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第十章 追憶観桜
献杯の春
しおりを挟む『フレリアぁ、シよう。』
「何をですか…って、《剣精サマ》ではないですか。ご無沙汰しております。」
『そう、そう、それや。わいの惚れたんは、その笑顔や!』
フレリアはわいの言葉に首を傾げる。
かわいい! 好きだ!! いつか抱きたい!!!
わいは前世の記憶を振り返った。
わいの前世での記憶は、高3の夏までやった。
それ以降は受験勉強やら部活引退やら諸々あって、記憶の濃度が薄い気ぃがするんや。
それが、たった11ヶ月しか違わない癖にまだ高2で青春真っ盛りな弟がやっていたゲームで、わいの記憶はバラ色になった。
恋をしたのだ。
ゲームのヒロイン、フレリアに。
フレリアは、最終的には登場人物の男という男に抱かれる。
ロマンチックだったのは僅かで、酷かったり、激しかったり、変態チックだったり、性奴隷のようだったり、いろいろな方法でヤられ、喘いでいた。
でも、わいが好きになったのはエロシーンやない。その前の、相手役の男達と恋に落ちて、だんだんその気持ちを意識し、告白するまでの期間の、恋するフレリアに恋をしたんや。
それで、わいの成績は大変なことになった。
高3の夏休み直前、希望していた5番目の学校まで全てが圏外になった。
でもわいには、後悔などなかった。
フレリアの恋を見守ることだけが、わいの生きる希望やったからや。
でも、思えば《見守り方》があかんかったんやろう。
わいは、弟がプレイする画面の中のフレリアに恋をしていたから…
ある日、弟が言った。
わいのことを《キモい》と。
そんなに気になるなら、自分でゲームを買ってプレイしろと。
その日は朝からクーラーの調子が悪くて、室内は室外と同じくらい暑かった。
やから、たぶん弟もイラついていたんやろう。
どこからかナイフを取り出すとわいの胸をぷすりと刺し、そのまま引き抜いた。
弟は、あんなに震える手ではナイフを掴んでいられなかったのだろう。
その場にナイフを落とし、奇声を発しながら玄関を飛び出した。
わいは、その場で膝をつき、そのまま横に倒れた。
目の前には、わいの血の付いたナイフ。
もうダメだと思ったその時、わいの頭に走馬灯のように駆けたのは、フレリアと、一番応援していた《剣聖》と呼ばれていた攻略対象の騎士のスチル。
「生まれ変わったら、フレリアのいる世界に行きたい。《剣聖》と呼ばれる強い男になって、フレリアをあいつらから守りたい!」
『よし、その願い、儂が叶えてやろう。』
目が覚めたら、フレリアのいる世界で《剣精》になっていた。
──神様よ、《ケンセイ》違いやろうが!!!
わいがこの世界で最初に叫んだのは、この言葉だった。
で、それからウン100年…
わいはとうとう、フレリアに出おうた。
それにフレリアは、わいにキッスもしてくれた。
わいは《剣精サマ》の持つ様々な力を使って、フレリアを守った。
ケド、やっぱり実体をもっとらんのは不利や!
結局、将来の《剣聖》にフレリアを取られてもうた。
『フレリア、好きやで!』
「《剣精サマ》、まさか今日でお別れですの? フラグ立ってません?」
『わいは消えん! フレリアをイかすまでは!!』
「はぁ。でも《剣精サマ》、私をイかせてしまえば消えてしまうかもしれませんわ。でもそれは嫌。いつまでも、愉快な話し相手になってくださいませんと。」
『フレリア~! わかった。わいはフレリアをイかせん!』
「はい、言質、頂戴致しました!!」
『なんやと? でもイかせんでも、キスくらいはしたる!』
チュッ
「…んっ……あんっ! どこにキスしてるの!」
『あ・な』
「いやぁ~んっ!!!」
バシッ
『あう~っ』
フレリアのビンタは、今日も強烈だった。
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