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1章 パンツァー

シノブの実況配信5

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 なんとか危機を脱した俺は、
撮影を継続したまま安堵のため息をついた。

そして、俺は電脳リンクを使用し、実況配信中の月影シノブに言う。

『月影シノブ。落ち着いて作業を続けながら聞いて欲しい』

『どうされましたか?』

『君のパンツが見えそうだった』

『ひゃあぁ!!』

 彼女は、右手で苦無を研ぎながら、左手で尻を押さえた。器用な事が出来るんだな。

 俺が、そう思った瞬間――特大の頭痛に襲われた。

 鼻血がさらに流れ、心臓が早鐘を打つ。

 視界が狭まり暗くなる。

 これはマズイ。意識が遠のく……。

 これが、美少女のパンツを三度も見た代償なのか…??

『プ、プロデューサーさん? もう私のパンツは見えないですか?』

 という彼女の電脳リンクの声を聞き、俺は彼女の尻を見る。

 大丈夫だ。パンツは見えていない。

 そして、シノブの尻は良い形だ。

 しかし、俺の視界は急激に、にじんだ。

 いよいよヤバい。思考も出来なくなって来た……。

 朦朧とした意識の中、俺は彼女を安心させる為に、言う。
 後になって俺は「何でこんなこと言ったんだ!?」って後悔したが、仕方がない。
だって頭はフラフラ。鼻血はドバドバだったんだぜ?

 とにかく俺は、渾身の力を振り絞って、月影シノブに電脳リンクで発信した。

『安心しろ。シノブ……君のケツは……良い……ケツだ……』

『え!?私のお尻!?』

 と彼女が言ったと同時に、俺は後ろに倒れ、身体が宙に浮いた。

空中に取り残された鼻血は、深紅の弧を描いた。

「プロデューサーさん!?え!?鼻血!?」という月影シノブの声が聞こえた気がしたが……。

 俺の後頭部は、地面に激突し……。

 俺は完全に、意識を失った………。


――――

―――

――


【 万条ウメコ視点 】


 私が1Fの事務所で、書類作業をしていたところ、
地下の格納庫から、妹の月影シノブが、泣きながら駆け上がってきたの。

 彼女は、涙を流しながら叫んだわ。

「お姉ちゃん!!プロデューサーさんが!プロデューサーさんが!!」

 彼女のただならぬ様子に、私はデスクから立ち上がり、思わず彼女の本名を漏らす。

「どうしたの!? タケコ!!」

「や、やめて下さい! 私のダサい本名を叫ばないで下さい!」

 タケコ…じゃ無かった…シノブは泣きながら、続ける。

「そんな事よりもプロデューサーさんが!!
 配信中に私のお尻を見て鼻血を出して!脚立から落ちて!死んでしまいました!!」

「は?」

「ですから! プロデューサーさんが!私の脳内に直接『君のケツは良いケツだ』って言いながら、鼻血を出しつつ脚立から落ちて、頭からコンクリートにダイブして亡くなられたんです!!」

 そのシノブの話を聞いて、私は言う。

「……これは流石に『変態さん』案件ね。
 でも、シノブ?WABISABIでナユタ君のバイタルは確認したの?」
 
「あ!!まだです!!」

「じゃあ、早く、格納庫に行きましょう。理由は何であれ、放っておいて良い状況じゃ無いわ」

 そして、地下格納庫に着いた私は、鼻血だらけのナユタ君の口に耳を近づけて、呼気を確かめる。

「息はしているわ。少なくとも、死んでいないのは確かね」

 シノブが涙を拭いながら、安堵の表情で呟く。

「ああ……。良かったです……」

 私は、WABISABIをコールする。

「へい!WABISABI!! ナユタ君のバイタルを確認して!」

「はい。ウメコ様。 少々お待ちください……」

 直ぐにWABISABIから報告が上がる。

「ナユタ様の電脳に強大な負荷が観測された為、現在電脳がオーバーヒートし強制停止されています。
 しかし、人間の電脳は非常に高スペックである為、『常識的な使用の範囲内』では、このような状態には陥りません」

 私は、その事について一旦考えてから、WABISABIに質問する。

「つまり……ナユタ君は使ったのね? パンツァーを?」

「はい。そのように予測されます」

 シノブが私に聞く。

「パンツァーってもしかして……プロデューサーさんの『変態能力』……ですか?」

 私はシノブの質問を、一旦遮り、WABISABIに命令をする。

「WABISABI。シノブのさっきの配信の動画を再生して。
加えて、シノブのナノマシーン衣装を駆動して、ナユタ君の電脳の治療に充てて」

「かしこまりました。ウメコ様。 それでは、これより忍様の先程の配信を再生致します。」

 そして、私達の目の前にホログラムが現れ、シノブとナユタ君の撮った動画が再生された。

そこには、シノブが苦無を研ぐ様子が映し出されている……。

 でも、私は、その動画に違和感を覚え、停止させた。

「なるほどね?……ここね。」

 シノブが不思議そうに私の顔を見て言う。

「私が苦無を研いでるシーンですね? 何か変でしたか?」

「カメラの画角が急に変わるのよ。 もう一度再生するわ。見て頂戴」

 私は、問題のシーンを再生して、シノブに見せる。

 忍が言う。

「あ!本当ですね! 私の背中からの映像が、急に私の上からの映像に切り替わりました」

「カメラは1つしか無かったのね?」

「はい。もちろんそうです。 手作り感のある動画作りを心がけていますので」

「あなたの後ろに倒れている脚立は、撮影の最初からあったの?」

「あ!そういえば……この脚立は、最初は無かったですね。 おかしいな?これは、一体いつから?」

 私は、説明する。

「それは、彼が『パンツァー』を発動して動画の撮影中に、どこかから持ってきた脚立なのよ……」

 そして、私はシノブに「パンツァー」について説明したわ。
もちろん、今回の配信で彼の身に何が起こった事についても……。

 一通り、説明を終えたシノブは呟く。

「そう……だったんですね。 プロデューサーさんのパンツァー……本当だったんですね…」

「ええ。そうよ。 でも、彼自身、女の子のパンツは好きらしいけれど……」

 そして、シノブは倒れたナユタ君を見て、さらに呟く。

「しかも、パンツァーを信じて無かった私を…… プロデューサーさんは、2度も身を呈して守ってくれていたんですね」

「まあ、そうなるわね。」

 そして、シノブは丈の短いピンクの着物の裾をギュッと掴んで、俯いて顔を赤くしたの。

 その様子を見て、私は驚いて、シノブに聞く。

「シノブ……あなた、もしかして?」

「え?」

 と言って顔を上げたシノブは、頬を桃色に染めて、目は濡れたように潤んでいたわ。

だから、この時に私は、やっと気付いたの。あの子の感情に。

 おそらくシノブはまだ気づいていないけれど…。
私は、彼女の感情の変化に、本人よりも早く気づいたわ。
曲がりなりにも、シノブの姉だからね?

 でも、この事件のしばらく後に、シノブの感情が原因であんな事が起こるなんて、この時の私には想像も付かなかったけれど……。

 とにかく、シノブの感情の変化に気付いた私は、「ある決心」をし、彼女に言うの。

「突然だけどシノブ。 良い機会だから、私、あなたに言いたい事があるの」

「ど、どうしたんですか? お姉ちゃん? 藪から棒に…」

 私は、意識の無いナユタ君の髪をそっと撫でながら続ける。

「私、ナユタ君の事が好きかもしれないわ?」
 
 忍が目を真ん丸にして聞く。

「え?」

 そして、私はもう一度、念を押すようにシノブの目を見て言うの。
彼女が決して忘れないように。

「私ね。恋に落ちたかもしれないの。ナユタ君に」
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