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第一章 維新越しの恋文

鉾と火炮

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洋装の男は白刃をことさらの大上段に構え、隼人を見据えた。
蹴り上げられた草介は門のすぐ近くまで転がり、二人が担いできた振り分け荷の天秤棒に覆いかぶさってぴくりともしない。

「動かぬものを斬っても趣きがない。足掻いてみよ。言い残すことがあれば喚くがよい」

圧倒的有利から嬲るように言い放つ男の前に、隼人はゆっくりと立ち上がった。
幾度も蹴られて土埃にまみれた制服の肩口を、乾いた音を立てて払う。

「さても……さもしい者よ」

吐き捨てるような隼人の言に、男の顔色が変わった。
つんざくような奇声を上げながら目の前の郵便脚夫を両断しようと、大上段の手の内に力が入り剣先がわずかに背の側へと下がった。

その刹那、隼人は男に向けて踏み込んだ。
左、右、と滑るような足さばきから、振り下ろされる白刃の真下に沈み込む。
真半身の体勢で折り畳んだ肘が、男の水月に深々と突き刺さった。

「草介!」
「おうよ!」

それとほぼ同時に、いつの間に荷を解いたのか草介が天秤棒を隼人に向けて投げた。
洋装の男は硬い肘による渾身の当身を受けて、もんどりうって真後ろへと吹き飛んだ。

すべてがほんの一息の間のことだったが、我に返った他五人の男たちが匕首や長刀を手に襲い掛かってくる。
隼人は投げられた天秤棒を片手で掴むと、そのまま半円を描くように真横に薙いだ。
間近に迫っていた男の一人は横面を打たれて昏倒し、返す棒を逆手に握った隼人は突きくる次の男の小手を強かに打ち据えた。男はぎゃっと叫んで匕首を取り落とし、その場にうずくまった。

ひゅんっ、と天秤棒を半回転させて手元に繰り込み、隼人は剣術でいう中段に構え直して強烈な気を放つ。
瞬く間に仲間が倒され、気勢を削がれた残る三人は後ずさりをはじめた。

「はーさん、渡すの間違えた」

草介が自分の天秤棒を片手で構えつつ、小脇に抱えた細長い袋を隼人に示す。彼の天秤棒に括りつけられていたもう一つの荷だ。

「構わぬ。今は棒の方が適している」

と、後ずさりしていた男たちが何かに気付いたように急にしゃがみ込み、次の瞬間には手に手にピストルを持って隼人と草介に銃口を向けた。先ほど二人が差し出した護身銃を拾い上げたのだ。
凶漢たちが引き金を引いた。
が、弾は出ない。立て続けに撃鉄を起こしては引き金を引くが、ついぞ銃が火を噴くことはない。

「ハナっから弾ァねえよ!!」

銃を向けた男に、草介が天秤棒を振りかぶり躍りかかった。
隼人はもう一人の男の銃を払い、返す棒で水月に突き込んだ。
ほとんど同時に最後の一人が長刀で斬りかかってきたが、その真横をすり抜けながら棒尻で脇の急所を強打する。
男は声にならない声を発し、泡を吹いて崩れ落ちた。

「その辺でよかろう。死んでしまうぞ」

棒を振り回して凶漢を打擲する草介に、隼人が声をかけた。
が、そのとき鋭い銃声が鳴り響き、隼人と草介の足元に土煙が立った。

「なめおって……! 楽には死なさんぞ……」

最初に隼人から一撃を受けた洋装の男が息を吹き返し、両手に新たなピストルを構え狙いを定めている。
自身の武器として隠し持っていたのだ。
立て続けに銃声が鳴り響き、次々に二人の足元に弾が撃ち込まれていく。

「いかん!」

隼人が男に背を向け、草介の盾となろうとした瞬間――。
突如として屋敷の門が勢いよく開いた。
それと同時に、

「郵便、伏せよ!」

凛とした声が発せられ、隼人は反射的に草介に覆いかぶさるように地に伏した。

「放て!」

同じ声の号令直後、門の奥から幾つもの銃声が連続で咆哮し、数条の火線が洋装の男の周囲に突き立ってゆく。

「次弾装填」

よく響く号令に銃手たちは一糸乱れぬ動作で、素早く銃のボルトを操作して薬莢を排出した。直後には後部から弾を込めてもう一度ボルトを動かし、過たず狙いをつける。
あまりの轟音と火力に凶漢らはその場に釘付けとなり、完全に戦意を失った様子だ。

立ち込める硝煙の中で銃を構えているのは、隼人らの応対に出た者を含む女たちだった。
襷掛けの彼女らが成す銃陣の奥には、白髪をなびかせた老女が薙刀を小脇に、凛として佇んでいた。
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