていてはお餅は絶対に手に入らないと判断し、
何やら、幼いながらに、我が身の内の獣性にも火が点きました。
(正に「着火!」という感じでした。)
それからは、「幼獣」ながらに、我ながらなかなかにすばしこく境内を駆け回り、
お餅(やはり、一口大の丸餅でした)を、確か三個ほど手に入れたかと。
(後で母から
「アンタ、普段は本当に『日向の猫』みたいにぼけらっとしてるのに、ああいう時は…」
と、
感心されたのか、それとも呆れられたのか、
幼少の身には判別できない口調で言われました)
以上の記憶から鑑みるに、
「餅撒き」には、人間の身の内の「修羅」、或いは「飢獣の性」を呼び覚ます何かが、確かに存在する、…と愚考いたします。
和歌山の偉人…と言われると、ほぼ反射的に南方熊楠を思い浮かべますが、
熊楠の研究に掛ける原動力も、もしや…?
……等と妄想致します者でございます。
ご清聴ありがとうございました。
読んでくださってありがとうございます(*´ェ`*)
スランプの折だったとは存じませんでしたが、少しでも気散じのお役に立てたのでしたら幸甚です。
私もさっぱり書けなくなるときがありますが、自家中毒のようなものと考えてあまり追い詰めないよう努めています。
まずは笑っていただけましたら何よりです!